第8話 真壁家の人達
翌日、学校へ行くと昨日の不審者事件の話題があちこちで飛び交っていた。
「創真、昨日はお前と真壁さんに何があったんだ?」
「え〜と、ゴブリンに襲われたんだよ!」
「またまたぁ、冗談かましてんじゃないよ。ゴブリンに襲われたら間違いなく死んでるから!」
あ〜ぁ駄目だこりゃ、昨日の警察官と同じだ。香織も同様に友達から質問責めにあっている。
もう不審者でいいやと思い香織の席へ近づくと、「白馬の騎士様が来たわ、私達は退散しましょ」とか言って、香織を囲む女子達は含み笑いを浮かべながら離れて行った。
「香織、昨日の事件だけどゴブリンでは通じないよ。不審者で話を合わせないか?」
「うん、私も困ってたの。あのね創真君、昨日は助けてくれて本当にありがとう。それでね…父がね…私もなんだけど、お礼がしたいから私の家で夕食をね、今週の土曜の夜は空いてるかな?」
言葉がちぐはぐだけど意味は通じている。香織は顔を赤らめながら上目遣いでオレの答えを待っている。クラスのヤツらは興味津々で聞き耳を立てている。
この状況で断われる訳ないじゃないかっ。
「香織、土曜の夜は空いてるよ」
「ほんとぉ〜、それじゃ午後六時に私の家に来てくれる? 住所と地図は後で渡すね!」
「分かった」
オレが席に戻ると、静かに聞いていたクラスのヤツらが一斉に騒ぎ出し、一限目が始まるまで騒ぎが収まらなかった。
・・・・・
土曜日の夕刻。
オレは母親から手土産を持たされ電車に乗った。真壁家は自宅の最寄り駅から二駅と案外近い。駅を降りて地図を見ながら真壁家を探す。
今時、紙の地図で家を探しているのはオレくらいのものだろう。
しばらく歩くと門構えのしっかりした立派な邸宅が現れる。家の表札には真壁と書いてある。
オレが門の前で躊躇していると、突然門が開き香織が出てきた。
「創真君、いらっしゃ〜い! 駅まで迎えに行こうか迷ったんだけど、創真君携帯持ってないし、行き違いになったら困るし、無事に着いて良かったわぁ!」
「お、おお」
「さあ、入ってぇ〜!」
香織がオレの手を取り門を潜る。広くて綺麗な庭は十分に手入れされており、その奥には立派な玄関が見える。
玄関前に着くと、心臓の鼓動がドキドキ高鳴る。
手土産は大丈夫か? 挨拶は何て言おうか?
お父さんこんにちは、イヤ違うな。
つまらない物ですが、イヤイヤ。
そもそも、お父さんはマズいだろ。付き合ってる訳でもないのに。
オレはタケじいに助けを求める。
「あぁタケじい、どうしたらいい?」
「まったく、お主はくだらん事にワシを使うのぉ」
「ごめん」
「まぁ良い。普通に、こんにちは、おじゃまします。これは母からです。これで良いじゃろっ!」
香織は、ぶつぶつ言ってるオレを見てクスリと笑う。
「創真君、緊張する事ないよ。パパもママも優しいから大丈夫だよ」
いやいや、それは香織には優しいだろうよ。まぁ結婚の挨拶をする訳でもないし気楽に行こう!
開き直ったオレは、玄関の扉を開ける。
ガラリッ!
「大和君、待ってたよ。さぁ〜中に入りなさい!」
いきなり、交番で会ったロマンスグレーの香織パパが玄関で待っていた。
「ええっ!! こ、これ母からです」
ヤバい、挨拶のタイミングがなかったぞ。それに、自分が何を言ったのか覚えていない。
心臓をバクバクさせながら、香織パパの後について行くと、長い廊下を過ぎて立派な応接室に通された。
「大和君、そこのソファーにかけてくれるかな」
「は、はい、失礼します」
何やら面接の様な気分だが、香織が隣に座ってくれたので多少気分が落ち着いた。そこへ香織ママが紅茶を持って現れる。
「あらぁ〜、大和君かしら! 香織を助けてくださって本当にありがとうございます。それにしても素敵な男の子ねぇ〜! もうすぐ夕食が出来るから、紅茶でも飲んでくつろいでて下さいね。あら香織、お料理を運ぶの手伝ってくれるぅ〜?」
香織ママの嵐の様な喋りの後に香織も去っていき、オレと香織パパだけが取り残された。
「さて大和君、改めてお礼を言いたい。娘を助けて頂き感謝している。本当にありがとう」
「い、いえ、たまたまです」
「ほぉ〜、たまたまゴブリンを倒せる短剣を持っていたのかい?」
「えっ!?」
香織パパの目が、獲物を狙う猛禽類の目に変わった様な気がした。
オレは警戒しながら紅茶をすする。
ヅヅッ……。
「いやぁ〜突然すまない。職業柄ゴブリンに関する事は何でも知りたくてねぇ〜。私は自衛官なんだが、テレビで知ってる通り、ゴブリンには銃火器が全く効かなくて困ってるんだよ。そこへ今回の騒動で、君が短剣でゴブリンを倒した事を娘から聞いたのだが……、それは本当かね?」
香織パパのペースに飲まれ、オレは正直に答える。
「ほ、本当です」
香織パパがニヤリと笑う。
「ほほぉ〜う! それで、その短剣というのはどのような物なんだい?」
「大和家の家宝です。死んだ父から譲り受けました」
「出来れば一度見てみたいのだが……、どうかな?」
「じ、実はここに持ってます。見ますか?」
「おおー、ぜひとも見せて欲しい!」
オレはバッグから家宝の短剣を取り出しテーブルの上に置いた。
「どうぞ……」
香織パパが短剣を手に取り、色々な角度から見て調べ始める。そして、オレの目を見る。
「大和君、剣を抜いてもいいかな?」
まるで、ヘビに睨まれたカエルの様。オレは言われるがまま返事をした。
「はい……」
香織パパは、じっくりと両刃の刀身を眺めていたが、ふと柄の宝石に気付く。
「大和君、この宝石は何かな?」
「そ、それは……」
オレは魔石と答えようとして留まった。魔石と言っても、たぶん通じない。どう答えようか迷っていると香織が呼びにきた。
どうやら夕食の準備が出来たようだ。
【第8話 真壁家の人達 完】
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