魔眼のチートを手に入れたダンピールの俺が王国をひっくり返すまで

第1話

マルディシア共和国

首都　アークベルク

王都内

「くそ、また違うのか」

王、カイザル・セルギウスは大声を上げる。

「も、申し訳ありません。あの、今回の母子はどうされますか？」

「適当に島流しにでもしとけ」

「王、僭越ではございますが、さすがにこう毎回だと…」

「あ？」

王の鋭い眼光が臣下を震え上がらせる。

「しょ、承知いたしました」

臣下は頭を地面がつくほどに深く下げ、走って部屋を出て行った。

「なぜだ、なぜ産まれん。魅了の魔眼よ」

それはマルディシア共和国代々より伝わる伝説

ー魅了の魔眼

目を見るだけで人々の魂を魅了、そして操ることができるという。

発動時、対象の目が赤くなるのが特徴。

初代王レイセント・セルギウスが開眼し、数百年間争っていたこのあたりの国々を魅了の魔眼の能力で統治したという。

それからセルギウス家は王の家系として代々勢力を拡大した。

その後、魅了の魔眼をもつものが稀に王の家系にのみ、誕生するという伝説が残されていた。

「あれさえあれば、この世全てをこの手に収めることも可能…絶対に諦めんぞ」

ふははは、王の気高い笑い声が王宮内をこだました。

ー

「おい、早く飲めよ」

高校1年、三森悠太の日常は、理想の高校生活からはかけ離れていた。

目の前には便器、後ろには数人の同級生。

「悠太く～ん、早く～」

ゲラゲラ笑う同級生の笑い声に吐き気がする。

ああ、俺なんで生きてるんだろ。最近つくづくそう思う。

学校ではいじめ、家に帰れば酒を飲んだ親から罵倒の嵐。

この世界に、俺の居場所はない。

「やめろ」

今まで特に抵抗もしなかった俺のその言葉に、周りが静まる。

「は？今なんて言った？」

今にも襲い掛かりそうな同級生の腹に俺は一発こぶしを入れた。

「ぐっ、、」お、意外と綺麗に入ったか。

「おい、大丈夫か」

周りがそいつの心配をしている間に、俺はトイレから抜け出した。

「おいこら、てめー待て！」

名前もよく知らない同級生の声を無視して、俺は走る。

もうどうでもいいんだ。

ついた先は、学校の屋上。

今日も嫌味なくらいに青い空がまぶしかった。

「はあ、もう俺頑張ったよな」

その時、途端に涙が出てきた。

こんなクソみたいな人生でも、頑張りたかった。

でももう、無理かもしれない。

この人生に悔いはない。けどせめて童貞は卒業したかったな。

来世では、願わくばイケメンでモテモテで強い男になりたい。

あと優しい家族と、あと…

ふ、バカだな俺。最後にこんな妄想をしても虚しいだけなのに。

気持ち程度に設置されてるぼろぼろの柵を乗り越え、屋上の淵に立つ。

「さよなら」

俺は何のためらいもなく飛び降り、意識を手放した。