敗れた暗王候補1
「トモナリ、誰かつけてるぞ」
「本当か?」
器具でトレーニングするだけではなく日々のランニングもトモナリは続けていた。
午前中みんなと一緒にトレーニングをしたけれど夜も日課のランニングをしていた。
トモナリの肩に引っ付いていたヒカリがランニングの最中ついてくる存在に気がついた。
最初は気のせいかと思ったけどアカデミー構内をグルグルと走るトモナリを先回りして待ち伏せしているので危ない敵かもしれない。
「何人だ?」
「むむ……多分一人」
「一人か……どうするかな」
もしかしたら終末教かもしれない。
ヒカリを狙っている可能性もあるとトモナリは考えた。
夜で人は少ないし襲いかかってくるのなら良い環境だろう。
アカデミーが管理している武器は持ち出すのは難しいが、覚醒者である以上自分の武器を持つことも認められているので武器を持つこともできる。
人の多い環境であってアカデミーで人を襲うことは難しいけれども人が多いので襲撃に成功して紛れてしまえば誰が犯人かは分かりにくくなる。
「いけるか……?」
まだ相手には気づかれていることを気づかれていない。
逆に奇襲してやろうとトモナリは考えた。
相手が格上でも先手を取ることができれば勝つ可能性は十分にある。
仮に直接対決になっても割と勝つ自信もあるし、相手が一人なら逃げて助けを求めることもできるだろう。
トモナリはそっと腰に手を伸ばした。
腰にはテッサイからもらった小刀が下げてある。
護身用に常に小刀を持ち歩いている。
こうしたランニングの時も例外ではない。
「よし、ヒカリ」
「なになに?」
「……するんだ」
「にひひ、分かった!」
トモナリは声をひそめてヒカリと作戦を練る。
面白そうとヒカリは思った。
走りながらトモナリは周りに感覚を広げる。
するとトモナリもようやく近くにいる人に気がついた。
確かにヒカリの言うようについてきている。
ただずっとついてきているのではない。
トモナリのランニングのペースに追いつけないのか時折気配が感じられなくなってはランニングのルートに先回りしている。
相手の追跡の感じをトモナリはすぐに把握した。
「いくぞ」
「オッケー」
トモナリは走るスピードを上げて建物の角を曲がった。
「……あ!」
トモナリの後ろを追いかけていた何者かが慌てたように角を曲がるとトモナリは走るのをやめて待ち受けていた。
「よう」
「えっ、あっ……」
「どーん!」
「ぐおっ!?」
追いかけてきたのは多分、男の子だった。
トモナリがいて急ブレーキをかけた男の子にヒカリが上から落ちてきた。
20キロの重りも軽々と持ち上げるヒカリが突撃してきたら重たい鉄球が飛んでくるようなもの。
ヒカリが背中にぶつかって男の子はなす術もなく地面に倒された。
奇襲作戦としてトモナリはヒカリに角を曲がったら体から離れて少し上空で待機するように言っておいた。
そして相手が油断している間に体当たりを決めさせたのである。
「いて……ひっ!」
「お前……何者だ?」
トモナリは地面に倒れた男の子の首に小刀を突きつけた。
よく見てみると割と可愛い顔をしていて一瞬女の子かと思ったけれど、学校指定のジャージは男女でちょっとデザインが違う。
相手が来ているのは男もののデザインのジャージだったので男だろうとは思う。
トモナリに小刀を向けられて男の子は顔を青くする。
終末教だろうかと思っていたのに明らかにそんな雰囲気はない。
ただそれで油断はしない。
「ぼぼぼ、僕は南真琴(ミナミマコト)と言います! あ、怪しいものじゃないです!」
マコトは顔を青くしたまま弁明する。
起きあがろうとしたけれど背中にヒカリが乗っていて動くこともできない。
トモナリの肩に乗っている時はそんなに重さを感じないのだけど本気になるとヒカリの重さも決して軽くない。
さらには力も込めて押さえつけられると覚醒者といえど簡単には起き上がれない。
「ステータス画面と学生証を見せろ」
自己紹介もウソで、慌てたような態度もトモナリを騙そうとしている可能性がまだある。
ステータス画面は特殊なスキルでもない限りは偽装することができない。
学生証も顔写真付きで意外とちゃんとした作りのものなので簡単に偽物を用意はできない。
「わ、分かりました……ステータス表示」
マコトは自分のステータスをトモナリに開示した。
ステータス画面に表示されている名前はちゃんと申告してきた南真琴と一致している。
「……忍者?」
トモナリが注目したのはマコトの職業だった。
職業は忍者である。
かなり珍しい職業であり、不思議とほとんど日本人しか得られないと言われている。
シーフやアサシンといった職業と近い能力を持ちながらもより直接的な戦闘にも長けたスキルや能力値になることが多い。
しっかりと育つと何者にも捉えられない素早さと一撃必殺の鋭さを秘めた強さを誇る覚醒者になりうる。
「南真琴……なんだか聞いたことがある気が……」
それも今ではなく回帰前のどこかで名前を聞いたことがある気がするとトモナリは思った。
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