第4話 猿に猿芝居を打つ
「んじゃ、私たちは七区に用事があるから留守番頼んだぞ。」
「ほなそうゆうことで、よろしく頼むで。」
「火野さんから忠告はされてるでしょうけど、勝手に自然界に行かないでくださいね。」
重い瞼を必死にこじ開けようと、二度寝の快楽に溺れようとする体を起こそうとするも空しく。キリエパイセンたちの言葉を聞いて再び眠ってしまっていた自分に洗面所で顔を洗って、眠気に鞭を与えて冴え始める。
「七区に用事があるって何だろう?」
思考を巡らすが、二度寝の影響か全く覚えてない。おとなしく家の中で待とうとリビングに行くとメモ書きと鞘に納められたナイフが置いてあった。
メモ「星谷へ、私たちが七区に行っている間に修行をしてもらう。それは昼食の確保。今回ばかりは特別に自然界で食料を調達することを許可する。ただし、クリーチャーと接敵したら構わずに逃げろ。もし、クリーチャーと戦闘になってしまったときは隣に置いてあるナイフを使え。そのナイフで決して自分の肌を傷をつけるな、下手すりゃ死ぬからな。by火野」
「え、冷蔵庫もしかして!?」
朝食と書かれたラップされたサンドウィッチ以外、冷蔵庫はからっぽであった。
「もしかして買い出しか?でもそれならわざわざ二人を連れだす理由なんてないし…」
とりあえずはサンドウィッチを食べながらリビングのテレビを流す。チャンネルを切り替えながら面白そうな番組を探していると何かのライブ中継が行われていた。
カメラの前に映る怪しげな青の色オールバックに白色のメッシュと二本の長くまとめた襟足の長身の男。ピエロのようなメイクに目元には右左それぞれクローバとスペードを施し、道化師のような灰色のノースリーブの服には右にハート、左にはダイヤが書かれている。片手には大鎌を持ち、もう片手で何かのカードを見て不敵に笑っている。
「ンフフフ…太陽の正位置、意味は喜びか…♢テレビの前の君たちの事か、それともボクの未来の話か?何にせよ、いい事には変わりないね♤」
そう言って男は高台から飛び降りて行く。その姿をカメラが追いかけるとその先には複数体の人型のクリーチャーの真ん中に男は着地していた。
クリーチャーたちは、それに気付くや否や一斉に攻撃を始める。
「ありがとね、一斉に襲ってきてくれて♡…処理が楽で助かるよ♪」
男は大鎌を手に急速に回転を初め、その男を中心として黒い竜巻が雷を伴いながらクリーチャーたちを飲み込んでいく。
「す、すっげぇ…」
圧倒的な破壊力で一斉に竜巻に中から放りだされる
「流石は
「俄然やる気が出てきたな。朝食食べ終わったら早速向かうか!」
朝食を食べ終わり、一応槍とあのナイフを持って洞窟の外に出る。今日の昼飯をどうしようかと獲物を探し、自生する野菜たちを取りながら自然界を進んでいく。
自然界は元は人が住んでいた土地、それ故に畑などの野菜が野生化し、自生していることは少なくない。現在の七区は元は刈谷市と呼ばれた場所に相当するため、洞窟周辺の土地は元は知立市と呼ばれる刈谷市の隣にある市である。現在地的に昔の地理では畑などは存在しなかったがそこには白菜が自生している。これもZONEによる繁殖力の増強によっての影響なんだろうか?
「おいおい、これじゃただのサラダが出来上がっちまう。せめて肉が欲しいな。」
ガサガサ…
「ん?…誰かいるのか?って誰かいる訳でもないか。いるとしたらクリーチャーか…」
一先ず木陰に身を隠して、クリーチャーが通り過ぎるのを待つ。
なんだ?あのクリーチャー?
人型ではあるがまるで、例えて言うのなら自然に取りつかれた人間ようだ。しかも後ろからゾロゾロと別のクリーチャーが群れを成している。
やべぇやべぇ。俺、とんでもないヤツ見ちまったのか!?
コロコロ
足元の小石が転がり落ち、音を立ててしまった。
その音に反応し、人型のクリーチャーの目線がこちらに向く。そして群れの一体に視線を送り、こちらにクリーチャーを送り込む。
まずいっ!?!?
急いでその場を離れ、家に向かう。
なんだアイツ!?知能があるのか?とにかく家に帰らなきゃ。ここで逃げなきゃどうなることか!幸いにも群れの連中には飛行ができそうなクリーチャーはいなかった。この情報を持ち帰って伝えなきゃいけない。未だかつて人型でなおかつ他のクリーチャーを使役するクリーチャーなんて図書館で読み漁った論文なんかには記述が無かった!悔しいけど、今の俺にはZONEも持っていない人間にあの集団はどうしようもできない。だから、生きて逃げなきゃ!!!
全速力で樹海の中を走る。一応は集団の姿が見えなくなった。逃げきれたと思っていたが、しかし、黒い影が俺の頭上を通り過ぎ、俺の目の前に降り立つ。
先の人型ではないようだが、別種の人型のクリーチャーだった。後ろを確認するが追加の追ってはいない。目の前のサル一匹だ。
「戦闘を避けると言われてんだが、こんな知能が高そうな人型。生かしておく方が今後厄介なことになる。いや、サルだから知能は低いか?」
槍を構えてサルを睨みつける。サルもこちらに威嚇する。少しの間両匹に沈黙が走る。
そして
サルがこちらに飛び掛かる。俺は槍でサルを薙ぎ払い、こちらから距離を詰めてサルの心臓目掛けて槍を突き刺そうとするが、サルは槍をつかんで逆にこちらに近づいてくる。
「ちっ、どきやがれ!」
近づいたサルを拳で殴り引き剝がそうとしても、サルはガッチリと槍を掴んで離さない。
「ぶっ飛べッ!くそザル!!!」
槍をサルごと投擲して近くの木に刺さる。しかしこれが仇となる。サルは突き刺さった木に登り、木から木へと飛び移りながら、俺に木の実などを投擲する。
「向こうは逃げる気は無いらしい。俺の周りをずっと飛び回っているからな。だけど木の実の投擲だけでは俺を殺せないことは、あのサルでも分かっているはずだ…狙ってんのか、俺を獲れるその瞬間を……だが、こっちも持ってんだぜ?獲れる手段ってのをなッ!」
懐からナイフを取り出す。人肌を傷つければ死に至ると火野さんが書いていたナイフ。人がダメだったら、その進化前のサルにだって効かない道理はないもんなぁ。
後頭部に木の実が当たり、俺は足をよろめかせ地に伏せる。
サルがこちらを確認しに木から降りる音が聞こえた。一歩、また一歩とこちらに近づく足音に耳を澄ませながら、距離を測る。最適なタイミング。それを逃したら最後二度は通じない。
薄く片目を開けてサルとの距離を改めて測る。
あと、3......2......1......
「今だッ……!!!」
瞬時にナイフを棹から抜いてサルへと突き刺す。突き刺した瞬間に雷鳴の如き怒号とともにサルの頭上から雷のようなものが落ちる。
「ヴァカめ!サルが猿芝居に騙されてやんのぉーーー!!!」
サルは直撃を食らって感電し、骨の芯から真っ黒こげで感電死したようだった。それに驚きなのはそんな落雷の発生源のナイフを握っていた自分自身が感電しなかったことだ。ほぼ直撃を食らったのに無傷の自分が不思議でならない。
「もしや、俺にも遂にZONEの目覚めが!?感電しなかったってことは、もしかしてゴム人間にでもなったのか!?よし、試してみよう!」
腕を伸ばそうと自分の腕を掴んで伸ばしても全く伸びない。
「あ、あれ?ウデガノビナイゾーー??ど、ドウナッテイルノカナ???………クッソッ!なんだよ!せっかく自分のZONEが分かったと思ったのに!!!」
その後、焼け焦げたサルの死体を土に埋めた後、俺は家へと帰宅した。
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