第17話 レア魔石換金
冒険者ギルドに着いたのは午後八時少し前。換金窓口のおばちゃんが、オレを見て、ご機嫌ななめの顔をしている。
「いらっしゃい、あんた今何時だと思ってるの。閉店一〇分前に来るなんてっ!」
そう言えば、最初の説明でギルドの営業時間を聞いていた。
たしか開店が午前一〇時で、閉店が午後八時。但し、午後八時になった時点で業務が終了するから、時間に余裕を持って来るようにと言われていたんだっけ。
オレはおばちゃんに、ひたすら謝る。
「ごめんなさい。ごめんなさい。だけどお金が無いんです。換金しないと今晩は宿に泊まれないんです。どうかぁお願いします。ううう……!」
オレの必死の訴えに、おばちゃんは諦めた顔をする。
「しょうがないね、今回だけだよ。魔石を出しておくれ」
「あ、ありがとうございますっ!」
オレは袋からスライムの魔石五〇個とメタルスライムの魔石一個、ゴブリンの魔石一個をギルドカードと一緒に差し出す。
すると、おばちゃんは驚いた顔で聞いてきた。
「おややっ、これはメタルスライムの魔石じゃないかッ! 一体どこで見つけたんだい?」
「西門近くの小川です」
「うそぉ〜、そんな近くにいたのかい? これはちょっとした事件になるね!」
事件って、一体何が起きるんだろう?
オレは怖くて聞き返せずにいると、おばちゃんは黒の魔石をトレイに戻し優しく笑う。
「今計算するからね、期待して待ってておくれ!」
そう言うと、おばちゃんはカウンターの後に姿を消した。しばらく待っていると、トレイにお金を載せて再びカウンターに出てきたおばちゃんがニッコリ笑う。
「お待たせ、金貨五枚と銀貨六枚になったよ。おめでとう!」
トレイの上には初めて目にする金貨と銀貨、それとギルドカードが載っていた。
「ええっ、金貨が五枚もぉ〜! メタルスライムって一体何物?」
オレが驚きの雄叫びを上げていると、おばちゃんが聞いてくる。
「アンタは幸運の持ち主だね。名前は何て言うんだい?」
ギルドカードを見れば分かるだろうと思いつつ返事をする。
「大和創真と言います。今日、冒険者登録をしたばかりです。これからよろしくお願いします!」
「まぁ、丁寧な子だね。私はカレン・マクレガー。カレンと呼んどくれ!」
マクレガーってキャロルさんと同じだけど家族かな? 今度聞いてみよう。
「カレンさん、ありがとうございました!」
その後、武器屋へ急いだが既に閉店。オレは店の前で途方に暮れ、地面に座り込んだ。
「なぁタケじい、どうしようか?」
「そうじゃのう、ここから転移して日本に帰っても良いのじゃが、スキルインターバルがあるからのぉ〜」
「スキルインターバル?」
「そうじゃ、異世界転移にはスキルインターバルがあってのう、一二時間の間隔を空けないと使用できんのじゃ。ここに来たのが午前十一時じゃから、次に使用できるのは午後十一時。あと三時間もあるが、創真はどうする?」
実際、オレはヘトヘトだった。考えてみれば朝起きてから一八時間以上起きており、本来ならもう寝ている時間だ。ご飯も食べたいしお風呂にも入りたい。
オレは、ここで宿を探す事に決めた。
宿は意外と簡単に見つかった。中央の通りを歩いて行くと、いくつもの宿屋が明りを灯して建ち並んでおり、オレは適当に手前の宿を選んだ。
宿の名前は『
宿の受付で値段の説明を受けると、一泊朝食付で銀貨一枚、夕食が付けばプラス銅貨五〇枚との事だ。
また、ここは一般旅行者向けの宿で冒険者は滅多に来ないそうだ。そして、今日はもう遅いので夕食は出ないが、お風呂には入れるらしい。
オレは二階の客室に案内された。案内された客室は小綺麗で案外広く、ベッドとソファーと机が置かれ、日本のちょっと大きめのビジネスホテルを思わせる。
しかし、ベッド横のルームランプが不思議な違和感を漂わせていた。
「なぁタケじい、この世界は中世のヨーロッパ程度の文明だと思っていたんだけど、時計もあれば灯りもある。不思議なんだよなぁ」
「そろそろ気付くと思っておったぞ。では、この世界の事を少し説明してやろう」
好奇心をくすぐられ、オレの目が輝く。
「まず、この世界の動力源は全て魔石なんじゃ。灯りは光属性の魔石、時計は土属性の魔石を使用しとる。風呂は水属性と火属性の魔石を使っとるのじゃが、魔素を使い切ると魔石が消滅するので補充せねばならん。現代の電池と同じじゃな」
「なるほど、だから魔石を買い取って貰える訳だね?」
「その通りじゃ。逆説的にいうと、この世界は動力源を魔物に依存しとると言っても良いじゃろうな!」
この世界の事を少しだけ知ったオレは、気になっていた一階のお風呂へ移動した。
お風呂は男女別の露天風呂になっており、小さな洗い場と大きな岩場の湯船、さすがに獅子威しは無かったが、日本の露天風呂を思わせた。
オレは早速お湯に浸かる。
「う〜ん、熱いお湯が全身に染み渡るぅ〜!」
異世界で、お風呂に入れるとは夢にも思っておらず、やけどの腕は多少しみたがそれ以上に癒やされた。
「タケじい、いるかぁ?」
「ふぅぅ〜、なんじゃぁ〜?」
視界に映し出されたタケじいは、同じ湯船に浸かっていた。
「タケじいも風呂に入るのかぁ〜?!」
「バカモン! ワシはお主と感覚を共有しとる。お主が風呂で気持ち良いと感じれば、ワシも気持ち良く感じるんじゃ! もっとも、プライベートな部分は意識を遮断しとるから安心するが良いぞ、カカカッ!」
「……頼むよ」
オレはお風呂を十分に堪能し、部屋で日本から持って来た携帯食を食べると、一日の疲れが一気に押し寄せ、いつの間にか眠ってしまった。
【第17話 レア魔石換金 完】
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