#19

 すぐさま剣を抜くと、足場を気にしつつ攻撃魔法を発動させる。魔法陣から噴き出す激しい火柱が敵を包む。

 「お互いアンデッド同士。火に弱いのは分かってる!」

 シホの発生させた爆炎が収まる。敵は鎧から出たミイラ化した肉体部分が燃えていた。しかし怯む様子は無く、剣を振り上げそのままこちらへ進んでくる。

 「嘘!?どれだけ体力あるの・・・・?」

 シホは距離を詰め、先に剣技で牽制する。素早さこそ少しこちらが勝っているものの、激しい攻防が続く。

 敵の剣に押され、崖の淵に追い込まれるシホ。踵が乗った岩が崩れ奈落へと落ちていく。


 くっ!一撃一撃が重い!これが上位種・・・・。こいつを何とか吸収出来れば!


 強力な水平切りがシホの首元を掠め、下げていた集魂の器の紐が切られ大穴へ落ちていった。だがそれを気にする余裕はなく、シホは体技を発動させる。

 素早いスライディングで敵の股下を潜ると同時に、足払いを繰り出す。バランスを崩した敵の背後を取ったシホは、剣を逆手持ちにすると、背中に飛びつき剣を敵の喉元へと回す。そして一瞬でその首を刈り取った。

 それでも尚、動き続ける敵の体は闇雲に剣を振り回す。シホは隙だらけになった敵の鎧の隙間から剣を差し込むと、中をズタズタにする。そしてようやく敵は動きを止め地面へと崩れ落ちた。

 シホは死体となった敵を死者継承の力で吸収し、その場に残された剣を頂戴した。

 「ふぅ、暗殺者のスキルが役に立つとは。しかし、こんなのがこの先沢山居るって事?未踏区域だったのも納得。強敵だったけど持ってるのは物理スキルだけかぁ。ま、騎士のアンデットが居たんだから立派な魔導士アンデットもいるよね」


 胸の前に手を置くと集魂の器が無い事に気づき、大穴の下の方を見た。

 「さっきので落ちちゃったか。まぁ、いいか」

 そう言って来た道を引き返していった。



 宿に帰ると集魂の器が無い事をメリランダに指摘され、シホは深層部に踏み入った事を白状した。メリランダはテーブルに両手をドンッと突くと、

 「脳みそに蛆でも沸きましたか?一人で“冥府の大口”に行くなんて正気とは思えません」

 「あそこ冥府の大口って言うんだ」

 「魔物が一体だったから良かったものの、一歩間違えば本気で死んでいたかもしれないのですよ?」

 エルテとリズにも軽率な行動だとシホは怒られる。

 「ご、ごめんなさい。でも見てよ、前より強そうな剣拾えたんだ」

 そう言うシホが掲げる剣を見てリズが驚く。

 「ちょっとその剣、魔力が宿ってるわ。霊体にも有効かも」

 「本当ですか!?良かったぁ、これで足手まといにならなくて済む」

 「やれやれ。でも今日の行動はしっかり反省して頂戴ね、シホちゃん」

 「はい・・・・」

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