王と戦う者2
「速い!」
ゴブリンキングがトモナリに飛びかかる。
ゴブリンクイーンと違って武器を持っていないのは救いかもしれないが、ゴブリンとは速さが違っていた。
ひとまずトモナリの方に襲いかかってきたのでそれはよかった。
けれどゴブリンキングが叩きつけた地面が陥没する様を見て、ぞくりとするような力の強さがあるとトモナリは眉をひそめた。
「硬くはないな」
振り回される腕をかわして懐に潜り込んで切りつける。
そこまで深くは踏み込まない攻撃だったがゴブリンキングの腕が薄く切り裂かれた。
魔力もなにも込めていない攻撃であったが通じた。
多少攻撃が通じそうな希望はある。
「危ないな……」
ゴブリンキングが横殴りに振った腕が木に直撃した。
幹の太い大きな木だったのに一撃で折れて倒れてしまう。
モンスターの能力は人の能力のように数値化して見ることはできないけれど、人の能力値で例えるなら力が高くその他の能力はやや低めのようだった。
それでもトモナリの動きについてきている以上素早さもそんなに差はない。
ゴブリンキングの中で比べた時に力と他の数値に差があるという話でトモナリと比べた時に全体的にはゴブリンキングの方が高そうだった。
それに激しく攻撃してきているがゴブリンキングに疲れるような様子はない。
耐久力という意味での体力は低そうだけれど動き続ける持久力という意味での体力は非常に高そうである。
かわし続けて疲れたところを狙う、というのはトモナリの方に分が悪そうだった。
「ふっ!」
今度は剣に魔力を込めて攻撃する。
ゴブリンキングの攻撃のリズムも掴めてきたので強めに剣を振った。
左腕をざっくりと切り裂いたけれどトモナリが想定していたよりも傷が浅い。
やはり体力が高いためか深く切ろうとすると肉質は硬いようだった。
倒そうと思えば頭や首を狙いたい。
けれどトモナリよりも大きなゴブリンキングの頭や首を狙うのはなかなか難しく現実的ではない。
やはりここはある程度戦ったら逃げるのがいい。
素早さの差はそんなになくともゴブリンキングの図体はデカく、樹海という環境を活かせば逃げ切ることは十分にできる。
『ゴブリンが規定数を下回ったのでゴブリンキングとゴブリンクイーンが怒り狂います』
「……なに?」
そろそろみんなも逃げれただろう。
逃げる隙をうかがっていたら急に現れた表示にトモナリは気を取られてしまった。
「ヤバっ!」
突然ゴブリンキングのスピードが上がった。
薄く透ける表示の向こうから腕が振られるのを見てトモナリはとっさに剣でガードした。
当然力では圧倒的に劣るトモナリがまともに攻撃を防御してしまうと力負けしてしまう。
ぶっ飛ばされたトモナリは一度地面をバウンドし、ほとんど勢いを減じることもできないままに木に体を叩きつけられた。
「カハッ……!」
叩きつけられた衝撃で肺の中の空気が勝手に出ていく。
「ゲホッ……くっ! ダメだ……来るな……」
トモナリは素早く自分の体に意識を集中させて具合を確認する。
吹き飛ばされはしたが剣によるガードは間に合ったので直撃は避けられた。
骨が折れた様子もない。
ひどい痛みと煩わしいほどの耳鳴りがするだけ。
「くそっ……狂化か」
息を整える暇もなくゴブリンキングが襲いかかってきてトモナリは地面を転がって回避する。
ゴブリンキングの目が赤く染まっている。
理性を失う代わりに凶暴な力を発揮する一種のスキルである。
ゴブリンキングは叫び声を上げながらトモナリに腕を振り下ろす。
速度も速くなっていてトモナリは地面を転がりながらなんとかかわしていく。
ふと手に剣がないことに気がついた。
どうやら殴り飛ばされた時に手から飛んでいってしまったようだ。
「トモナリー!」
「ヒカリ……来るなと!」
「トモナリをいじめるなー!」
ヒカリが木の上から飛び出してきた。
いざという時の切り札としてヒカリには隠れていてもらっていた。
空も飛べるヒカリなら逃げることも容易いので一撃加えてもらって逃げる隙を作ってもらおうなんて考えていたのだ。
けれどヒカリはトモナリのピンチにたまらず飛び出してきてしまった。
「くらえー!」
ヒカリはトモナリに迫るゴブリンキングの顔を爪で切り裂く。
急に飛び出してきたヒカリに反応することができなくてゴブリンキングの左目が大きく切り裂かれて叫び声を上げる。
「にゅ? にゅわあー!」
「ヒカリ!」
大きくひるんでもおかしくない。
しかし狂化して理性を失いダメージに鈍くなっているゴブリンキングはすぐさま動いた。
ガッとヒカリのことを鷲掴みにすると乱雑に放り投げた。
木々の葉の中にヒカリが消えていって枝葉が折れる音が響く。
無事を確認したいけれど痛みで怒りを覚えたゴブリンキングはより激しくトモナリに襲いかかる。
とりあえずヒカリが生きていることはスキルで繋がっているトモナリにも分かる。
狂化で力と速度が上がり、理性を失って攻撃が大ぶりになった。
トモナリはゴブリンキングの左側に回るようにしながら周りの木々を活かして逃げ続けるけれど振り切るのは厳しそう。
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