どうして僕の魅力は悪人ばかりを引き寄せるの?
絵山イオン
第1話 朝比奈大翔が乙女ゲームをプレイしたら
俺、
私立大学教育学部の四年生。それが朝比奈陽翔の肩書だった。
陽翔は小学校への教育実習を終え、就職先も決まり、論文の八割を書き終えていた。
暇を持て余していたのである。
「はあ……、暇だ」
独り暮らしのアパートの一室、ベッドに寝転んでいた陽翔がぼやく。
視線を落とすと、たたまれていない洗濯物、飲み干した空のペットボトルとエナジードリンクの缶、本棚から溢れ平積みになっている漫画や雑誌の山が見える。
やることとして掃除がまず頭によぎったが、面倒臭いと放棄し、次の暇つぶしを考える。
「久々にゲームでもやってみっかなあ」
陽翔はベッドから起き上がり、床に散らかっているモノをかき分け、ゲーム機の電源を点ける。
ピコンというゲーム機の起動音が鳴った直後、ホーム画面に切り替わる。
コントローラを握り、ソファに座る。
ダウンロードしたタイトルを眺めるも興味が湧かない。
「うーん、全部クリアしたゲームで、イマイチだなあ」
二周目をする気にもならない。
「新しいゲームでも買うかあ」
陽翔はダウンロードページに飛び、プリペイドカードの残金を確認する。
五千円。
「おっ、これ丁度で買えるじゃん」
陽翔はお気に入りに追加していたゲーム【恋と魔法のコンチェルン】に注目する。
【恋と魔法のコンチェルン】は半年前に発売された乙女ゲームだ。
陽翔の推しのASMR声優が、ゲームの声優としてデビューすることになったので、プレイしたいとお気に入り登録していた。
当時、教育実習が佳境でゲームをする余裕がなく、忘れて今に至る。
「結構評価いいみたいだし、やってみるか」
即決した陽翔は購入ボタンをぽちっと押す。
ダウンロード時間を待っている間、外へ出掛け、最寄りのスーパーで食料や飲み物を買い込む。
家に戻り、買ってきたものを冷蔵庫に詰め込み、再びソファに座った。
「よし、ダウンロード完了! ゲームスタート」
長いダウンロードが終わり、陽翔は【恋と魔法のコンチェルン】をプレイする。
☆
【恋と魔法のコンチェルン】は中世っぽい魔法があるファンタジー世界。
魔法学校に編入した落ちこぼれの女の子が、様々な性格のイケメンと出会い、彼らに支えてもらいながら卒業を目指す物語だ。
主人公のクリスティーナは二学年から編入するため、卒業までの期間は二年。
プレイヤーはクリスティーナの学力を上げるか、属性魔術を上げるか、休憩して英気を養うのかを選択し、彼女の能力を上げてゆく。
月に一度、試験や決闘などのイベントが発生するため、バランスよく能力値をあげていかないといけない。
「乙女ゲームだからすぐに終わるだろって思ってたけど、歯ごたえあるなあ」
類似のゲームをプレイしなれている陽翔でも、序盤でゲームオーバーになり、セーブ地点からやり直しということもあった。
「うわー、めっちゃおもろ」
クリスティーナが三学年に進級する頃には、陽翔はゲームに夢中になっていた。
それからしばらくして、同級生エンドを見届けた陽翔は天井を仰ぎ、目頭をつまむ。
「くぅ~、一週目よかったあ」
十時間プレイし、一つ目のエンディングを見届ける。
他のキャラクターの過去を深掘りしたいし、どんなエンディングを迎えるか見てみたい。
もっと【恋と魔法のコンチェルン】をやりこみたいと思った陽翔は、テーブルの上に置いてあるスマホに手を伸ばし、攻略サイトを開いた。
「えーっと……、全部で十個、一個クリアしたわけだから、残り九個あるわけか」
各攻略キャラクターのエンディングが五つ、特殊エンディングが四つ、そしてすべてのエンディングを見終えた末に見える真エンドが一つの計十個。
「まあ、時間はいくらでもあるわけだし……、続きやるかあ」
陽翔はスマホをテーブルに置き、冷蔵庫からエナジードリンクを取り出す。
ソファに座るまでの間に、プルタブを開け、それを一口飲む。
シュワッとした強炭酸と強カフェインが、ゲームを十時間プレイして疲れた脳を覚まさせる。
陽翔は休憩を挟まず、二周目に入った。
☆
「これで……、十週目、クリアだあっ!!」
その後、陽翔は眠気をエナジーリンクで誤魔化し、寝ずに【恋と魔法のコンチェルン】をプレイしていた。
二周目になったら休憩しよう、三週目になったら休憩しようと続けている内に十週目に突入していた。
その頃にはプレイ時間が百時間を超え、陽翔の眼は充血し、目の下にクマが出ている。
すべてのエンディングを回収した先にある真のエンディング。
そのエンディングを拝む直前、陽翔の鼓動がドクドクと高鳴る。
心臓あたりを掴む手が震え、呼吸も激しくなってゆく。
陽翔はソファから崩れ落ち、カーペットに倒れたところで意識を失った。
「……て、ください」
誰かが自分を呼んでいる。
「起きてください」
起きろ?
その言葉を聞いた陽翔は、真エンディングを拝む前に眠ってしまったのかと思い、目を開ける。
「起きてください、フェリックスさま」
陽翔の眼前には赤い髪をまとめた、緑色の瞳の女の子がいた。
きめ細やかな白い肌、耳を澄ませば聞こえる彼女の息遣い。そして、彼女の身体から香るいい匂い。
可愛い彼女に起こしてもらいたかったから、目覚ましASMRとか買い漁ってて、それをきっかけに推し声優に出会ったんだよなあ。願望がとうとう現実になっちゃったのかと寝ぼけた頭で考えていると、赤髪の少女がペチンと陽翔の頬を叩いた。
「もう、いつまで寝ぼけてるんですか!? 朝ですよ、あ、さ!!」
「えっ? 夢じゃなくて、現実……??」
少女に叩かれた頬が痛い。
陽翔の妄想が作り出した夢ではないと気づき、ベッドから飛び起きた。
意識がはっきりしてくると、普段寝ているベッドよりも横幅が広く、マットレスの反発も良いことに気づく。
「え……、ここ、どこ?」
目の前に広がっているのは、モノで散らかった私立大学生の部屋ではなく、豪華な家具に囲まれ、赤毛のメイド服を着た少女が起こしてくれる富裕層の部屋だった。
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