THE MOVIE
みふゆの追いかけていたアニメが、今度劇場版をやるらしい。
「――てことで前売り券を買ったんだけどね。4人分買っちった」
放課後、リア活部の4人でキャンプ風の仮想空間に入ってお喋りしていると、みふゆがそんなことを言って電子チケットを4枚ピラピラさせた。見た目は光る紙のようだけど、電子なので見た目だけだ。あれだよあれ、細い棒を持って上下に揺らすと柔らかく見えるような目の錯覚。違うかもしれないけど。
「4人、ということは」
「にゃはっ、アタシたちの分?」
「でもそのアニメ、わたし1話も見たことないけど……」
「いいのいいの、付いて来てくれるだけでもさ。でも話を知ってたほうが面白いだろうから、観たかったら総集編があるよ」
「そっかぁ。ならせっかくだし観てみようかな」
「ちなみに前後編合わせて5時間」
「ふーん。……えっ5時間?」
「長いね~」
「まだ上映日まで時間はありますよね? 小分けにして観ていきましょうか」
「それで、映画は『2シネ』なの?」
「いんやそれがねぇ、珍しいことに『VR』なのよ!」
「へぇ、それは珍しいね」
「あの……ゆかりさんみふゆさん、2シネって何のことでしょうか?」
説明しよーぅ! とみふゆが高らかに声を上げた。
今の時代、映画っていうものは大きく3種類くらいに分かれている。
その1つが『2シネ』――2Dシネマ。いわゆる伝統的な映画の形式で、スクリーンに投影された映像を鑑賞するものだ。とはいえ『映画館』という施設は現実世界じゃほとんど残っていない。だから2シネを観れる場所は、基本的にシアター型の仮想空間となる。
で、そんな仮想空間という技術をふんだんに活用した新しい映画の形が『VRシネマ』。映画館を模した
もう1つ、VRの亜種として『インタラクティブ・シネマ』略してIシネってのもある。VRを「物語のモブ視点で楽しめる」ものとするなら、Iシネは「物語の主人公になれる」映画。参加者の行動で物語が変わっちゃうという、最先端の映画だ。ただまぁ、当然制作コストもめっちゃ高いのでお金持ちの娯楽って感じだれけど。
「――そんでね、だいたいアニメとかドラマの劇場版は今も2シネが主流なのよ。だから今回のVRで映画やるってのが珍しいわけ」
「なるほど。だからみふゆさんは、わたしたちを誘ってくださったんですね」
「にゃははっ! 確かに面白そうだね!」
「そっか。ならみんなで行きたいね」
そういうわけで、上映日に向けてわたしたちはアニメの総集編をちまちま観ていった。みふゆ的に言うなら履修、ってやつだ。
別に各々で観ても良かったけど、自然とわたしたちは学校終わりに仮想空間へ集まって鑑賞会をするようになった。
アニメの内容は、いかにもみふゆが好きそうなSFもの。スペースオペラって言うんだっけ、宇宙が舞台の壮大なお話。
とはいえストーリーはそこまで難解じゃなかった。ひょんなことから宇宙戦艦の船長にさせられてしまった主人公が、クセのあるクルーと大冒険……みたいな感じ。
わたしたち3人が話を理解していく様子を見て、みふゆはとっても嬉しそう。そうだよね。親友が自分のハマったものを好きになってくれるのは、確かに嬉しいことかも。わたしも今度れんげちゃんを紹介してみちゃおうかな。
そして当日。
うなじにケーブルを繋いだわたしは、〈ブレインネット〉上に映した電子チケットのコードを入力して物語の世界に飛び込んだ。
「……ラルクメルク号だ」
視界が開けると、アニメで見たような記憶がある大きな部屋――宇宙戦艦の操舵室――がわたしを出迎えた。全身はどうやら半透明になっているみたい。行きたい方向を頭に念じるだけで、スイーっと体が動いていく。
この世界では〈視界共有〉みたいな一部の機能が使えないようになっている。他の世界と違って、ここは『映画』の中だからね。肉体ひとつで簡単に撮影ができてしまう時代、この制限ができないことが現実世界の映画館が消失した理由のひとつとも言えるかもしれない。
船内ではクルーの人たちが、軽い雑談を交えながら働いている。おお、アニメで見た人たちが目の前にいる。と、視界上部に『お待たせしました。間もなく開演いたします』というポップアップが現れた。
やがて主人公とヒロインが現れ、キャラクターたちの会話が始まる。わたしはヒロインに目を向けた。すると小さくオプションメニューが現れ、『キャラクターにフォーカス』を選ぶと体が少し浮いた。そして、彼女の動きに応じて勝手に体が動かされる。一定距離を保ち、彼女の表情や動きがよく分かる位置でわたしは会話劇を眺めた。
「――何を言ってるのよ! 今がミルド星へ戻れる、最後のチャンスなのよ!」
主人公とヒロインの会話は、やがて意見の衝突に。目の前でおこるいざこざは、アニメ以上に心配の感情が浮かび上がって、感情移入してしまう。
「もう知らないわ! ならワタシひとりで行く! 邪魔しないで!」
ダッ、とヒロインが走り出して操舵室を出て行く。わたしの体も追従してエレベーターに乗り、下の階層へ。そのまま小さな宇宙戦闘機に乗り込んで戦艦を出て行く……と思いきや、ヒロインは一度自分の部屋に寄った。この場所はアニメで見たことがない。狭くて生活感のある部屋。たくさんの小物が置かれたタンスの上に写真立てが置いてあって、ヒロインはそれを手に取り見つめる。映っているのは、幼い彼女と、その家族らしき2人。
「分かってる……ただのワガママでしかないって……」
彼女は静かにそう呟くと、写真を引き抜いて部屋を出た。そして戦闘機に乗り込み、宇宙空間へ。
高速で宇宙を進んでいる間も、わたしは彼女にフォーカスし続ける。ヘルメット越しに伝わる葛藤と、操舵室からの通信で叫ぶ主人公の声。だけどその声は突然途切れ、そのまま彼女の戦闘機はどんどん戦艦を離れて行った。くぅ、主人公サイドに何があったのか気になる展開。
物語は進む。ヒロインは故郷の星へ行こうとするが、その星の防衛機構に襲われ不時着。彼女はなぜかその身を狙われるようになってしまう。地表で起こる逃亡劇の最中、ふと空を見上げると大きな宇宙船がいくつも見えた。……あっ、1隻が爆発した!
そこからは怒涛の展開だった。明かされるヒロインの真実に、多方面で同時に起こる戦い。けれど最後は主人公とヒロインが感動の再会と和解を果たし、主人公の宇宙戦艦が大活躍の戦いを魅せて終わった。
「――にゃっは~、すごい体験だったね!」
上映後、わたしたちは別の仮想空間に集まって感想を交換した。面白いことに、みんなそれぞれ注目していたのがバラバラだったみたい。
「やはりラルクメルク号の造形はカッコよかったですね……連続ワープのシーンはエンジン室がオーバーヒート寸前でハラハラしました」
「へ~! アタシそのとき船の外にいたから、そんなことあったなんて知らなかった~」
「えっ、そんなシーンあったの?」
「ゆかりさんはどこにいたんですか?」
「ミホヨちゃんにフォーカスしてて、ずっとミルド星に……」
「ほほー。みふゆさんもミルド星に不時着するところまでは追いかけてみてたんだけど、その後暗黒星雲のほうに動きがあったからそっち行っちゃってたんだよねぇ」
なんだかもう1回観たくなっちゃうね、ってみんなで笑った。どこに注目するかで、まるで全然違う映画を観ているかのように観れるものやキャラクターの印象が大きく変わる……それがVR映画の面白いところだなって思った。
わたしたちの感想交換はまだまだ続き、映画自体の上映時間である2時間を簡単に超えてしまった。だけどまだまだ話し足りない。
きっとVR映画って、感想を交換する時間がいちばん楽しいのかもしれない。みふゆがみんなを誘ってくれたのは、この時間をみんなと楽しみたかったからなんだ。
ひとりで味わうには、あの世界は広すぎるもの。
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