Ⅱ 雪弦の幼少期への追憶
1.二人の出会い
別名に“世界最高峰の教育機関”、“世界一美しい学園”などがある。スクールカラーはロイヤルパープル、ロイヤルブルー、純白の3色。世界各国の首都に学舎がある。
こんな情報は世界中の一般常識とされている、ウェリタス・カレッジ・スクール。
日本にある東京中等院の回廊を、少女は、しっかりと磨きあげられた黒い革靴のかかとで小気味よい音を立てながら歩く。
「なんなのよ、本当に……。」
雪弦は一瞬、泣きそうに顔をゆがめた。
「本当に、嘘つきよね。」
彼女は時間を確認し、近くにあった螺旋階段を降りた。
彼女が進んだ先にあったのは、美しい細工で装飾されたガラス張りの温室。優美な彫刻がほどこされたスティックハンドルの付いたドアをドアパーソンに開けてもらい、一種の芸術と言っても遜色のない室内庭園に入る。調和のとれた香りをまといながら小道を進み、ガゼボ内の椅子に座った。
そして、まぶたを閉じて幼い日々の思い出に意識を移し、追想する。
◇◇◇◇◇
初夏の澄んだ青空。真っ白な機体は陽光に反射し、輝く。雲海をくぐりぬけた飛行機が、東京国際空港に向かって降りていった。
◇◇◇◇◇
「危ないから離れてはだめよ。」
プライベートジェットから降りた女性が語りかけると、彼女の腕に抱えられていた幼い少女はこくりとうなずいた。
風が吹き、女性のゆるくウェーブした黒髪がふわりと揺れる。先祖返りの蒼い瞳が見つめる先には、機体から降りてきた一人の男性が映っていた。艷やかなストレートヘアは目に鮮やかなローズブロンドで、ヴィオーラの瞳は思慮深く透きとおった光を宿している。
少女は、女性から男性に受け渡された。そのとき視線が絡み合い、どちらからともなく微笑み合う。
「マンマ、パパ。ご用事があるから急ぐのではないの?」
二人の間にはさまれた、首をかしげる少女に言われて、二人はハッとしたように彼女に視線を移し、再び顔を見合わせてから歩き出した。
圧倒的なオーラをまとい、目も綾な容姿をしている彼らは、周囲から明らかに浮いていた。世界有数、いや、世界で一、二番を争うほどの財力を誇り、幅広く展開しているジャンルはすべて成功させ、さらに、世界の経済への貢献、難民などへの惜しみない救済措置をしていることで知られているアウロラ・グループ・カンパニー。その一番トップが所持しているプライベートジェットから降りてきたのだ。それらを総合して考えれば、目立たないほうが無理というものだ。
「お三方、落としましたよ。」
国際線の到着ロビーを歩く彼らの背に、声がかけられる。振り返ると、子連れの女性が立っていた。先程まで持っていたであろう荷物はかたわらに置かれている。空いた手には、一本の白いリボンがのせられていた。
「あっ。それ、わたくしのよ。」
少女は、父の腕の中で髪に手をあて、声を上げた。父親は苦笑すると、リボンを差し出す女性に向き直った。
「あぁ、
「えぇ、お久しぶりですね。ミスター・ランディクアロリス、ミセス・ランディクアロリス。それから、そちらのご令嬢はお二人のお嬢様ですか?」
その言葉に、少女の父は嬉しそうにほほ笑んだ。
「えぇ、そうなんです。ほら、夫人にご挨拶なさい。」
少女は床に立ち、幼い体でせいいっぱい美しい所作をとる。
「リュディヴィーヌ・エリノア・ジークリット・近衛・雪弦・ランディクアロリスと申します。両親が大変お世話になっているそうですね。これからは、わたくしともども、末永くお付き合い願えればうれしいです。」
真っ白な肌に映える、父親ゆずりの艶やかなローズブロンドは、母と同じようにゆるくウェーブしている。
幼いながらも光り輝かんばかりの美しく透き通った容姿に、思慮深く洗練された言動。まさにあの親にしてこの子あり、といったさまである。
王来王家夫人は、ほぅ……と、無意識に感心のため息をつき、にっこりと上品に笑う。
「ありがとう。わたくしは、
母親の隣でたたずんでいた少年を、夫人は前に押しだした。少年は、緊張した面持ちで、だが、洗練された言動で挨拶をする。
「初めまして。僕は、
——これが、雪弦と颯雅の、出会いの瞬間だった。
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