第22話

 バイト先に着いた俺たちは自転車を止め、店の中に入る。事務所に入ると、店長がパソコンの前で弁当を掻き込んでいた。


「おはようございます」

「お、おはようございます」


 俺と小雪は挨拶を済ませ、着替えを始める。今日からくじが始まって店は忙しい。まだまだレジに不慣れな小雪をサポートしてやらねば。

 着替えを済ませて接客七大用語を読み上げ、店内に出る。やはり試験曳きの影響か、お客さんもいつもより多い。早速俺と小雪はレジに入り、昼勤の人と交代する。交代してすぐにレジに客が並び、小雪が対応を始めた。

 今日から七百円以上お買い上げのお客様にはくじを引いてもらうというキャンペーンが始まっている。事前に小雪にそのことを伝えはしたが、初めての経験なので、テンパらないか心配だ。俺が見守っていると、小雪はさっそくくじの入った箱を客に向ける。客はくじの穴の中に手を突っ込み、くじを引く。ジュースが当たったらしい。少しでも冷えている物を渡す為、小雪がレジを出て、冷蔵庫にジュースを取りに行く。客にジュースを手渡し、対応を完了する。


「できてたぞ、小雪」

「こ、これぐらい、で、できてあたりまえ」


 小雪はそう言うが、初めてこのキャンぺーンの対応を任されたバイトはテンパることが多い。くじに書かれた商品を見つけるのも一苦労だし、レジは並ぶしで慌てがちだ。店の商品がどこにあるときちんと把握していないと、なかなかスムーズにはいかない。そういう意味では小雪は基本的な商品の場所をきちんと把握しているのが凄い。さっきのくじも迷わずに取りに行った。この様子なら安心して任せられそうか。

 そう判断した俺はもう一つのレジを開け、客の対応をする。七百円くじの効果は絶大で、追加でチキンなどがよく売れる。揚げ物も多めに作っておいて損はないな。俺はレジを小雪に任せ、空いた手で揚げ物を揚げる。いつもより多めに揚げた俺は積極的に声掛けを行う。


「ただいまフライドチキンが揚げたてです。おひとついかかげしょうかー」

「い、いかがでしょうかー」


 俺の後について小雪も声掛けを行う。人見知りの小雪だが、教えたことはきちんとこなすし、いいバイトである。小雪は基本的に、人から教えられたことを忠実にこなすところがある。そういう意味でも、上の立場の人間から気に入られやすい。あとは本当に人見知りさえ、克服できれば、小雪はきっとモテる。顔は可愛いし、守ってあげたくなるような男の庇護欲をくすぐる部分も持ち合わせている。小雪の本命の男がどんなやつか知らないが、小雪が変わればチャンスはおおいにあるだろう。

 試験曳きはもう終わっている。試験曳きに行っていた客が、法被姿で店に来たりする。この祭りの三日間は店のトイレがよく使われる。トイレ掃除もこまめに行かないと、結構汚されたりしているからかなわない。


「俺、ちょっとトイレ見てくるわ」

「わ、わかった。れ、レジは任せろ」

「混んだら呼べよ」

 

 小雪にレジを任せ、俺はトイレに入る。案の定、トイレットペーパーが辺りに散乱し、汚されていた。俺はトイレットペーパーを回収すると、それで便器を拭いていく。幸い便器の中はそこまで汚れていない。俺は洗剤を投入し、少し擦ると水を流した。持ってきたモップで床を丁寧に擦る。あまり水で濡らしすぎると床が滑るので、水分量には十分に注意する。

 最後にトイレの洗面台を磨く。綺麗になったところで、俺はトイレ掃除を終え、トイレを後にする。

 レジを見ると、少し並んでいる。だが、小雪が手際よく対応しているおかげで、行列にはなっていない。俺は慌てて掃除道具を片付けると、手を洗ってレジを開ける。

 客の対応を終え、少し手が空いたところで小雪に声を掛ける。


「もうレジはお手の物だな」

「う、うん。だ、だいぶお客さんにも慣れてきた」

「特訓の成果が出てるんじゃないか」

「だ、だといい」


 小雪は俺と話すとき、視線を逸らしながら話す。目を合わせると緊張するのかもしれないが、小雪の人見知りを治すうえで重要なことなので、俺は口を挟む。


「なあ小雪、話すとき相手の目を見たほうがいいぞ」

「え? あ、うん」


 小雪は俺の目を一瞬見たが、すぐに逸らしてしまう。


「俺の目も見られないか」


 自慢じゃないが、小雪とは結構仲がいいと思っている。だから俺の目を見ることはできると思った。


「ちょっとじっと俺の目を見てみろよ」

「え、うん、わかった」


 そう言って小雪はじっと俺の目を見つめる。だが、すぐに頬を朱に染め、視線を逸らしてしまう。


「む、無理」

「なんでだよ。俺とお前の仲だろ」

「き、緊張する。めっちゃ心臓の音うるさい」

「そんなにか」


 どうやら小雪が相手の目を見て話せるようになるには、もう少し修行が必要のようだ。


「俺でそんなだったら好きなやつの目見れないだろ」

「うっ……お前だからじゃん」

「なんだって?」

「な、なんでもない!」


 小雪はそう叫ぶとレジに戻る。俺は苦笑しながら作業に戻る。

 それから特に問題なく仕事をこなし、バイトを終える。小雪も忙しかったがレジの対応を完璧にこなしていた。


「お疲れ」

「お、お疲れ」


 小雪とハイタッチを交わす。小雪もうちのバイト先に結構慣れてきたようだ。

 いつものように店長に挨拶をして、ジュースを買って店の外に出る。バイト終わりのジュースは砂漠の水のように美味い。


「明日、祭り行くだろ」

「う、うん。行く」

「じゃあまた明日な」


 小雪と分かれ、俺は家に帰る。明日の祭り、伊吹と湊を近づけるチャンスだ。俺は策をめぐらせながら、自転車を漕ぐのだった。


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