神を切る刀と弟子入り2

「誰かを殺すのに日本刀なんて使いませんよ。そこらの石でいい。それに誰か殺すつもりはありませんよ。……今のところは」


 武器を使えば相手を倒すことは容易い。

 しかし武器を使った痕跡というのは分かりやすく、簡単にバレてしまう。


 殺すのはいいけれど逮捕なんてされる手段をトモナリは取らない。

 そもそも人を殺すつもりなどない。


 色々なことを正す上で人を殺すことも必要だとは思っているけれど現段階で殺すべき人はいない。


「ならばなぜ日本刀など必要とする?」


「今は必要じゃないけど……そのうち必要になるんです」


「今必要でないのなら今手に入れる必要はないではないか」


「欲しいと思った時にもらえるかも分かりませんし、そこにまだあるかも分かりませんから」


 トモナリが探しているのは神切という名前の日本刀であった。

 そんなものくれと言ってもらえるはずはないのだけど男性は頭ごなしに否定もしなかった。


「くれてやってもいい」


「えっ、本当ですか?」


「ただし、お前さんがアレを持つに相応しい思えばな。ワシは清水鉄斎(シミズテッサイ)。お前さんの名前は?」


「愛染寅成です」


「トモナリか」


 テッサイは壁にかけてあった木刀を手に取るとトモナリに渡した。


「神切を持つに相応しいと証明して見せろ」


 テッサイも木刀を手に取るとゆっくりと構える。

 要するに倒してみろということらしい。


「やってやろうじゃん」


 トモナリに諦めさせるための方便かもしれない。

 しかしトモナリだって戦いの人生を生き抜いた経験がある。


 逃げてばかりだったけれども戦わなかったわけじゃない。

 トモナリはヒカリの入ったリュックを下ろして数回木刀を振る。


 木刀は思ったよりも重くて少し顔をしかめる。

 まだまだ鍛え方が足りなくて十分に扱えなさそうな雰囲気がある。


「先手は譲ってやろう」


「ありがとうございます!」


 やや斜に構えたトモナリにテッサイは先手を譲った。

 トモナリは床を蹴って一気にテッサイと距離を詰めると真っ直ぐに木刀を振り下ろした。


 テッサイが木刀を防いでカァンと音が響く。

 想像していたよりも剣筋は良いと内心でびっくりしていた。


「まだまだ!」


 トモナリは素早く剣を引くとそのまま何度もテッサイを切りつける。

 テッサイは冷静にトモナリの攻撃を防御しているが思わぬ攻撃に舌を巻いていた。


 急所を狙った攻撃は鋭い。

 体格が追いついておらず木刀に振り回されている感じはあるもののそれすら活かして攻撃してくる様子はただの中学生に思えなかった。


「トモナリがんばれー!」


 ヒカリはリュックの中からチラリと目だけ出してトモナリを応援している。


「むっ!?」


 剣で押し切るのは大変そうだと思った。

 トモナリは左手を木刀から離すとテッサイの袖を掴んだ。


 勝つために手段など選んではいられない。


「ほほ……やりおるな」


 テッサイの首を狙って木刀を振る。


「じゃがまだまだ……」


 テッサイは袖を掴まれた右手を木刀から離すとそのまま腕を伸ばした。

 袖を掴んだままのトモナリは体のバランスを崩してしまう。


「うっ!」


 テッサイは木刀をトモナリのものと絡ませるように動かすと弾き飛ばした。

 片手ではとても支えきれずにトモナリの木刀は飛んでいき剣道場の床に落ちた。


「ワシの勝ちじゃな」


 そのまま尻餅をついて倒れたトモナリをテッサイは目を細めて見ていた。


「これでは神切を渡すことはできん」


「くっ……」


 正直勝てると思ってた。

 しかし力も技術もテッサイには劣っていて何度挑んだところで今の状態では勝てそうもなかった。


「トモナリをいじめるなー!」


「むっ?」


 トモナリが負けた。

 居ても立っても居られなくなったヒカリがリュックから飛び出してきてテッサイに襲いかかった。


「ふぎゃっ!?」


 ただテッサイも油断しておらずヒカリは普通に頭を木刀で殴られて床に叩きつけられた。


「なんじゃ!」


「ま、待ってください!」


 突然現れたモンスターに驚きながらもテッサイは再び木刀を振り上げた。

 いかに木といえどなんとも殴られれば危ない。


 トモナリはヒカリに覆いかぶさって守る。

 テッサイが途中で木刀を止めなかったらトモナリが殴られていたところだった。


「どけよ! そやつは……」


「こ、こいつは悪いやつじゃないんです!」


 世界を一度滅ぼした竜のくせに何をしているんだと思いながらトモナリは必死にテッサイを止める。


「うぅ〜ごめん……」


「いいから黙ってろ! こいつ、人を襲ったりしないんで……」


「今まさにワシを襲おうとしたではないか」


「それは……俺を守ろうとして」


「なに?」


 テッサイは思いきり眉間にシワを寄せた。


「神切とか、もうどうでもいいから……その、このことは秘密にしてほしくて」


 トモナリの腕の中でヒカリはテッサイを睨んでいる。

 けれど黙っていろと言われたのでとりあえず黙ってはいた。


「そやつを横に置いて立て」


「はい……」


 こうなってはトモナリに逆らうという選択肢はない。

 大人しくヒカリを床に置いてトモナリは直立不動で立つ。


 テッサイは木刀を壁に立てかけるとトモナリの前に立った。

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