第47話 需要と供給

 GAT隊が熱気を帯びている頃、創真の元に東雲さんから電話による注文の催促がきていた。


♠♠♠♠♠


「創真君、剣の調達はどうかな?」


 現在まで納品した剣の数は一五本とバッグラーが一個。東雲さんが言うには全然足りないらしい。

 今週中にGAT隊が五〇人まで増えるので、最低あと三五本は欲しいとの事だ。

 また、防衛大臣辞任によるGAT隊の影響はないとの事で不渡りの心配は無いらしい。ていうか不渡りって何?

 商人は色々と勉強が必要だ。


「頑張ります!」


 オレは電話を切ると、机に向かいカレンダーを広げて今後のスケジュールを書き込んでいく。

 そう言えば、中学生の時にテスト1週間前の勉強スケジュールを書かされたっけ〜。


「え〜と、月曜日は日本で勉強だな。火曜日は異世界で二日間狩り。水曜日は異世界で二日勉強。木曜日は異世界で二日狩り。金曜日は週末だから異世界で二日勉強した後二日間は狩り。土曜日は異世界で三日狩り。日曜日は狩りと勉強にしておこう」


 いざカレンダーに書き込んでみると……。


 むむむっ? 訳が分からん!


 特に金曜日だ。戦闘装備と勉強道具を一度に持ち運べない。それに、ズタ袋で運べる量は八個まで。もっと効率を上げるにはどうすれば良いのだろうか?


 考えろ、考えろっ……そうだ、連泊という手があるじゃないかっ!


 連泊にすれば、装備や武器や勉強道具を毎回持ち運ぶ事なく宿屋に置いておける。それに、わざわざ転移の丘まで行かなくても、宿屋の部屋から直接転移ができる。

 現在の所持金は銀貨三枚で二泊分。この二日で一週間分の連泊費用、金貨一枚を確保すれば、自転車操業ではあるが何とか回せそうだ。

 オレは連泊を前提にスケジュールを組み直した。


月曜日 異世界で勉強 二日

火曜日 異世界で討伐 二日

水曜日 異世界で勉強 二日

木曜日 異世界で討伐 二日

金曜日 異世界で勉強 二日

    異世界で討伐 二日

土曜日 異世界で勉強 二日

    異世界で討伐 二日

日曜日 フリー


 うん、これなら分かり易い!


 一週間の勉強時間は、なんと八日間。一週間以上あるじゃねぇかぁ〜! とツッコミを入れたくなる。

 問題は剣の調達だ。


 東雲さんは週末までに三五本が欲しいと言っている。これが社会で習った需要というヤツだ。

 需要に対してオレの供給実績は四日で八本。このスケジュールでは八日間だから実績ベースでいけば一六本。それと日曜日のフリー枠を使えばなんとか二四本が供給可能だが、三五本には十一本足りない。


 そう言えば、少し前のニュースで半導体が不足して自動車が作れず、納車が一年待ちとか言ってたっけ?

 これと同じで需要に供給が追いついていない。増産が必要だ! いや、作っている訳ではないので能増が必要だ!


 あとは、母親の協力が必要になってくるのだが……。


「創真、ご飯よ〜!」


 オレは夕飯を食べながら、母に先程作ったスケジュールを見せて、異世界で武器を調達している事を包み隠さずに話す。


「母さん、実はね、オレは異世界で……」


 すると、母はあんまり驚いた様子もなく、オレの話を全て受け入れてくれた。


「母さん、信じてくれるの?」


「親が息子を信じないでどうするの。それにね、二週間で一千万円を貯めるなんて普通じゃ出来ないわ。何かあるとは思っていたけど、まさか異世界とはね!」


「ありがとう。それに危険は無いから心配しないで」


 オレは小さな嘘をついた。


「分かったわ」


 母は微笑んでうなずいてくれたが、たぶん嘘という事はバレているのだろう。


 オレは自分の部屋へ戻り装備を整えると、異世界転移を唱えて冒険者ギルドへ向かった。

 ギルドに着くとファームガードの伝言は無く、必然的に今日と明日はソロで討伐という事になる。

 マップを見て良さそうなものを物色すると、西門から十キロ西南の湖に、我魔呂ガマロLv7の付箋を発見する。


「タケじい、これなんかどうかな?」


「う〜む、これは水の中じゃな。濡れるぞ?」


 オレは水辺の魔物は初めてなので何が必要かが分からない。しばらく考えていると、タケじいが何かを閃いた様でニヤニヤしだした。


「創真よ、お主に取っておきの技を伝授してやろう!」


「あ、ありがとう。どんな技なんだ?」


「それは、現地に行ってからのお楽しみじゃ。カカカッ!」


 このじじい、もったいつけやがって!


 早速オレ達は湖へ向かう。

 三〇分歩いて現地に着くと、湖はうるさいくらいにカエルの鳴き声が響き渡っていた。


 ゴゲエッ、ゴゲエッ、ゴゲエッ!


 湖にはオニバスが繁殖しており、無数の大きな葉っぱの上に、ウシガエルみたいなカエルが一匹づつ、まるで自分の縄張りを主張するかの様に陣取っていた。


「創真よ、あれがガマロじゃ!」


 茶色でこぶし大ぐらいの太ったカエルだ。オニバスの葉の上にいるので見つけ易くはあるが、岸からは距離もあり泳がないと届かない。ましてや、剣とバッグラーを持って泳ぐなんて無謀過ぎる。

 いったい、タケじいの技とはどういうものなのだろうか? 魔法でも教えてくれるのかな?

 オレが期待して待っていると、タケじいが口を開いた。


「創真よ、この状況でお主ならどうする?」


「魔法かな?」


「ほ〜う、いつから創真は魔法が使える様になったんじゃ?」


「嘘です。ごめんなさい」


「素直でよろしい。では、携帯食をそこに並べるのじゃ!」


 オレはリュックの中からお菓子の袋を取り出して並べる。


「よ〜し、ワシの取っておきの技を教えるぞえ。奥義『楽してカラスに働かせる』じゃぁ〜!」


 大体分かった。


 このじじい、最低だなっ!



【第47話 需要と供給 完】

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