#11
メリランダはため息交じりに、
「ああもうシホさん、何で出てきたんですか!?」
「だってこいつら!」
シホをの姿を見た剣士は剣を抜く。
「待て、こいつアンデッドだぞ!?なんでこの場所に居られるんだ!それに今喋ってたよなぁ!?」
魔術師は剣士に距離を取るよう呼び掛ける。
「聞いたことがある。上位種の不死系には人の言葉を操る奴もいるって。今調べるから」
魔術師が簡易な解析魔法を詠唱するとシホの一部の情報が表示され、それを剣士に伝える。
「レベル8のソードアンデッド・・・・?」
「なんだビビらせやがって。どうしてここに居られるかは知らねえが、格下じゃねぇか」
華奢な男は指示を出す。
「それならさっさと倒して墓守も追い出せ。私は疲れているのだ」
メリランダはシホへ忠告する。
「こうなった以上やらねばやられます。魔物として生きるという事はそういう事なのです、シホさん」
◆私がやらなきゃエルテにもメリランダにも危険が及ぶ・・・・!大カタコンベに潜るなんて言い出したのは私だ。
容赦無く襲って来た剣士の攻撃をシホは反射的に錆びた剣で受け止めていた。
「メリランダはそこで見てて!」
そう叫んだシホは反撃を繰り出すと、その太刀筋に剣士は慄く。
「本当にただのソードアンデッドか!?凄い技量だぞ!」
格上のはずの剣士と互角の攻防を繰り出すシホは、片手に火の球を発現させると剣士の顔目掛けて放った。それにより生まれた一瞬の隙。シホが覚えたての技を繰り出す。
「アーマーピアッシング!!」
シホの剣は相手の鎧の隙間を的確に突き刺した。その場に倒れる剣士を見て、魔術師は慌ててシホに向け火球を幾つも放つ。
「くっ、あの馬鹿、油断なんてしやがって」
それらをシホは切り払うと、自分の周りの空中に氷の杭を何本も発現させる。それを見た魔術師は思わず一歩後に退いた。
「魔法を使うソードアンデッドだなんて・・・・!でもそんな低級魔法!」
シホが氷の杭を乱れ飛ばすと、魔術師は魔力の障壁を展開した。それに阻まれ氷が砕け散る。
魔法を防げている事に満足気な表情を浮かべた魔術師。攻撃に転じようと障壁を解除した瞬間、離れた場所に居たはずのシホの錆びた剣がその胸を貫いた。
「そんな・・・・、武器を投擲、する、なんて・・・・」
ばさりと倒れた魔術師。シホは剣士の死体から剣を拾い上げると、華奢な男へと向かう。
それを見ていた華奢な男は悲鳴を上げ腰を抜かした。シホは男に剣を向け言い放つ。
「メリランダに謝って」
苛立ちを隠せないシホにメリランダが歩み寄る。
「名声を上げに腕試しに来たどこかの貴族、といったところでしょうか。もう放っておきましょう。そんな人に謝られても心が晴れる訳でもないですし」
シホが渋々剣を引っ込めると、男は慌ててその場から逃げ出すが、混乱し足を取られ草むらへと突っ込む。そこには男を見下ろすエルテの姿があった。
「ひぃぃぃ!ここにもアンデッドがっ!」
より一層取り乱した男は細身の剣を抜くと、闇雲にそれを振り回した。
シホは慌てて駆け寄り、エルテをかばうように男から遠ざけようとした。しかし、その切っ先がエルテの二の腕に当たってしまう。切断され地面に落ちていく自分の左腕を、エルテは表情を変えずに見ていた。
エルテの上に覆いかぶさり倒れ込むシホは心配の声を上げる。
「大変!エルテ大丈夫!?」
「うん・・・・」
地面に転がった腕は体を離れても意識が繋がっている様に指が動いていた。それを見ると、シホは立ち上がり男に歩み寄る。
「私の、エルテに・・・・、何してくれてんの・・・・?」
◆私の中で何かがキレてしまった。気づくと何度も何度も目の前の情けない男を切り刻んでいた。まさに魔物の所業そのものだった。
視界の端でエルテが立ち上がるのが見えると、冷静さを取り戻した。すると途端に怖さが湧いてきて、私はエルテに拒絶されているのも忘れ、彼女を抱きしめてしまった。
「エルテごめんね、私のせいで危険な目に・・・・!怪我までさせちゃってどうしよう。守るって約束したのに」
「別に大丈夫。それに私なんてどうでも・・・・」
「どうでもいいなんて言わないで!怖かったんだから!エルテに何かあったらって、もう会えなかったらって。それに自分を責めるのってこんなに苦しいだなんて・・・・。エルテがずっとこんな気持ちを抱えてたって思ったら、私・・・・」
「わ、わかったから」
「私にはエルテが必要なの!」
その言葉にエルテの瞳孔が揺らぐ。
「ん・・・・。と、友達から・・・・。友達からだから」
「え?ほんとに⁉ありがとうエルテ!嬉しいな、ふふん」
何かを恥じらう様に、ぎゅっと指が握られたエルテの左腕を持ったメリランダが二人に歩み寄る。
「エルテさん、ちゃちゃっと縫っちゃいましょう。死体の修復なら慣れてますので」
二人の距離が少し縮まったのを知ってか知らずか、エルテの腕を縫い合わせながらメリランダは普段の調子で喋る。
「いやぁ、シホさんが私のためにあんな事をしてくれるなんて、下腹部がキュンキュンしちゃいましたよ」
「それは知らないけど、ああいうの黙ってられなくてつい」
「いいですか、シホさん。今回は運良くあの魔術師が消耗していたお陰で、強い火属性の魔法をすぐに発動されずに済みましたが、火が弱点のお二人があのレベルの魔術師に出会うのはかなり危険だったんですよ?」
「ごめん・・・・」
「私はああいう事慣れてますので、次回からは冷静に努めて下さい。しかし、機転を利かせた見事な戦い方でした。ああ、彼らの死体の処理はお願いしますよ?」
「あ、うん」
◆メリランダはそう言ったけど、私は彼女が蔑まれる事になんか慣れて欲しくないと思った。あんな事をされて平気な人間なんて居るはずがない。
腕を縫い終わらせたメリランダはエルテに違和感が無いか尋ねる。頷くエルテを見てシホは安心した。
エルテは少しむず痒そうに二人とは目を合わさずに、聞こえないくらいの声で何か言おうとしたが、そんな彼女に気付かず、メリランダはあの貴族が持っていた剣を拾い上げるとエルテに差し出す。
「これならエルテさんでも振れるんじゃないですか?自衛のために持っていて損はありません。もらっていきましょう」
エルテが無言でそれを受け取ると、メリランダは荷物を背負う。
「さあ、体力も魔力も回復しましたし行きましょうか。シホさん頼りにしてますよ」
「うん。エルテはこの先も付いて来てくれる?」
二人を見るエルテは少し目を逸らしながら返事をする。
「いいよ、暇だし」
シホはそんな僅かな彼女の変化に笑みを零す。そして更なる深みを目指して三人は再び歩み始めた。
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