勝負の世界に先輩後輩なし1

「ふぅ……」


 アカデミーには勉強の施設だけでなく体を鍛える施設もあった。

 マシンに器具、ストレッチができる広めの場所まで完備されている。


 トモナリは暇な時間を見つけてはトレーニングにも勤しんでいた。

 トモナリの能力値はレベル1にしてはかなり高い。


 それには秘密があった。

 能力値はレベルアップで伸びていくのだけれど、それ以外の方法で伸ばせないものじゃない。


 走り込んだりウェイトトレーニングをしたり、剣を素振りしたり人と手合わせすることでも能力値が伸びたりするのだ。

 ただ一般的に覚醒者がそうした方法で能力値を伸ばすことはしない。


 なぜならそんなに伸びないから。

 必死に走り込みして、それを数日続けてようやく素早さが一つ伸びるかどうかである。


 非効率的すぎて、その間にモンスターでも倒してレベルを上げた方がいいと言われるのだ。

 けれどもこの能力値の上げ方にも秘密があったのだ。


 トレーニングによる能力値の向上はレベルが低ければ低いほど上がりやすいのである。

 レベルが高くなって能力値が高くなるほどにトレーニングによって能力値が上がりにくくなるのだが、レベルが低く能力値が低い段階でトレーニングをしていくと意外と能力値は上がるのだ。


 だからトモナリはスケルトンを相手にする時必要以上に倒さなかった。

 レベルを1にとどめておきたかった。


 そこからトモナリは走り込んだり道場で鍛錬したりと努力を重ねた。

 マサヨシすら驚いた能力値の高さは元々の高さもあるけれどトモナリの日々の努力によって伸びたものでもあったのだ。


 アカデミーでの生活が始まったけれど本格的にモンスターと戦ってレベルを上げるのはまだ先のこと。

 能力値を上げる機会はまだ十分に残っている。


「器具があるのはいいな」


 これまでは走り込みと素振り、テッサイとの手合わせを中心にして努力してきた。

 それによって体力と素早さと器用さが中心に伸びてきた。


 運は努力で伸ばせないし、魔力はこうした体力トレーニングで伸びない。

 あとは力を伸ばしたいのであるがトモナリの日常ではなかなか難しかった。


 腕立て伏せしたりと頑張っていたけど能力値の伸び的には弱かった。

 けれどアカデミーのトレーニングルームにはダンベルやバーベルを始めとしてスポーツジムのような器具もある。


 体を鍛えて能力値を伸ばすにはピッタリだった。


「ふにゅにゅ……!」


 日頃お菓子を食べてのんびりとしているヒカリも周りが努力しているから努力し始めた。

 回帰前の強さを取り戻すのだと言ってバーベルのおもりを上げ下げして体を鍛えている。


『力が1上がりました!』


 バーベルで鍛えていたらまた能力値が上がった。

 これで力が20になった。


『力:20

 素早さ:27

 体力:22

 魔力:15

 器用さ:23

 運:11』

 

 通常のレベル1ならば10あれば凄い方になる。

 そう考えるとトモナリのステータスは同レベルで見た時に化け物じみたものとなっていた。


「おい」


「……なんですか?」


 あまり自分を追い込みすぎてもよくはない。

 能力値も上がったのでそろそろ切り上げようかなんて思っていると声をかけられた。


 ベンチに座ったトモナリが顔を上げると体つきのいい男が立っていた。

 ジャージの襟に二本のラインが入っているということは二年生である。


 一年のトモナリの先輩だ。

 同じくトレーニングルームで鍛えていた人なのは視界の端で見ていたので知っている。


 ただ声をかけられるような関係性もないし理由もない。

 目つきもなんだか友好的に思えなかった。


「お前が愛染寅成か?」


「そうですが……」


「俺は山里猛(ヤマザトタケル)だ」


 いきなりお前とは失礼だなと思うがここは先輩の顔を立てて我慢しておく。


「今年……いや、これまでを含めても一番才能があるやつだと聞いている」


「……それはどうも」


 才能がある覚醒者が出てきたら嬉しいことじゃないかと思うのだけど、タケルは喜ばしいことに感じているようには思えない。


「俺の職業は拳王……お前が来る前は俺も才能ある方だと言われていた」


「王職……」


 希少職業の中には王とつく職業を持つ人がいる。

 剣王、槍王、魔道王など王とつく職業は他の職業に比べても能力値の伸びが良くスキルも良いものが手に入る。


 その代わりに職業によって使用武器が大きく制限されたりするのだ。

 例えば剣王なら剣以外を扱うとまともに能力を発揮できなくなる。


 拳王ということは拳に特化した職業なことは言うまでもない。

 才能があると言われるのも納得である。


「だからなんですか?」


 王職だからこれまで才能があるとチヤホヤされてきたのだろう。

 そこに世界でも類を見ないドラゴンナイトという職業を持ったトモナリが来たことで環境が変わってしまったいうことは理解する。


 しかしそれによって因縁をつけられるいわれはない。


「噂によると相当できるらしいな」


 授業では戦闘訓練も始まっていた。

 まだモンスターと戦うのではなく剣の扱いを習ったり武術を習ったりと基礎的なことを始めているのだけど、道場で剣を習っていたトモナリはそこでも頭一つ抜けていた。

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