顔合わせ4
「はっ!」
「ふぬぅ!」
「うっ……」
体勢を立て直したトモナリが再びがテルに切りかかる。
テルはトモナリの方に盾を向けようとして顔をしかめた。
ヒカリが盾に手をかけて引っ張って邪魔をしたのだ。
盾を構えるのが遅れたテルはなんとか剣でトモナリの攻撃を防御した。
「ほー、やっぱあいつやるな……」
タケルは思わず感嘆の声を漏らした。
決してテルが本気を出しているとは思っていない。
けれどトモナリとテルの力の差は確実に大きく、通常ならばテルが手を抜いていても戦うのは難しい相手なはずである。
なのにトモナリはためらいなく相手にかかっていって、勝つことを諦めない目をしている。
ヒカリと連携をとって格上の相手にも一撃加えることを虎視眈々と狙っているのだ。
ヒカリの動きもトモナリのことを理解していて、見た目には分かりにくい力と素早さ、知恵を見せて戦っていた。
今の一撃だって惜しかった。
トモナリの能力値がもう少しテルに近ければ一撃入っていたかもしれない。
あんな戦い方自分にできるだろうかとタケルは拳を握りしめた。
「タケルはタケルらしく戦えばいいのさ。気にすることはない」
カエデはタケルの心中を察したように慰める。
トモナリに負けてからタケルはより一層の努力を重ねている。
けれどトモナリはタケルが強くなりよりもより早い速度で強くなっているようにカエデにも感じられた。
他者と自分を比べて糧にするのはいいけれど、そのことで自分の中に黒い感情を持ってはいけない。
自分らしく努力を続けていくことが大事なのである。
「お嬢……」
カエデの言葉にタケルはハッとさせられた。
「その呼び方は外ではやめな」
「あっ、すいません……」
「にしても強いね。やっぱり欲しい男だ」
「くっ……」
タケルは再びムッとした顔をする。
やはりトモナリには負けられないと思った。
再びトモナリとテルの戦いに目を向ける。
トモナリは諦めずテルにかかっていっている。
「やはり二対一だと少し大変だね」
トモナリは鋭く隙を狙っている目をしているし、ヒカリは機動力を活かしてテルをかき乱す。
ヒカリもトモナリとのトレーニングをしながら連携しての戦い方を練習していた。
まだまだ練習不足、連携不足なことは遠くから見ていれば歴然なのだけど近くで相対してみると意外とヒカリの動きは厄介なものになっていた。
テルの方もヒカリみたいな動きに対する経験が不足していたのである。
それでもまだスキルを使ってもいないので対応できている方であった。
「食うのだ!」
経験値不足のヒカリも戦うほどに動きが良くなっていた。
素早くテルの後ろに回り込んだヒカリが鋭い爪を振り回す。
テルが盾で爪を防ぐ間にトモナリがテルの後ろから剣を振り下ろす。
「にょわー!」
盾でタックルしてヒカリを弾き飛ばしたテルは体を反転させてトモナリの剣を受け止めた。
「隙あり!」
「なっ!」
一撃で食らわせるためにトモナリはずっと隙を狙っていた。
けれどテルはなかなか隙を見せない。
だが隙がないのなら隙を作ってやればいい。
盾を上げてトモナリの攻撃を防いだので足元が疎かになっていた。
トモナリに足を払われてテルはバランスを崩して尻餅をつく。
「ヒカリ!」
「うにゃー!」
トモナリとヒカリが尻餅をついたテルを挟撃する。
「……絶対防御!」
「なに!? くっ!」
テルに迫った剣とヒカリが白い六角形のシールドに防がれた。
いくら押してもシールドはびくともせず、自分の力が返ってくるような衝撃にトモナリとヒカリは弾き返されてしまった。
「……まさかここで僕のスキルを使わせられるなんてね」
テルは悠然と立ち上がる。
ただ表情から余裕は消えていた。
絶対防御とはテルの第一スキルであった。
短時間自分の周りに自動で攻撃を防御してくれるシールドを展開して防いだ攻撃の衝撃をそのまま相手に返してくれるという結構ズルいスキルである。
ただ魔力消費量は多く、かなり長めのクールタイムが設けられていていつでも使える万能スキルではない。
「少し遊びすぎたみたいだね」
油断などしていないが少し様子見をしすぎたとテルは反省した。
トモナリがどんなふうに攻撃してくるのか楽しかったというのもある。
「今度は僕からいくよ!」
テルが本気の目をしてトモナリに迫った。
テルよりレベルが高いテルはガーディアンという防御重視な職業ながら素早さがトモナリよりも高い。
突き出された剣をなんとか受け流したけれどトモナリの体勢が流れる。
「ぐっ!」
そのまま盾で体当たりされてトモナリは吹き飛ばされる。
「おりゃー! ぐにょっ!?」
トモナリが危ないとテルに飛びかかったヒカリの頭に剣が叩き落とされた。
「くそっ……」
「どうだい? まだやる気かな?」
ヒカリは床にペチョリと倒れて起きあがろうとしたトモナリには剣が突きつけられていた。
「……参りました」
流石にここから足掻くのは往生際が悪すぎる。
トモナリは木刀を手放して両手を上げる。
「うむ、そこまで。アイゼン、なかなか善戦したぞ。クロハはあそこでスキルを使わされているようじゃまだまだだな」
「……精進します」
テル自身もスキルを使ってしまったことは今回の反省点だったと分かっている。
「痛いのだぁ〜」
「大丈夫ですか?」
頭をさすっているヒカリにミクが近寄る。
ミクがヒカリの頭に手をかざすと柔らかな光に包まれる。
「どうですか?」
「むっ、痛みがなくなった!」
「よかったです」
ミクがほんの少し微笑む。
「ヒーラーだったのか」
相手を治すヒーラーはそれに応じた職業やスキルが必要で貴重である。
学長の秘書をしているので只者ではないと思っていたのだけど、ミクも覚醒者でヒーラーだったことにトモナリは驚いていた。
「では最後にいくぞ」
「私がやります」
ここまで良い戦いを見せていたトモナリとみんな戦ってみたいと互いに様子をうかがっていた。
その中で一人の女生徒が手を挙げた。
それを見てみんながザワリとする。
「副部長の柳風花(ヤナギフウカ)。職業は闇騎士王」
「闇騎士王……」
王がつく王職の職業持ち。
しかも闇騎士王はトモナリと回帰前の記憶でも比較的印象の強い人だった。
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