第5話 妖精さんと対面


『食べていい?』



『まだだめ』



『女の子がいなくなってから』



『でも、もってかれちゃうかも』



『そしたらお菓子ないないだね』


『そんなのいやー』



4・5歳くらいの子供の話し声が止まずに聞こえてくる……


変ね……今日のお茶会にそんな幼い子たちはきてないはずだし、声からして10人くらいはいる。

本当にそんな人数がこの庭にいるのなら、お茶会の後、誰も帰ってないことになる。


なにより、貴族の子息令嬢がこんなにがめついはずがない。


街の子供?


まさか……何人もの子供が屋敷の門を登って入ってきたっていうの?

そんなカオスな状況があったのだとしたら、誰も気がつかないはずがないわ。


そんなことよりも、この声の持ち主が誰かということが気になりすぎて、推理に夢中になっていた私の涙は、すっかり止まっていました。


顔を上げれば、正体はわかる。

しかし、逃げ足が早ければ見ることはできないかも……


もう少し突っ伏したまま、彼らの会話に耳を傾けることにしました。



『やっぱ食べよ』



『だからダメ、見つかっちゃう』



『なんで見られたらダメなの?死ぬの?』



『なんでだっけ?』



よっぽどお腹を空かせてるらしい、お菓子が食べたくて仕方がない……ということは理解できた。


だったら、黙ってこのままにしていればこっちに来るんじゃないだろうか。


私は狸寝入りをさらに続けることにした。


そして、その甲斐はあったようです。



『見られても死にはしない』



『でもいじめられるかも』



『怖い』



『でも、それよりお菓子食べたい』



『あーもう我慢できない』



そして子供のうちの一人が、ついに我慢できなくなったようだ。


いつの間にか、こちらにきたのだろう。


モゾモゾという音が聞こえました。


しかし不思議なことに、その気配はとても小さかったのです。

人間がきた気配ではありません。


足音、呼吸音、吹き抜ける風の量、影の量、全てを総合して考えても小さな気配……赤ちゃんよりももっと小さい生命体の気配です。


そして、サクッていう何かを食べる音が聞こえた。


物を食べる小さな生命体……もしかして小鳥?

でも、小鳥って喋ったっけ……?


我慢できなくなった私は、ゆっくり顔を上げると……




そこにはチョコクッキーをお菓子を頬張る、手のひらサイズの2頭身の人間がいました。




そして直感しました、この小さくて二頭身の彼らが、妖精なのだと。



そう理解した直後、テーブルの周りから賑やかな悲鳴が聞こえてきました。

よく見ると、テーブルでお菓子を食べている子以外にも茂みのあちらこちらから、彼ららしき影がいっぱい見つかりました。



「キャーーーーーー!!」



「見つかったー!」



「見つかった!!」



「戻れー」



「逃げろ逃げろ」




そう言って、妖精たちは逃げていきました。


しかし、一番逃げるべき妖精が、一歩も動こうとしませんでした。


そうテーブルに来てお菓子を食べている、私が気配を感じた子である。



「モグモグ」



しかも声まで出しましたよ。


普通物を食べながらオノマトペを発したりしないのですけれどね。

そのくらい余裕こいているようでした。


妖精は恥ずかしがり屋なんじゃなかったっけ。



「………」



「………」



こんなにも私と目が合っているというのに、ボリボリとお菓子を食べ続けます。

痺れを切らした私は、聞いてみることにしました。



「あなた……逃げないの?」



「なんで?」



それは知りませんけど……というか、私が一番聞きたいですそれは。

キョトンとした表情で私に質問をし返してきた妖精に対して、私はそう思いました。


気になったので、私は追い質問を投げかけました。



「……他の子は逃げたわよ?」



「でも死ぬわけじゃないみたいだから」



それはそうでしょうけど……

じゃあなぜ妖精たちは人間から隠れようとするのでしょうか?


謎が謎を呼びます。

生まれて初めて遭遇した妖精に、気がつかないうちに興味津々でした。

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