しのぶれど 色に出でにけり わが青は

 今日も今日とて爆速ホームルームが終わり、放課後になった。みんなの椅子を引く音や喋り声で教室が賑やかになる。


 さーてわたしも下校ログアウトしよっと……ん、なんだろうこのデジャヴは。なんか嫌な予感がするぞ。


「ぃぃぃぃぃ出角ぉぉぉ! 放課後時間ある~!?!?」

「うわっ! ……まさか」

「EDKはっっ!! 今日も今日とて人員不足だぁぁぁっ! 助けてくれーっ!」


 嫌な予感が当たってしまった。たまきちゃん属するEDK――エクストリーム電脳かるた部は、普通のかるた部とは結構、いやかなり違う。前回何も知らずにヘルプに入ったら頭が爆発しそうになった。

 なので悪いけど、もうヘルプは行きたくないなぁ……って、うまいこと断る方法を考えていたその時。わたしの背後から純粋無垢な可愛いお声が!


「あのー、ゆかりさん……?」

「うさぎちゃんっ!? ダメだっ、来ちゃダメー!」

「にゃっほーゆかぴ!」

「やぁやぁ。なんかめっちゃ大きな声聞こえてきたけど何事よ?」

「こんな時に限ってリア活部全員集合しちゃったぁ!」

「おお! 出角のフレンズ! 誰か1人でもいい、あっしらの部活にヘルプしてくれないかなぁぁぁ!」

「すごい声量だ」

「にゃはっ、元気いっぱいだね☆ どんな部活なの?」

「かるた部だっ!」

「騙されちゃダメだみんな、たまきちゃんとこのかるた部はかるた部じゃない!」

「どういうことでしょうか……」

「でもなんだか面白そう♪ アタシならいいよ☆」

「しのぶちゃん!?」


 そういうわけで、今回はわたしの代わりにしのぶちゃんがエクストリームな目に遭うこととなってしまったのだった。とはいえしのぶちゃん1人だけにするのも何だし、茶道室にはリア活部みんなでついて行くことになった。


「失礼しまぁぁぁぁぁ!」

「うわぁっ! かるた部だぁ!」


 相変わらず壊れそうな勢いで開け放たれるふすま。そして驚きで吹っ飛んでいく茶道部のお茶。あぁまたもや大惨事……。


「待っていたぞたまき部員! そして久しぶりだなゆかり臨時部員! おお、今日はさらに3人もいるではないか!」

「なんか臨時部員って肩書き付けられてる!? 今日はわたしヘルプしませんよ!」

「3人は付き添いっす部長! 今日はこの方が!」

「にゃ、にゃはー。2年B組の藤田しのぶでーす……☆」

「なるほどな! わたしはEDK部長、3年A組の一乃あらしだ! よろしく頼むぞ!」

「EDK……?」

「エクストリーム!」

「電脳!」

「かるた部!」

「「EDK! EDK!」」

「な、なんなんですかこれは……」


 3人がギョッとした顔でわたしを見た。だから言ったでしょうよ、ここは普通のかるた部じゃないんだって。


◆◆◆


「前回ゆかり臨時部員には読手をしてもらったがね、今回は選手側に欠員が出てしまったのだよ」

「せ、選手側……? まさかしのぶちゃんにあんなことやらせるんですか……?」

「えっ、アタシどんなことさせられちゃうの?」

「そうだな、ゆかり臨時部員もまだ詳しいルールを知らないだろう。改めて説明しよう」


 そう言ってあらし先輩は謎用語を並べていった。罠札トラップカード、札詠唱、チェイン……相変わらずさっぱり分からないし、みんなも困惑してそうだけど、しのぶちゃんは分からないなりに楽しそうだった。


「そういうわけだ! とはいえ大事なのは習うより慣れろということだな! さっそくやってみよう!」

「しのぶさん、大丈夫ですか……?」

「ええと……でも、頑張るよ~」

「まぁ確かに不安だろう。ならば特例として、そちらの3人と思考通話をしながらでも構わないぞ! ルールブックを渡しておこう!」

「にゃはっ、ありがとうございます☆ みんな、お願いしてもいい?」

「うん……まぁ、わたしたちもできる限りのサポートはしてみよう……ね」


 そんなわけで試合となった。なんか前回より人が増えて4vs4になっている。そんなにいるんだEDK部員って……。ルールブックはリア活部の知識担当ことみふゆが持つ。わたしとうさぎちゃんは実質応援係かな。


「読みます。ほととぎす――」

『しののん、自陣側の右側上から2段目のとこだ!』

「おっけー☆ 任せてっ!」


 しのぶちゃんは和服の裾をたなびかせ、ロケットみたいに札へ飛んで行く。自陣だから罠じゃないことは分かっているってわけか。はそのまましのぶちゃんが最初の1枚ゲット。「やるじゃないか!」とあらし先輩が肩を叩く。

 試合は一進一退の取り合いが続いていった。ここまでは普通の3次元百人一首。……普通の? 6枚目が読まれたとき、EDKのエクストリームな面が姿を現してきた。


「あきのたの――」と札が読まれる。これはしのぶちゃんやあらし先輩たちのチームが罠を張った札だ。そうとはしらず相手チームのたまきちゃんが真っ直ぐ突っ込んでいく。


「貰ったぁぁぁぁぁぁぁ!」

「……かかったな!」

「何っ! ……と見せかけてっ! 狙いはお前だエリーチカ部員!!」

「何っ!! うわっ! さ、サンダー!」


 たまきちゃんはなんと、札をスレスレで通過して奥にいるあらし先輩チームのメンバーへタックル! そのまま宙返りして、メンバーを罠に触らせた! こ、こんなことができるなんて……謎のゲームなのに戦略性が高い。そこから流れがたまきちゃんチームに傾き始める。札の詠唱による容赦ない攻撃であらし先輩チームは1人、また1人と倒れ、ライフも残りわずか20に。


『何が起こっているのか全く分からないけど、ピンチ……だよね?』

『な、なぜかるたでビームやミサイルが……これは果たしてかるたなんでしょうか……』

『深く考えちゃダメだうさぎちゃん』

「でも、このままじゃマズいよね~。みふぴ、何か逆転できそうなものってある?」

『ううんと……あっ! しののん、イチかバチかだけど、これならもしかしたら――』


 みふゆの話を聞いたしのぶちゃんは、ステージ天井ギリギリまで飛び上がって次の読みを待った。その手には1枚の札を握って。


「読みます。あさじう――」

「!」

『しののん!』

「おっけー! 持ち札――『しのぶれど色にいでにけりわが恋は』を詠唱っ!」

「何っ!」

「そして今読まれたのはっ! 浅茅生の、小野の篠原……!」

「その札は……まさか、やるのだな! しのぶ臨時部員!」

「チェイン発動! 必殺……しのぶスペシャルっ☆」


 ブワァァァ! と星型弾が大量に発射され、たまきちゃんチームを襲う。これがEDKの最強技、関連する2枚の札を組み合わせて発動するチェインなのだ。


「やられた……一瞬にして差を縮められて……!」

「よそ見している場合かねたまき部員!」

「何っ!」

「『しのぶ』札は……わたしも持っているのだよ! トリプルチェイン、『みちのくのもぢずり誰ゆゑに』ッッ!!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 高速で背後を取ったあらし先輩が、たまきちゃんチームへとどめの追撃。これは……ライフ0、勝者はあらし先輩チーム! そして始まる軍歌みたいな謎歌の大合唱。


「やったぞーっ!」

『お疲れ様、しのぶちゃん』

『なかなかカオスな競技ねこれ』

『わたしはずっと混乱していました……』

『大丈夫、わたしもだから』

「みんなありがと~! にゃはぁ~っ、不思議だけど楽しかった~!」

「おおおおおお! そうか、楽しかったか!」

「にゃっ!?」

「すばらしい活躍だった! 君は才能がある、ぜひEDKに入部してくれないか!」

「にゃあ、えっと、それは……」

「――いいや、それはダメです!」


 あらし先輩に両肩を掴まれていたしのぶちゃんを、わたしは胴を掴んで引いた。


「ゆかぴ……」

「ふむ……ゆかり臨時部員、なら君たち全員ではどうだ? この4人なら、きっと最強の部隊になるはずだ」

「ごめんなさい、それでもダメなんです」

「なぜだ?」

「だってわたしたちは――『リア活部』ですから!」

「……にゃははっ! ゆかぴの言う通りです、先輩☆ 面白かったけど、兼部はごめんなさい」

「そうか……残念だが仕方ないな! まぁ、今後も縁があれば全員臨時部員に来てもらいたいがな! アッハッハ!」

「全員ですか……」


 わたしたちはペコリと頭を下げて、EDK部室の出口へと向かった。不意にしのぶちゃんから手を繋がれる。ちょっと驚いたけど、すぐにわたしも手を握り返した。

 エクストリームだったけど、確かにちょっと楽しい時間だったかも。

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