新世界より、犬と鬼の古語り

アヌビス兄さん

序章 神輿と祭ちゃんの目覚め

第1話 三万年経った地球でこれからの事を考える少年少女

 面白い少年に出会った。

 実にどうでも良い事だったが、ふとそう思った。


「懐かしいな」


 なんてさ。

 自分が不幸だと思った事はなかったけど、運がないなとは思った。

何千年後か何万年後かが危ないから眠ってくださいと黒づくめの男達に麻酔銃を撃たれた。

 ほんと、何だろうねぇ。

 一応世界を救った英雄だったのに、また学校行きたかったのに……

 あいつ元気だったのかなぁ?


「ナツ……」

「その寝言、二十四回目ですね。神騎(じんき

「その呼び方はやめてくれないかな? 俺の名前は第十三代目桐生流抜刀術免許皆伝、桐生神輿きりゅうみこしだよ。まつりちゃん」

「それは、人間の時の事でしょう? 貴方は対星神用決戦兵器・神騎一号機、そして私はその貴方をサポートする人型可変兵装・イージス。祭ちゃんというのは貴方が勝手に私をそう呼んでるだけですよ」

「祭ちゃん、何度も言うけどそれはクソ昔3万年前の話だよ。もう俺等に命令する事が出来る連中もいないんだから。俺は神輿で君は祭、オーケー?」

「……御意」

「分かれば良し」


 神輿が生まれた時代、それなりに平和な時代だったのだが、なんの脈絡もなく突如世界に飛来した生物、星神。

 挨拶代わりに世界の主要都市を焼いて回った怪物達。


 それらと世界中は交戦を開始した。

 知能がある者、獣のような者、様々であった。

 それらは人間を遙かに凌駕した力を持っており、戦闘機やミサイル等の兵器による交戦で均衡を保たれていたかに思えたが、実際のゲリラ戦では全く歯が立たなかった。

 極限の戦局で人類は彼ら星神と対等に渡り合う力を持った処刑者を生み出す事にした。

 それが対星神用決戦兵器・神騎。

 世界中の国々の協力で星神は駆逐され、その残党狩りが神騎達の仕事であった。

 中には破壊される神騎もいた。

 その中でも神輿は最強クラスの力を持った神騎であり、自身もその自負があった。

 取り返しのつかないくらいの被害と損害と尊い命を失い人類はそれら星神との戦いに辛くも勝利した。


「しっかしまぁ、世界は変わるもんだねぇ」


 神輿は着流しを着て、腰には一降りの刀を下げている。

 短い黒髪にいかにも喧嘩が好きそうな顔つき、お供の祭は振り袖のような赤を基調とした着物をした金髪碧眼の美女であった。

 彼らは自分達が生まれた世界から遙か三万年後の世界で目覚めた。

 そこは地球という名の異世界が眼下に広がっていた。


「確かに、地形、種族共に私達の知る世界ではないですね」


 二人は小さな島に訪れていた。

 島民は見た事のない服を着た二人を見ても不思議がらない。それは人種にあった。動物のような耳が生えた者もいれば、動物のような姿をした者もいる。

 世界は星神との戦いで変わったようだった。


「なんつーか異世界に迷い込んだみたいだね」

「事実そう言っても過言ではないですね。三万年後の世界です」


 そんな二人が声をかけられる。


「お二人さん、綺麗な服着てるね。オコップ島特産の焼き貝どうかしら?」


 ネコの耳をした売り子の女の子が焼いた貝らしき物に塩味をつけた何かを売っていた。それに遠慮するように神輿は手を振った。


「マナブが見たら泣いて喜ぶだろうな。ネコ耳少女」

「マナブですか?」

「あぁ、戦友まぶだち。丁度あの売り子の女の子みたいなのがタイプの変な奴」

「私達の時代にあんな人間いましたか?」

だったんだよ。、多分祭ちゃんの事も速攻で好きになるね」

「成る程、妄想癖、サイコパスの類ですね」


 祭ちゃんは少し考えが硬い。

 反論しても正論っぽい事を言われるので疲れるから神輿はあえて言わない。


「それにしても、じん……いえ神輿、私達の存在理由を忘れているわけではないでしょうね?」

「再び飛来する星神を滅ぼすってやつ?」

「そうです」

「本当に来るのかな? 俺のも祭ちゃんも反応しないじゃん」


 そう言って腰の刀を見せてみるが、それを見もせずに祭ちゃんは空を見上げる。


「必ず来ます。あれらは来ると言ったのですから」

「あのさ、祭ちゃん」

「何ですか?」

「俺達に熱い視線を送っているが約一名いるんだけど、俺のファンかな?」


 神輿と同じ長く黒い髪を後ろで結って、ハーフパンツにシャツだけのなりだが、見とれてしまうような綺麗な顔をした少女がじっと、二人を見つめていた。


「俺達に何か用?」


 少し驚いたような表情をした少女だったが、目を大きく開け、笑った。


「君達、僕に姿が似てるから。もしかしたら仲間かなって思った」


 あー、そういえばそうかと頷いた。普通の見た目が神輿の認識だったが、今の地球ではそうではないのかもしれない。


「仲間かそうじゃないかと言うと、仲間じゃないね。俺と君は始めて出会った」

「そっか」

「俺は神輿、こっちは祭ちゃん、君はこの島の子?」

「僕はアルケー、じいちゃんと一緒に魚を捕って暮らしてるよ」

「へぇ、僕って事は君は男の子?」

「うん」


 少女、もとい少年はそれから毎日、神輿達の元をお訪れた。よほど自分と同じ姿の人間に会えた事が嬉しかったのだろう。


「神輿達は次は何処に行くの?」

「特に決まってない。だよね?」


 無言で祭ちゃんは頷く。


「そっか、じゃあさ。島を出る時、僕も連れて行ってよ!」


 銀色のコップに入ったコーヒーらしき飲み物を飲みながら神輿は笑った。


「多分、俺の旅は危険だよ? 目的の物が見つかれば多分、俺も祭ちゃんもそう遠くない未来に死ぬと思うし……えっ!」

「死ぬとか言うなぁ!」


 アルケーは大粒の涙をこぼしながら泣いた。祭ちゃんはそんなアルケーを抱きしめ、頭を撫でる。

 一瞬ビクっと身体を硬直させたアルケーだったが、心地よさそうに頭を預けた。


「……やっぱり一緒に行きたい」

「あはは、祭ちゃんのに懐いちゃったじゃないか」

「おっぱいじゃなくて私にですよ。神輿、訂正してください。それとアルケー、神輿が言った事は嘘偽りではありません。星神という恐ろしい怪物を探し倒す事が私達の役目、共に戦った仲間も大勢死にました。そんな旅に大切な友達であるアルケーを連れて行けません」

「ヤダっ! ついていく。僕、剣くらいは出来る。自分の身は自分で守る」


 一見弱々しいのかと思えるアルケーだったが、芯がしっかりしていた。それを見て、神輿は少し考えると言った。


「分かったよ。連れていってあげる」

「ホント?」

「あぁ、一緒に住んでるじいちゃんの許可が出たらな」


 嬉しそうにアルケーは頷くと許可を取りに家に戻っていく。


「神輿、本当に連れていくのですか?」

「いいんじゃない? 俺が誰か殺せばすぐに帰るだろうし」

「私が言うのもなんですけど、貴方は本当に元人間だったんですか?」

「だからこんな身体にされたんじゃない?」


 自分が生まれた時代に戻りたいと言われたら戻りたいが、それは不可能なので諦めていた。そしてこの世界での生き方と方針を神輿は既に考え始めている。

 何でも機械的に考える。

 そんな所が祭ちゃんは気になるようだった。


「それはそうと神輿」

「どうしたの?」

「懐かしい者がきますね?」

「何万年も先の未来に知り合いなんているの?」

「神輿は意地悪ですね。もう分かってるんでしょう?」

「そう……だね。ちっとも変わってない。人を襲い。命を喰らう者達。星神?」

「分かりません。ですが、違うとしても襲ってくるでしょう。どうします? 逃げますか?」


 鞘から少し刀を出すと、神輿はその剣の輝きを見て鞘に収めた。


「皆殺しだよ。妖刀レイがそう言ってる」

「御意」

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