第14話 妖精さんから宣伝されたお貴族様

「今朝は大変申し訳ございませんでした!お忙しい中、この子達が馬車をお止めしてしまって……」



私は深々と頭を下げた。

我がお菓子屋さんの宣伝を押し付けて、大事なお時間を奪ってしまったのです。


というより下々の人間が、格上の人間を呼び止めるなんてあってはならないことなのです。


例え私の売り上げに貢献しようとしてくれたことだったとしても、無礼は無礼。


私が謝罪している横でぴょんぴょんと飛び跳ねている、この都の重大さを理解していなさそうな妖精たちを静止します。


しかし、思いの外お貴族様は不機嫌な顔はしませんでした。




「いや、気にしなくていい。それより今朝は一生に一度会えるか会えないかって言われてた妖精が見られて、目の保養になった。」



そういうとお貴族様の男性は近くにいた一人の妖精とふれあいをしていました。

お貴族様が差し出した右手の人差し指に、妖精が両掌を当てていました。


惜しい。

中指と人差しを一本ずつ合わせていれば、どこぞこ海外映画のような宇宙人との交流と一致していたのに。


ちなみにお貴族様のお付きと思われしもう一人の男性は、お貴族様とは別の妖精と交流を深めていました。


こっちは妖精の頭を指一本でぐりぐりと撫でていましたが、妖精は怒ったり痛がったりすることなく「きゃー」と言って喜んでいたので、こちらの交流も良い感じみたいです。



「『妖精のお菓子屋』という看板に偽りなしだな」



どうやらご満悦の様子。

お店を妖精が自主的に手伝ってくれたことを、今日ほど感謝したことはない。

いや……まあ頭を下げてる理由は彼らにあるんだけど……まぁこれ以上は何もいうまい。



「きょ……恐縮です」



私はもう一度頭を深々と下げました。



「どうやってこれだけ大量の妖精を?」



「あの……それが……」



お付きの人の質問に私は言葉が詰まりました。

昨日、売上の話をしたら、拡大解釈した妖精たちが勝手にやった……なんて、いったところで信じてもらえるでしょうか……



「売り上げがトントン」



「売り上げ?」



「このままだと潰れちゃう」



「だからお手伝いした」



なんて、悩んでる間に妖精たちが勝手にペラってしまいました。

人が説得力ある説明を考えていたというのにこの子達ったら……



「意外ですね、これだけ繁盛してて赤字なのですか?」



「すみません、この子達の誤解なんです!暮らしていけるだけの売り上げは出してますので!」



ほら、お付きの人が勘違いしてしまいましたよ……恥ずかしい。

自分の店の金銭事情(しかも誤解)を知られるのは、赤面ものです。


気まずいので、さっさと用件を済ませてもらいましょう。



「それより、お貴族様がこんなところまで、どのようなご用件で?」



「そうだった、実は……探してるお菓子があってな……少し店の商品を見たいのだが……?」



「もうしわけございません、今日は大繁盛でして……この通り全て売り切れてしまして……」



「……そのようだな」



お貴族様は店内をぐるりと見回しました。

ショーケースもボックスも全て空っぽです。


残っているものなど何もありません。



「ここならもしかしたら……と思い来店したのですが……何かメニュー表とかあればもらいたいのですが」



お付きの人にそう頼まれました。

私はレジの横にあるパンフレットを手に取ろうとしたのですが……



「これどーぞ」



すでに用意していた妖精がお貴族様に直接お渡ししていました。

準備がいい……そして行動が早い。



「気が利くな、ありがとう」



快くお貴族様はそれを受け取りました。

しかし、お求めのメニューを見ることができたにも関わらず、渋い顔。



「挿絵……などはないようですね。」



「ありません」



お付きの人に残念そうにそう言われたので、残念なお言葉を返しました。

そんなコストのかかることしてらんないです。

しかし、変なことを聞くのですね。


挿絵がなければ小説が読めないという勉強苦手な学生じゃあるまいし。

そもそもお菓子の名前で大体想像できるものしかないはずなのですが、挿絵なくて何が悪いというのでしょう。


お付きの人の発言にお貴族様はこう言いました。



「いや…どちらにしろ、書かれてるものは全部知ってる食べ物だ。やはりないのだろう」



そう言ってため息を吐きます。

その様子から察するに何かお困りのご様子でした。



「何かお探しですか?」



何かこちらの落ち度があるかもしれませんので、一応聞いてみますと、何やら歯切れが悪そうに答えてくださいました。



「あぁ……前に食べた菓子をもう一度食べたいんだが、どこにもなくてな……」



「はぁ……しかし、お貴族様のお屋敷なら、お抱えのパティシエに頼めばよろしいのでは?」



わざわざこんなところに来なくても、頼んだその日のうちにはそのお菓子が提供されるでしょうに。

そう思ったのですが、お貴族様は首を横にふります。



「それが……誰もそのお菓子のことを知らなくて……」



そんな不思議なことがあるものでしょうか。

王宮・貴族のお抱えのパティシエは超一流。

自国はもちろん、交流のある国のお菓子の種類まで熟知しているはずです。

そんな彼らが知らない……なんてことあるでしょうか。


まぁ、マイナーなお菓子ならそういうこともあるかもしれません。

判断はそのお菓子の名前を聞いてからにしましょう。



「店頭に出してないだけで、私が作れるものかもしれません。オーダーいただければ、作り置きいたしますよ」



「それが……一度食べただけの菓子でな……見たこともないものだから、名前がわからないんだ。」



なんということでしょう。

それではお菓子を作ることができません。


まさか、名前も知らないお菓子食べられていただなんて……



「お名前わからないですか」



「それは困った。」



妖精たちまであんぐりと口を開いて驚いています

名前も知らないお菓子を探し出そうなんて……無謀ですよね。



「でもオーナーなら、作れるかもです」



って思ってたのになんて無茶振りをするんですかね、妖精という生き物は。

お断り案件ですよ。


まぁ、でも貴族からのオーダーメイドです。

うまくいけば、チップ弾んでくれるかもしれません。


やってみて損はないかもしれません。



「……見た目だけでもわかります?」



こうなったらお菓子屋さんの何かけて、推理してやろうじゃないですか。

ノノ・シュガー本気を出しました。

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