第25話 妖精さんと売れ行きの行方



1時間後。


チョコ餅10箱は全く売れていませんでした。

売り上げどころか、試食すら減っていない状況。


だから言ったじゃないですか、もう……追加10箱作っちゃった分どうしたら……。

愚痴っていても仕方ないです。


お客様に買っていただくために必要なのは、市場調査です。



「アンナ、売れ行きが良くない理由はわかりますか?」



一番近くでチョコ餅を見ていたアンナにその心当たりを効くのがいちばん手っ取り早いでしょう。


そして、真剣に考えて、思い当たるところを話してくれました。



「試食自体はお勧めしたのですが……未知の食べ物ということで、お客様は懸念してしまって……」



「僕らもお勧めしたー」



「でも、ダメだった!」



「あら、妖精たちに手伝ってもらってもダメでしたか」



可愛い売り子の押し売りにも惑わされないとは……結構深刻ですね。


見た目はトリュフチョコっぽいはずなんですけどね……粘り気があるのが、やはり気になるのでしょうか。


私は試食のチョコ餅に、試食用の使い切り爪楊枝を一本さして一つ頬張ります。

うん、うまい。


これが未知の食べ物だから食べにくいというのも、わからなくはない気はします。



「他には何かありましたか?」



「えっと……、買ったらすぐに食べないといけない……というのも結構ネックになってるみたいです。」



お客様の商品の会計をしながらアンナはそう答えてくれました。


なるほど、賞味期限……盲点でした。


数はそんなに入ってないはずなのですが…今日中に食べるというのがハードル高いのかもしれません。


あぁ……せめてこれが大福なら、もう少し日持ちさせられたのに。

如何せん、大福の作り方は知りません。


大福の素、とか白玉粉を使って作ったことはあるのですが、今この場にそんなものはありません。


というか、そんな材料があるかもわかりません。

餅米がここにあるだけでも奇跡なのです。


……餅っぽいけど、多分餅じゃない。


白玉粉とかそういった類のものが必要になるなら……もう私には手が負えません。

白玉粉の生成方法を知らないのですから。


まぁ、どのみち売れないなら仕方ないです、敗戦処理をしなければ。



「今日の追加分は、この10個で打ち止めにしておきましょう。」



「えー」



「やめちゃうんですか?」



アンナは私の提案を受け入れた様子でしたが、妖精たちからは大ブーイングです。



「これ、日持ちがしないので、売れないと破棄なんです……もったいないでしょ?」



そういうと、この場にいた妖精たちが、みんなうーんうーんと唸り始めました。


そして、店頭にいた妖精のうちの一人が、チョコ餅の入った箱を一つ触れて、私にこんなことを言いました。



「じゃあオーナー、これもらっていい?」



「え?」



「だって売れてないんでしょ?」



「捨てちゃうんでしょ?」



「もったいない」



「賄いのかわりに食させて〜」



なるほど、売れないってわかってるなら、いっそってことですか。


もっと粘られるかと思いましたが、意外に潔いですね。


まぁ……放っといてもカチカチになっちゃいますしね。



「わかりました、じゃあどうぞ、これ食べちゃってください。」



「「「「「わーい」」」」」


私はそう言いながら、一箱分を彼らに渡すと、妖精たちは喜んでそれを受け取りました。


そして、たくさんいるお客様の列を掻い潜って、それを持ってスキップしながらお店の外に出て行きました。


どうやらピクニック気分で日向ぼっこをしながら食べるつもりのようです。


残り19個


お店閉めてから作戦を……



「オーナー」



今後の展開を考えていると、さっき外に出て行った妖精とは別の、厨房にいた妖精達が声をかけてきました。



「はいはい、なんですか?」



「オーナーにお客様」



「お客様?どなたです?」



「内緒ー」



「太客が名前は言うなって」



「……太客……?」



この子達がいう太客なんて……一人しかいないじゃないですか。


私は追加の10箱分を店頭に陳列せずに、持ったまま厨房に戻りました。

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