第5話 自分の役割を思い出す

 アルフォンスとの決闘に勝ち、二年B組の副担任になったフェリックスは、リドリーと並んで教室へ向かう。


「先ほどの決闘、見事でした」

「あ、ありがとうございます」


 フェリックスはリドリーに褒められ、照れ臭くなる。

 自身の髪を掻き、気を紛らわせる。

 ボタンを押すだけで進行するゲームの決闘と、現実の決闘は全く違うのによく勝てたものだ。

 ゲームの魔法名がそのまま呪文になっていて良かった。

 そうでなければ勝てなかったと、決闘が終わってからフェリックスは安堵する。


「教室に着くまでに二年B組について軽く説明しますね」


 あと数分で目的地に着く。

 その間にリドリーはフェリックスが副担任となる二年B組について語った。

 二年B組は全員で四十名いる。

 内、三十九名は一学年から進級した者で、残り一名は他校の魔法学校からの編入生だとか。

 副担任のフェリックスはリドリーの手伝いはもちろんとして、学校の生活に慣れていない編入生のサポートをしてほしいとのこと。


「その、編入生の名は?」

「クリスティーナ・ベルンです」


 やはり、ゲームの主人公であるクリスティーナだ。


「っと、教室に着きましたね。入ったら自己紹介、お願いします」

「はい」


 リドリーの話を聞いている内に、フェリックスたちは二年B組の教室の前に着いた。

 フェリックスに声をかけた後、リドリーは教室のドアを開ける。


「起立っ」


 フェリックスたちが教壇に上がると、一人の男子生徒が号令をかける。

 その声と共に、皆が席を立った。


「礼」

「「おはようございます」」


 号令をかけた男子生徒が再び『礼』と告げると教室内の生徒が一斉にフェリックスとリドリーへ挨拶をする。


(先生たちは、いつもこれを見ていたんだ)


 教師を志していたフェリックスは、皆が一斉に挨拶をする姿を見て感動した。

 憧れていた教師生活が今、現実になったのだと。


「着席」


 皆が席に着く。

 全員の視線がフェリックスとリドリーに向いたところで、彼女は口を開く。


「いつものホームルームに入る前に……、今日は新しい先生をみんなに紹介します」


 リドリーが杖を使って空にフェリックスの名前を書いてくれた。

 魔法学校って黒板使わないんだ。

 フェリックスの関心は自己紹介よりもそっちに向いていた。


「このクラスの副担任になる、フェリックス・マクシミリアン先生です」


 リドリーの拍手に続いて、生徒たちが拍手をしてくれる。

 フェリックスは拍手の音で、自分の世界から現実に戻る。


「フェリックス・マクシミリアンです! 副担任として皆さんをサポートします!! よろしくお願いします」


 フェリックスはハキハキとした声で自己紹介をした後、頭を下げようとした。

 ゴンッ。

 目の前に教壇があったことを忘れていたため、フェリックスは強く額を打ってしまった。

 鈍い音が教室内に響く。

 隣にいたリドリーがフェリックスの行動にプッと吹き出した。


「おっちょこちょいな所もありますが、実力は確かです。元卒業生ですので授業や学園生活で困ったことがあったら気軽に相談してみてください」

(リドリー先生。フォローありがとうございます)


 リドリーは笑いをこらえながら、フェリックスのことを簡潔に紹介する。

 フェリックスは心の中で、リドリーに感謝した。

 ”元卒業生”というワードは強く、フェリックスに生徒たちの期待の眼差しが集まる。


(ま、まあ! ゲームで十回、卒業式経験してるわけだし!! 相談が来ても答えられる。大丈夫。大丈夫)


 フェリックスとしての学園生活は思い出せないが、それはゲームの知識で乗り越えられるだろうと、自身に言い聞かせる。


「では、朝のホームルームを始めますね」


 話題は変わり、リドリーは淡々と今日の予定を生徒に伝える。

 その間、フェリックスは四十人の生徒の中からクリスティーナを探す。


(あっ、いた!!)


 一番後列の席にクリスティーナがいた。

 真っすぐな茶髪を肩で切り揃え、前髪はピンで留めている女の子。

 茶の瞳はくりっとしていて愛らしく、可愛らしい容姿をしている。

 長身ではあるが、細身で胸が平らなことが悩み。

 クリスティーナは二学年からチェルンスター魔法学校に編入した平民の少女。

 フェリックスにはこれからクリスティーナに起こる困難がよく分かる。

 だってクリスティーナを操作して、ゲームを進行していたのだから。


(リドリー先生から『クリスティーナをサポートしてください』って言われてるし、僕が彼女を支えてあげなきゃ)


 フェリックスはやる気に満ちていた。

 何故なら、今後起こるクリスティーナの悲劇を全て知っているからだ。

 副担任であれば、それを直接的なアプローチでカバーすることだってできる。

 もしかして、そのためにフェリックスとして転生したのではないだろうか。


(でも、待てよ……)


 メインストーリーに関われることで浮かれていたが、フェリックスは途端に冷静になる。


(このホームルームはプロローグで、そこでのスチルはリドリー先生だけだった)


 フェリックスはゲームの情景を思い出す。

 ゲーム内では副担任はおらず、リドリー先生だけだった。

 本来のフェリックスはアルフォンスとの決闘に負け、雑用を行っていたのかもしれないとフェリックスは考える。

 雑用、それに関して文句を言っていたキャラクターがいたような――。


「ああ!!」


 大声を出したせいでその場にいる全員の視線がフェリックスに集まる。


「ご、ごめんなさい。話の続きをどうぞ……」


 フェリックスは大声を出したことについて皆に謝り、再び自分の世界に没頭する。

 思い出したのだ。

 ゲームでの自分の役割を。


(そう、僕はモブ! モブキャラだったんだ!)


 フェリックス・マクシミリアンは【恋と魔法のコンチェルン】のモブキャラだったのである。

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