電気羊の夢の中
ラグちゃんが今日もまた、教室でグッスリと寝ている。
「おーい。もうホームルームまで終わっちゃったぞー」
わたしは机に伏せたラグちゃんの頭頂部をツンツンしてやった。ふあぁ、と寝ぼけた反応が返ってくる。
「んが……あれ、ゆかりじゃん……ふあぁぁぁ」
「おはよ。またガッツリ寝してたけど、大丈夫?」
「んー……いい夢見れたよ」
「それは何より……?」
「……あれ、どんな夢だっけな」
「あるある。めっちゃ面白かったのに、目が覚めた瞬間スッて記憶から抜けるんだよね」
「ふふふん、でも大丈夫。ウチは『夢日記』アプリ入れてるから」
「夢日記アプリ?」
「そ! 寝落ちしたら自動で夢を録画してくれんのさ」
夢の録画かぁ。〈ブレインネット〉はそんなこともできるのか。まぁ普段から頭で言葉を念じてチャットしたり、視界に映っているものを撮影したりしているし、不思議ではない。
「ちょっと『リプレイ』するわ」と言ってラグちゃんが目を閉じる。しばらくそのままだったので放置してうさぎちゃんとお話していたら、いきなり「どわー!」と叫んで帰還した。
「うおー! ゆかりー! あれいないどこだゆかりー!」
「おはようアゲイン。二度寝したのかと思った」
「二度寝じゃないよ、夢の『リプレイ』だよ」
「夢のリプレイ、ですか?」
「ラグちゃん、夢を記録できるアプリを入れてるんだって。それでどんな夢だった?」
「まーメチャクチャだったけどエグオモロだったよ。ゆかりも見る?」
「えっ、そんなことできるの?」
「ビデオになってるから全然共有できるよ。〈QuShiBo〉にも上げちゃおっかなー」
「他人の夢……興味深そうですけど、怖さも半分ありますね」
「ね。ラグちゃんのことだしきっと変な夢だ」
「変じゃないよ! 変だったけど!」
「どっちでしょうか……」
とにかく見てみてよ、と〈ImagineTalk〉で動画を送りつけられた。仕方ない見てあげよう。5分もない短さだし。
わたしはラグちゃんの前の席に座って腕で枕を作り、目を閉じて動画を再生した。
◆◆◆
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
そんな音がずっと頭の中に響く。『わたし』は教室の中にいるようだった。恐らくは。
断定できないのは、輪郭がずっとぼやけているし、線がグニャグニャと曲がっているからだ。机が波打っている。
「ろくろの定理です」
という声が教卓らしき場所から聞こえる。立っているのはソフィア先生……いや、とおりちゃん? どちらとも言えるし、どちらとも言えない。2人のイメージがごちゃ混ぜになっているみたいだ。
音程を大きく外したチャイムの音が鳴る。ラグちゃんは夢の中でも一応、授業中と休み時間の区切りは付いているらしい。なら授業中起きてればいいのに。
と、『わたし』の席に近づいてくる人影。その人が『わたし』の後ろの席に座ったので、『わたし』はのけぞって後ろを見た。
そこにいたのは、わたし――出角ゆかり、ラグちゃんの夢エディション。本物のわたしとよく似ているけれど、なんか別人。髪の長さがカヴィタちゃん並だし、まきみちゃんのヘアゴムが付いている。
そんな『出角ゆかり』が、『わたし』に向かって口を開く。
「フニイ、エルテーンツ、ボル、チャス、ウラーン、アンダグチ、デルベレルティーン、ツウライ、ユム……」
え、何語? そして気付いたら場所が教室から飛行機の中に変わっているし、後ろにのけぞっていたはずの『わたし』の体はいつのまにか横向きに変わっていた。夢あるあるの急な場面転換じゃん。
「明日に、明日に」
そんで『出角ゆかり』も隣の席に移動している。飛行機はなんか席の数が多すぎる気がするのを除けば、比較的それっぽい形状をしている気がする。飛行機乗ったことないけど。
「あー。バズるねこれ。ねぇ撮っていい?」
「見るとうさぎちゃんがタンブラーに湯」
「ねぇ撮っていい? ねぇ撮っていい?」
「ベレグ、ドゥルスガリン、ズイリィン、ニ、ウレエチク、ブー、バイスン」
「ねぇ撮っていい!?」
おわぁ、だんだん会話がおかしくなってきたぞ。会話が噛み合ってないどころか、これ会話になってるの?
「――ねぇ撮っていいの!? たまき!!」
超展開。目の前にいるの『出角ゆかり』じゃなかったんかい。ってあぁ、『出角ゆかり』の顔がカヴィタちゃんに変わってる! いやたまきちゃんでもじゃないじゃん!
「……さん、ゆかりさん?」
そして今度は遠くからうさぎちゃんの声がする。なんか、他よりもずっとハッキリと。
「…………ゆかりさん、もしかして寝ちゃってるんですか? ゆーかーりーさーん」
声が近くなっていって、飛行機がグルンと回った。えっ、落ちてる? いや上がってる? というか飛行機からジェットコースターに変わってないかこれ、って目の前に羊が!!
「どわー!」
勢いよくわたしは起き上がった。ここは教室。輪郭ははっきりしているし、すぐそばにはうさぎちゃんが記憶通りの可愛さで立っている。視界の片隅に映っている再生ウィンドウは、シークバーが最後まで到達しているのを示していた。
「わわっ、ゆかりさん!?」
「あっ、今のが夢の最後だったんだ……」
「やっぱ最後どわーってなるよね? どうよこれ、ウチの脳が作り出したドーパミンドバドバ夢」
「まぁ、メチャクチャなのは確かだったけど……面白いかって言われると……」
「えぇー? ウチ的には最高だったんだけどな」
「そりゃ、ラグちゃんの夢だもの」
「夢を見ているときって、脳が記憶を整理してるんじゃないかって言われていますよね。だから他の人の夢を見ても、本人ほどは面白く感じられないんじゃないでしょうか」
「そっかなー……じゃあ〈QuShiBo〉に上げてもバズらないかぁ」
「『3回見たら死んじゃう映像』みたいな感じでバズるかもよ」
「ええ……それはちょっと……いやそれでもバズには変わらないか。そっち路線で行ってみようかな!」
「流石ですねラグさんは……」
生き生きと〈QuShiBo〉の更新を始めるラグちゃんを横目に、わたしは念のためペチペチとほっぺを叩いてみた。うん、しっかり痛い。イナ高は痛覚もバッチリ再現されている。
ここは夢じゃなさそうだ。いてて。
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