第20話 この決闘は見守るしかない
「――という話でして」
フェリックスは事の顛末をアルフォンスに報告する。
通信魔法で助言を乞うと、アルフォンスのため息が聞こえた。
「貴様は短期間でよくトラブルに巻き込まれるな」
「授業直前にすみません……」
「貴様がどうすればいいか、端的に伝えるぞ。いいか? 一度だけしか言わないからよく聞け」
フェリックスはアルフォンスの話を聞く。
「まず、今回の決闘は特殊だ」
特殊?
クリスティーナが三回決闘を行うのではないのか。
「生徒の場合、決闘は月に一度しか行使できない。そして、一対多数の決闘は校則で禁止されている」
「えっ、それだと――」
「最後まで聞け」
ぴしゃりとフェリックスの発言は遮られる。
「そのため、今回の決闘は三対三のチーム戦になる。決行は一週間後。そう、生徒たちに宣言しろ」
「わ、わかりました」
「じゃ、俺は授業に入る。授業が終わるまで連絡してくるなよ」
プツッ。
通信魔法が切れた。
やっぱり、アルフォンスに電話するのは緊張する。
フェリックスはアルフォンスとの通話が終わり、いがみあっているクリスティーナと三人の生徒たちに視線を戻す。
これ以上騒動を起こさないよう、学級委員長のヴィクトルに様子をみてもらっていた。
他の生徒は、遠巻きに様子を伺っている。怯えきった生徒も中にはおり、三年A組の女生徒のようにトラウマになってしまわないか不安だ。
「意見が割れましたので……、決闘という形で決着をつけることになります。四人とも、それでいいですね?」
「もちろん」「いい機会だわ」「上等だ」「やってやる」
四人ともそれぞれの返事がきた。
「今回の決闘は三対三のチーム戦になります。一週間後に行いますので、クリスティーナさんはその間に二人、集めてください」
「えっ!? わ、わかりました……」
思っていた決闘と違うと、クリスティーナは動揺したものの、すぐにフェリックスの提案を飲む。
自分から言いだした決闘だ。どんなルールでも引き返せないのだと理解しているのだろう。
「決闘の意思があることを確認したので、双方の勝利条件を聞きます。まずはクリスティーナさん」
「私のことをクラスメイトの一員だって認めてほしい」
「わかりました。では、代表してマインさん、あなたはどうしますか?」
「クリスティーナの退学です!」
それぞれの勝利条件を確認する。
クリスティーナは存在の主張、マインはクリスティーナの退学を求めた。
「決闘の審判は――」
ここでフェリックスの言葉が詰まる。
担任のリドリーが務めるのだろうか、現場で取り仕切っているフェリックスが務めればいいのか。
アルフォンスに聞いておけばよかった。
「……当日に僕かリドリー先生が担当します」
考えた末、フェリックスは先送りにした。
「ですので、決闘までの間、互いに干渉しないでください。そのような動きがあった場合、反則負けになりますからね」
こう言えば、一週間は問題を起こさないだろう。
「ヴィクトル君、学級委員長として、四人の監視、お願いします」
「は、はいっ」
「では、皆さん、次の授業の先生を待たせています。壊れた椅子と机を廊下に出したら、授業を受けてください」
二年B組の生徒全員に指示を送り、フェリックスは教室を出た。
少しして、壊れた椅子と机が廊下に出される。
「フェリックス、これは一体――」
廊下で待機していた中年の男性教員がフェリックスに事情を訊く。
「えっと、生徒同士で攻撃魔法を撃ち合いがあって――」
フェリックスは彼に経緯を説明する。
アルフォンスのように簡潔に要件を伝えられなかったが、彼は状況を理解してくれた。
「なるほど。決闘か」
「そうなってしまいました……」
「それはフェリックス君の責任ではないだろう。リドリーが戻ってきたら、決闘の件、伝えておくんだよ」
「はい」
「あと、用務員に壊れた椅子と机のことも伝えてくれないか? 早急に新しいものを用意しないと」
「やっておきます」
中年の教師はフェリックスに頼み事をしたのち、深い溜め息をついて教室に入った。
自身の授業前に面倒事が起これば、ため息もつきたくなるだろう。
☆
フェリックスはリドリーが戻るまで、資料室で自習と日報の記入をしていた。
最低限のことは済ませたものの、フェリックスの頭の中はクリスティーナが決闘をする問題で頭がいっぱいだった。
(こんなこと、ゲームにはなかったのに……)
マクシミリアン公爵邸から持ってきた夢日記にもクリスティーナが三対三の決闘をするなど、書かれていない。
決闘騒動になってしまったのは、クリスティーナの世話役をヴィクトルではなく、ミランダに頼んだせいだ。
ミランダとの特訓で、四属性の初級攻撃魔法を放てるようになったため、クリスティーナの自信がつき、好戦的な子になってしまった。
(この決闘でクリスティーナが負けたら……、チェルンスター魔法学園を退学)
バッドエンド確定である。
フェリックスは最悪の事態を想像し、頭を抱える。
(セーブもロードもないんだぞ、一発勝負なんだぞ)
この世界をゲームで体験していた時は、バッドエンドになったとしても、何度でもセーブ前に戻ることができた。
だが、今のフェリックスにとって、ここが現実。
タイムリープなんて能力、モブキャラのフェリックスが体得しているわけもなく、バッドエンドになったらそれでクリスティーナの人生は終わる。
(今から決闘を取り消しとかにできないかな……)
取り消しになれば、こんな心配をする必要がない。
淡い期待を抱きながら、フェリックスは自習室を出た。
☆
職員室に入ったフェリックスは、リドリーのデスクへ向かう。
リドリーは外出から戻ってきており、書類のチェックをしていた。
フェリックスはリドリーに声をかけ、二年B組で騒動があり、決闘に発展したことを説明する。
そこで、決闘を取り消しに出来ないか相談するも――。
「無理ですね」
リドリーが即答した。
「決闘の宣言をしてしまったら、こちら側で取り消すことは不可能です」
決闘は避けられない。
「その、クリスティーナさんが決闘に敗北したら、チェルンスター魔法学園を退学になるのですが……」
「仕方ありませんね」
「僕としては、クリスティーナさんを退学にさせたくないんです」
「そうですね……」
フェリックスは正直な気持ちをリドリーに伝える。
クリスティーナの退学を回避したい。
なにか先輩として知恵はないだろうかと。
リドリーは「うーん」と呟き、考えた末、フェリックスに告げる。
「これは生徒間の問題ですから。フェリックス君の願いはクリスティーナさんが決闘で勝利することでしか叶えられません」
「それは、そうですが!!」
「私たちは教師です。生徒間の決闘は”見守る”しかできないんです。決して、クリスティーナさんの決闘に手を貸そうなど思わないように」
クリスティーナが決闘に勝利しないと、バッドエンドになってしまう。
それをリドリーに伝え、理解してもらうのは到底無理だ。
フェリックスは胸の内にある苛立ちをリドリーにぶつけたが、彼女は普段より険しい表情で話す。
リドリーの低い声音から、注意ではなく警告だというのを感じ取り、言葉を飲み込む。
「三対三のチーム戦ですか……」
リドリーは思ったことを口にする。
「クリスティーナさんはあと二人、どうやって集めるんでしょうね」
「……」
クリスティーナは一週間のうちに二人の協力者を探すことができるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます