#33
中に一歩踏み込むシホとエルテ。そこはぼんやりと薄暗く、辺りは靄が立ち込めている。
警戒しながら進むと、二人の頭上に巨大な影が振りかざされたのに気づいた。二人は咄嗟に回避すると、大きな衝撃音と共に蛸の触腕を思わせる毒々しい緑の大きく長い何かが奥の方から襲ってきた。
同様に数本の触手が次々と二人の頭上から叩きつける。二人は距離を取ると、それに向かってエルテはメリランダが良く使っていた高度解析魔法を発動させた。触手の一部から光る文字が飛び出す。
個体識別 :**** 混沌振り撒く第五の部位
種別 :神系・邪神
レベル :150
能力値 :体力200・力120・魔力140
耐性・弱点 :物理以外の属性80・闇100・弱点なし
スキル :解読出来ない古代語が並ぶ
固有アビリティ:死からの目覚め
エルテはシホに情報を伝える。
「今までのどの敵より強そう。全耐性で弱点が無い。物理で攻めるしかないかも。たぶん私達の知らない古代魔法も持ってる。死からの目覚めっていう固有アビリティもどんなものか分からない」
「いかにも古代の神って感じだね。しっかし、こんな奴が村に眠ってたなんて」
シホは剣を抜き触手の一本へと向けた。
「とにかくこいつには敵意がある。この触手片っ端から切り刻んでやろうじゃないの」
エルテも得物を構える。
「本体らしい本体が靄のせいでまだ見えない。かなり大きい。シホ、遠距離からの攻撃に気を付けて」
「うん!今度はこっちの番。いこう!」
地面を蹴り触手へと距離を詰めた二人から繰り出される鋭く華麗な剣技。斬られた触手の切断面から紫の血吹雪が上がるが、それは痛覚を持ち合わせていないようで、怯む事無くそれらは二人を襲う。
攻撃を躱しながら、二人は触手を無力化すべく剣を振り続けた。怯まないといってもダメージは確実に通っている様で、ある程度攻撃を続けていると触手は動かなくなっていった。
だがその時、シホが遠くで何か光った事に気付く。
「エルテ気をつけて。一瞬だけど見た事無い魔法陣が見えた」
「何か放ったのは見えた?」
「見えなかった。詠唱中断でもしたかな?」
「何か嫌な感じ」
次から次へと残りの触手による鞭の如き打撃を躱していると、シホはエルテの背後に蝋燭の火ほどの小さな青い炎が近づいているのを見つける。
咄嗟に手を伸ばしそれがエルテに触れるのを阻止した。すると彼女をかばったシホの左手が青い炎で燃え上がる。
◆触れた表面じゃなく、手の中から燃えてる!?これは延焼というより浸食・・・・!まずい!
シホは本能的に行動を取っていた。
剣の刃を脇に挟むと、自らの左腕を即座に切り落とす。地面に落ちた彼女の腕はたちまち激しく燃え、即座に灰となって消えた。
エルテは触手を斬るとシホを気に掛ける。
「シホ!大丈夫!?」
「う、うん。今のが古代魔法?私は体を修復出来るからいいけど、エルテに当たっていたら・・・・」
「周りを見てシホ」
気が付けば辺りにいくつも小さな青い炎がゆっくり宙を舞っていた。それを見たシホは胸の前に剣を構えると、水色の魔法陣を浮かび上がらせる。
「触れたら発動するみたい。広範囲魔法で片づけよう」
「うん」
シホと背中合わせになり、エルテも同様に魔法を発動させると、彼女達を中心に巨大な氷柱が地面から何度も何度も突き出し、辺りを突き進みながら覆っていく。
するとあちこちで青白い炎の柱が立ち上がり、それにシホは驚愕する。
「氷が燃えるなんて・・・・」
「他の効果が分からない古代魔法撃たれたら厄介」
「触手も減ったし、そうなる前に一気に攻めよう」
二人が動かなくなっている触手に沿って走り続けていると、何とも形容しがたい大きな姿が見えてきた。それはさながら切り取られた巨大な腫瘍に近い容姿をしている。
脈打つその肉塊は、新たな魔法を発動させようとしていた。シホは再生したばかりの左手を剣の柄に添えると、助走をつけ跳躍し剣を振り上げる。
「そうはさせるかー!」
強力なシホの一撃がそれを大きく切り裂く。同時にエルテは渾身の突きで肉塊に深く剣を刺し込む。そのまま体の重心を変え走り出すと、真横に傷口を切り開いていった。
邪神の発動させた魔法陣が崩れる。大きなダメージが通った事を確認した二人は、間髪入れずに攻撃を浴びせ続けた。
すると、もたげていた触手達が力なく地面に伏せ、肉塊からは滝の如く血が流れ出し、その体がしぼんでいく。
しかし、シホ達が喜びを口にしようとした瞬間、それら肉塊の体の全てが一瞬で元通りに復元された。
たちまち多くの触手に取り囲まれた二人は、うねるそれらに弾き飛ばされてしまう。地面をザザーっと滑りながら二人は体勢を立て直す。
シホは違和感を感じた。
「さっきより動きが速い気がする」
「すぐに再生した。これが死からの目覚めの効果?」
解析魔法を発動させるエルテ。
「シホ、あの邪神さっきより能力値も耐性も上がった。物理以外は完全耐性になった。魔法は全く効かない」
「まさか死ぬたびに強化されるって事?しかも一瞬で再生なんて・・・・。これが倒されずに封印された理由・・・・」
「このまま続けたら剣も通らなくなる」
「でも倒さなきゃ村のみんなが・・・・」
その時、何処からともなく蝿の大群が現れた。それらが集まり人の形になると、耳に馴染んだ声が響き渡った。
「お困りですかっ?」
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