第3話 フラン 王都へ

 叔母様のお屋敷は、うちと違って豪華だった。


 伯爵様は私に興味はないみたいだったけれど、叔母様は大喜び。私がお母様の小さい頃にそっくりらしい。


 扱いやすそう……。


 叔母様には子どもがふたり。兄のほうは留学中で、私と同じ年の妹のローザだけが屋敷にいた。

 ローザはきれいだけれど、おとなしそうで地味な感じ。

 私のほうがずっとかわいい。

 

 でも、ローザのドレスは私のよりずっとおしゃれだった。

 従姉妹なのに、こんなに違うなんてずるい! 


 ふと、ローザの大事なものを奪ってみたいと思った。

 私には神様がついてるから、なんだってできる。


 早速、男の子の声に聞いてみた。


「ローザの大事なものが欲しい。どうしたらいい?」


「あの子とは違うことをすればいいだけ。悲しんだり、笑ったり、いっぱい顔にだすの」

と、男の子の声。


 それなら得意だわ。


 私は、大げさなほど、笑顔をふりまいた。そして、時々、両親と離れて寂しいって、泣いてみせる。

 すると、みんながびっくりするほど心配した。

 

 特に、お人好しの叔母様なんて簡単だったわ。


 ローザのドレスをうらやましがると、ローザのドレスより、ずっと、かわいいドレスをいくつも買ってくれた。


 そんな時、ローザの婚約者に会った。

 名前はダリル様。侯爵家の子どもで王子様みたいにかっこいい。

 

 決めた! 私、この人をローザから奪う!


 私は、早速、男の子の声にたずねた。


「ダリル様が欲しい! どうしたらいい?」


「あんなのもらって、いいことになるの? だって、いいことを沢山おこさないと、ぼく、あそんでもらえないんだよね?」


 不思議そうな男の子の声。


「私にとったら、一番いいことよ! ダリル様を奪えたら、いくらだって遊んであげる。だから、どうしたらいいか教えて!」


「ふーん。ま、いいか……。じゃあ、泣いたらいいよ」


「え?」


「あれのまえで、いっぱい泣くんだ」


 泣く? ダリル様の前で?

 よくわからないけど、そんな簡単なことでいいんだ。


 早速、やってみよう。そう思ったのに、ダリル様が屋敷にこない。

 それとなく叔母様に聞いてみた。


 すると、ローザのお誕生日のパーティーにダリル様も来ると教えてくれた。

 私の誕生日も近いから一緒に祝ってくれるという。


 じゃあ、その時がチャンスね! 思いっきり、泣いてみせるわ!



 そして、お誕生日パーティー当日。


 ダリル様は、私とローザにふたつの箱を差し出してきた。

 大きな箱と小さな箱で、私たちに好きな箱を選ぶように言った。

 プレゼントみたい。


 私は絶対に大きな箱がいい!

 そう思って、手を伸ばそうとしたら、男の子の声がした。


「小さいほうをえらんで」


 ローザがまさに小さい箱をとろうとしていたから、あわてて、小さい箱を私が取った。男の子の声は絶対だもんね。


 ダリル様は、まず、大きな箱からあけるように言った。


 ローザが箱をあける。

 なーんだ、ただのうさぎのぬいぐるみじゃない。

 大きな箱を選ばなくて良かった。


 そう思った時、ローザがほんのりと嬉しそうに顔をゆるめたことに気がついた。

 嬉しいんだ、ローザ……。

 

 じゃあ、ぬいぐるみなんて欲しくないけど、これも奪おう!


 私はローザの手からぬいぐるみを奪い取った。

 私のかわいい見た目なら、ぬいぐるみをだっこして喜べば、みんなも奪ったとは思わないはず。


 ローザが悲しそうな顔をしたから、胸がすーっとした。


 さあ、次は私の番。


 小さな箱だから、アクセサリーだったらいいなあと思いつつ開けてみた。

 

 でも、転がりでてきたのは、小さなカエル。

 田舎でカエルなんて見慣れてるから、すぐにおもちゃだとわかった。


「泣いて」

と、男の子の声。


 私はおおげさに悲鳴をあげて、ダリル様に抱きついた。

 怖がっているふりをして、大きな声をあげて泣いてみせる。


 そっと、ダリル様を見上げると、熱のこもった目で私を見ていた。


 やった! うまくいったわ!

 


 それからも、私は男の子の声に従った。

 まずは、叔母様を味方につけた。


「ダリル様とローザと一緒にいると楽しいんです。寂しいのが忘れられるから」


 そう叔母様に訴えた。


 叔母様はダリル様が来た時、私も一緒に会えるようにしてくれた。

 おかげで、ローザとダリル様の邪魔ができた。そんな時、ローザが悲しそうにするのも気持ちがよかった。


 子どもっぽいダリル様は私たちを驚かそうと突然やってくるけれど、男の子の声が前もって教えてくれる。

 だから、花を見ているふりをしながら、庭で待った。

 絶対、ローザより先に会って、ローザとふたりっきりにはさせないように。


 そんなある日、男の子の声が言った。


「まだ、あれが欲しい? だったら、一緒にいたいって言ったらいいよ」


 欲しいに決まってる!


「私、ダリル様とずっと一緒にいたいんです」


 そう言って、ダリル様を泣き落した。

 

 同時に、叔母様も泣き落す。


 ローザの婚約者なのにダリル様と思いあってしまって、苦しい。

 ローザとダリル様は政略でお互いなんとも思っていないと、大泣きしながら、叔母様にふきこんだ。


 私のお母様の結婚で力になれなかったと後悔していた叔母様。


「このままでは誰も幸せになれないわね」

と、すぐに動いてくれた。


 こうして、ダリル様の婚約者は私に変わった。

 私はローザから一番大事なダリル様を奪ってやった!

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