覚醒3
ヒカリは普通に食事する。
最初何も分からなかったゆかりが犬の餌を買ってきてヒカリが怒った事件があったのだけど、今ではトモナリやゆかりと同じ人の食事をモグモグしているのだ。
だからお弁当もヒカリの分を用意してある。
「卵焼きだ!」
ヒカリは目玉焼きよりも卵焼きの方が好きらしい。
しかも甘めの味付けが好みである。
「美味いぞ〜」
卵焼きを口に放り込んでヒカリはご機嫌そうにしている。
流石に箸は使えないので手で摘んでひょいひょいと食べている。
おにぎりは器用に持っている。
「むぐっ!」
「慌てて食べるな。お茶だ」
「ゴキュ……プハッ、危なかったぁ」
ヒカリの食べるペースは速めでおにぎりを喉に詰まらせてしまった。
少し苦笑を浮かべたトモナリが水筒を渡してやるとお茶でどうにかおにぎりを流し込んだ。
「大丈夫か?」
「うん、危なかったけど大丈夫!」
「ならよかったよ。少しはゆっくり食え」
「そうする」
朝ご飯を食べながらトモナリはスマホで時間を確認した。
もう通勤通学のピーク時間が近くなってきた。
つまりはそろそろゲートが現れる時間になるはずなのだ。
「手、拭け」
素手で食べるという都合上ヒカリの手は汚れる。
トモナリはちゃんと用意していたおしぼりを取り出してヒカリに渡した。
「そろそろまた教室回るぞ。ゲートが出るかもしれない」
腹も満たされたのでまたゲートが発生してないか校内を回ろうと思った。
「トモナリ、何か感じる」
「感じるだと? 何をだ?」
「分かんないけど……下の階」
「下か……行ってみるか」
上の階の教室から回っているとヒカリが何かを感じとった。
それが何かは知らないけれどドラゴンであるヒカリならゲートの存在を感じ取れるのかもしれないとトモナリは思った。
「もう一つ下」
「分かった」
四階建ての学校の二階まで降りてきた。
「むむむむむむ……」
ヒカリは違和感がどこから感じるのか集中して見極めようとしている。
「ここじゃない」
一つずつ教室を回りながらヒカリは違和感の原因を探す。
「……ここ!」
三年七組の教室でヒカリは強い力を感じ取った。
「何かがある」
「今んところ何もないけど……」
トモナリが教室の中を見回してもただの教室である。
しかしこんな状況で何もないと考えることはできない。
多分ここがゲートの発生場所なのだとトモナリは確信を持った。
トモナリはリュックの中から水の入ったボトルを取り出す。
そして学校の入り口でやったように教室の入り口にも水を撒いていく。
「うっ!」
「トモナリ!? 大丈夫か?」
「ああ……大丈夫だ」
急に耳鳴りがして頭に痛みが走った。
トモナリは思わずボトルを落としてしまい、ヒカリが心配そうに顔を覗き込む。
「今のは……あれが原因か」
何が原因でそんなことになったのかすぐにわかった。
教室のど真ん中に魔力が集まっている。
普段は目に見えないはずの魔力が青く光って渦巻いていて、最初は人の頭ほどの大きさだったものが大きくなっていく。
そして天井にもつきそうなほどに青く渦巻く魔力が広がるとトモナリが感じていた耳鳴りが収まった。
「……来たか」
ゲートが開いた。
青く渦巻くような魔力の中からスケルトンがゆっくりと出てきた。
人間の骨のようなモンスターで動きは鈍くて力も弱いけれど痛みを感じず大量に発生することもある厄介さがある。
「んじゃさっさと覚醒するか」
トモナリは木刀を手に持つとボトルに残っていた水をかけた。
「俺の第一歩、ご苦労さん」
出てきたばかりのスケルトンと素早く距離を詰めるとためらいなく木刀を振り下ろして頭をかち割った。
どたんとスケルトンが床に倒れて動かなくなる。
「う……」
『覚醒しました!』
直後全身を不思議な感覚に襲われてトモナリはふらついて近くの机に手をついた。
覚醒する時の独特の感覚。
人によって感じ方は違うらしいけれどトモナリはめまいにも近い感じを受けた。
回帰前はほとんど何も感じなかったのになと思いながら頭を振って改めて状況を確認する。
視界の端に不思議な表示が見えて、トモナリはニヤリと笑った。
「逃げるか」
ゲートからは続々とスケルトンが出てきている。
覚醒したとはいってもまだ子供であるトモナリ一人で大量のスケルトンを相手にするのは難しい。
確かめてはいないものの感覚的には覚醒しているので目的は達成できた。
すぐさま教室を出て逃げ始める。
「えっと……通報通報っと」
教室を飛び出して階段を降りながらスマホを取り出した。
このままゲートを放置しておけば通勤通学の人たちが襲われて被害が出てしまう。
スーパーの閉店を防ぐためにも早めに通報して、早めにゲートを閉じてもらう必要がある。
警察ではなく覚醒者協会というところに電話する。
番号は事前に調べてある。
「はい、モンスター対策窓口です」
「ゲートが発生してモンスターが出てきているんです!」
「本当ですか! どちらでゲートが?」
学校から出て一応後ろを確認しながらトモナリはゲートの発生を通報する。
鈍いスケルトンが追いついてくるはずもないし、しっかりと時間を稼ぐための対策もしてある。
後ろにはスケルトンもおらず、このまま帰ってしまえば後はゲートが攻略されるだろうと思った。
「きゃー!」
「……なんだ?」
少し様子を見て大丈夫なことを確認したトモナリが帰ろうとした時だった。
学校の中から女の子の悲鳴が聞こえてきた。
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