都合の良いスカウト1
「覚醒者協会の森山と申します」
ある日覚醒者協会から人が来た。
まるでゆかりの休みの日を狙ってきたかのようにゆかりがいるタイミングで訪ねてきたなとトモナリは思っていた。
森山と名乗った男性は非常に体格が良くて玄関が狭く感じられる。
「ええと、どんなご用で?」
覚醒者協会とは覚醒者を管理する組織のことでゲートの対処を始めとして覚醒者による犯罪なども覚醒者協会が担当している。
ただ覚醒者協会は覚醒者やモンスターが関わらないことでは動かない組織であり、ゆかりはどうして覚醒者協会が訪ねてきたのか理由が分からなかった。
「先日起こりましたゲートにつきましてこちらの愛染寅成さんから通報がありました」
「あ……そうなんですか」
「あまり知られていませんが覚醒者協会には早期発見通報制度というものがありまして」
森山は持っていたカバンの中からパンフレットを取り出してゆかりに渡した。
「ゲートを早めに発見して早めに通報して被害を小さくして下さった方には覚醒者協会から報奨金が支払われることになっています」
ゆかりの隣で話を聞きながらそんな制度があったのだとトモナリも初耳だった。
通報の時に聞かれた名前などをさらりと答えてしまっていたことを思い出す。
なんでそんなこと聞かれるのか疑問だったけど逃げるのに必死で流れで答えてしまっていた。
こうした制度があるから聞かれたのだなと納得した。
もちろん匿名でも通報できるので後で失敗したと思ったものだった。
「今回愛染寅成さんのご通報のおかげで人的被害なくゲートの対処にあたることができました。なので報奨金をお支払いするための調査としてお伺いさせていただきました」
「そうなんですね。えっと上がりますか?」
「ありがとうございます。いくつかご質問させていただきますので」
森山が家に上がり、リビングのテーブルを挟んで向かい合って座る。
知らない人が来るためにヒカリはトモナリの部屋に隠れている。
質問は通報した番号はトモナリのものかや通報した時の状況などを聞かれた。
こんな時のためにちゃんと言い訳は用意してある。
「ふむ……日課のランニングをしていた時にたまたま見つけたと」
「はい、あそこは朝走るコースなので」
朝ランニングしていたのは体力作りという側面も大きいけれどゲート出現に備えてという面も少しあった。
廃校前はいつもランニングで通るようにしていた。
だからどうしてその場にいてゲートに気がついたのか、という質問された時に自然な答えを言えるように準備していたのである。
いつものランニングコースで前を通った時にモンスターに気がついて通報した。
特に問題視されることもない答えである。
「その時に女の子……ええ……清水瑞姫さんを助けたということですね?」
「その通りです」
本来ならただゲートを見つけて通報したと答えるつもりだった。
しかしトモナリは少し話を変えて廃校前を通った時に女の子の悲鳴が聞こえて廃校に入り、そこでモンスターを見つけたということにした。
女の子はもちろんミズキのことである。
「トモナリ! またあなた危ないことして!」
「しょうがなかったんだよ……」
まさかモンスターと遭遇までしていたなんてとゆかりがトモナリを叱る。
こうなることは分かっていたしミズキも秘密にしてほしかっただろうにミズキのことを出して、廃校の中にまで入ったことを説明したのには訳があった。
「もしかしてですが……覚醒なさいましたか?」
「……はい」
「なるほど。清水さんのお宅にも伺う必要がありそうですね」
その理由とはミズキも覚醒していたということにあった。
手合わせの後ミズキから話があると言われた。
なんだろうと聞いてみるとミズキの方も廃校で覚醒していたのである。
スケルトンは鈍い。
例えば追いかける時にもつれあって転び、それが倒したという判定になることもある。
そのためにどこかでミズキがスケルトンを倒した判定になって覚醒していたのだ。
覚醒自体は悪いことではない。
しかし何もないのにいきなり覚醒したといっても周りは信じてくれない。
覚醒のことを一生隠し続けるなら言わなくてもいいがいつかは誰かにバレる可能性が高い。
結局のところ廃校で起きたことをある程度説明するしかなくなったのである。
そのためにその場にミズキがいたこととトモナリも遭遇したことにして、その流れで二人とも覚醒したことにしてしまったのである。
「トモナリが……覚醒?」
ゆかりは驚いたような顔をした。
まだ現在では覚醒者は望む人だけがなる特殊なものであり、危ないことに関わることになるかもしれないという認識がゆかりの中にはあった。
「ひとまず通報につきましては確認が取れました。報奨金として50万円をお支払いいたします」
「ご、50万!?」
「人の命はお金で買えません。これぐらい安いものです」
意外な収入にトモナリもゆかりも驚く。
「覚醒につきまして……トモナリさんはまだ中学生でいらっしゃいますね?」
「はいそうです」
「鬼頭アカデミーの入学を検討なされてはどうでしょうか」
「鬼頭アカデミー?」
ゆかりはそれがなんなのか知らないようで首を傾げた。
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