第24話 出荷の仕方とお惣菜
今日も今日とて素晴らしい鶏肉料理を作ったメディトークとの食事後の休憩中、芽依は思い出したかのように顔を上げた。
「メディさん、相談なんだけど」
『なんだ?』
「お惣菜って存在する?」
『惣菜?まあ、あるにはあるがあまり量は無いな』
「え?そうなの?なんで?」
『まぁ、簡単に言えば収穫量が安定してないから惣菜も安定した提供が出来ないってのと、収穫量が少ない時は野菜や肉とか全体的に高くなる。そうなりゃ惣菜は元々高めの設定な金額がバカ上がりして誰も買わねぇ』
「………………物価高騰強い」
『あとはな、惣菜を作るにも人手がいるだろ。売れないものを作って賃金に反映しない仕事は誰もやらんわな』
そうか、と悩む芽依を果実水を飲みながら見るメディトーク。
『何してぇんだ?』
「うん、ここで第1産業……えっと肉とか、栽培始めたら野菜とかは出荷出来るから少しは食材の補填になるし良いなと思ったんだけどね。これ、肉のスジとか皮とか。捨てる場所が勿体ないなって思って。メディさんが上手く作ってくれるけど、売り切れなくて廃棄もあるから、ならお惣菜にしたらどうかな。元々廃棄のだから安く提供出来るし買い手さんも助かるし……直売所とかあったら更にいいよね」
『…………直売か、惣菜も含めて少し考えてみるから待ってろ』
「ありがとう、メディさん」
『おう、まかせとけ』
この庭の持ち主は芽依だが、経営はすでにメディトークが中心に行っている。
プラスになりやすい取引先の発掘から契約まで。
しかし、次の買い付けの物や量、仕事内容は必ず芽依を通し相談する事で芽依を放置すること無くちゃんと持ち主として扱ってくれるメディトークに全幅の信頼を寄せていた。
だからこそ、芽依も新しい事をする時はメディトークに相談し1番いい形で実現に向けるのだ。
芽依達は外に出て飼育中の豚、牛、鳥の世話をしつつその内容を考えているメディトークを見ながら芽依も手を動かす。
「……でも、惣菜には野菜とか必須だよね。他にも茸とか色々。惣菜を作る為に他から買い付けしたら結局高いから意味ないし」
『そりゃ、自分で作る前提になるだろうよ』
「だよね、3種類飼育しながら他もってなるとなかなか大変だよね。ただでさえ休み無しだから……あ、ブラックじゃない?メディさんごめん、休み考えよう!」
『いや、それはいい。俺はここに住んでるし別に嫌じゃねぇからな』
「うーん困ったな、メディさんがイケメンすぎる」
『蟻だがな』
「だがそれがいい」
『馬鹿だろ、お前』
セルジオ様と同じ事言うーと、口を尖らせる芽依に鼻で笑うメディトーク、関係は良好だ。
『まぁ、お前の考えは良いと思うぞ。楽しそうだし何かいい案を探さねーとな』
「私も色々聞いてみたりするね」
『……相手をちゃんと考えろよ』
「はーい」
「と言うことなんですけど、どう思います?」
芽依は帰宅後シャワーを浴びて身嗜みを整えた後、見つけた仕事中のセルジオに襲いかかった。
身嗜みを整えたから怒らないだろうと、胸を張った芽依にセルジオは頭を抱えている。
「……お前、メディトークに聞かなかったのか」
「何をです?あ、もしかしてガオー、食べちゃうぞ!ってやつですか?」
「…………………………お前どんな理解の仕方してるんだ」
「いえ、ちゃんと聞きましたよ。それで私、身の振り方かなり考えたんですから」
「で、それをわかっていて俺に聞くのか」
「私わかったんです。呼ばれただけの私がなんで遠慮しないといけないんだろうって。むしろ呼んだのはこの世界の人でこのガオー、ってのも世界の理的なものなんでしょ?だったら、食べたいなら私に貢いで跪くくらいしてみろよって。私が我慢することなんて何にもないな、全部この世界に流されてたまるかってのが私の答えに行き着きました。メディさんもそれでいいって言ってくれたし守ってやるって約束してくれたので安心安全ですね」
「……ほお、確かにアイツなら守ってくれるだろう。だがアイツは中位だ。それ以上のやつが来たら守るなんて無理だぞ」
「まあ、確かにメディさんは中位って聞きました。セルジオ様みたいな強い精霊には勝てないんですよね?でも……ありますよね、メディさんを手っ取り早く強くなる方法」
「………………お前、まさか」
「してませんよ!ただそうなったら多分メディさんは私の血だろうが何だろうがきっと躊躇うこと無く飲んでくれる。メディさんは守るって約束してくれましたし、相手はメディさんですからね。私だって惜しむことはしないつもりです」
芽依の強い眼差しが笑みを形作りセルジオを捕えると芽依を射殺すような眼差しが怒りに染まる。
ダン!と芽依の体を壁に縫い付け覆い被さるように上から見下ろされた。
「それは許されない事だ。伴侶がいる移民の民が自分から他のヤツに好意を向け自らを差し出すなど」
「それは誰が決めたんですか?何で従わないといけないんですか?そもそも伴侶って誰だかわからないし、従わないと殺されるんですか?」
「………………殺しなんてしない」
芽依の真っ直ぐなまでの眼差しと意見に、グッと眉をしかめる。
今まで当たり前で何故かなんて考えた事も無い常識を、真っ向から否定し疑問をぶつけられた。
昔からそういう物だからこそ、何故かの問いに答えなど無くてセルジオは不機嫌なまま、ただ殺すことはない事実だけを伝える。
芽依は、何かと気を使い見てくれていたセルジオをどうしても不愉快から来る拒絶だけは避けたかった。
「私はですね、初めて会った親切な精霊さんのセルジオ様をメディさんと同じくらいに大好きなんですよ。貴方が望んだら、血の1、2滴くらいどうぞと思うくらいに。……セルジオ様は私が嫌いですかか?」
「……嫌いでは無い」
「よかった。これで嫌われてたらショック死して化けて出る所でした。では、仲良しのセルジオ様、たまにはお酒でも一緒に飲みませんか?」
「……酒?」
「仲良しならお酒を飲み楽しくお話しするものです。そこで、酔ってしまったセルジオ様がペロリと何かを言ってしまっても、それは仕方ない事ですよ」
壁に押し当てられながらも、うふふと笑って見上げる芽依を呆れたような表情で見た。
「……随分図々しいヤツだな」
「仲良しなんですから普通です!」
「仲良し……ねぇ」
「なんですか?文句ですか?」
「……いや、今はいいだろう」
お礼はしますよ?お友達でしたら対価じゃなくてお礼。素晴らしいおつまみ優先券発行しようかな……と呟くと、わざとらしく肩を上に上げてやれやれ、とされた。
「……………………お前は本当に馬鹿だな、そんな事言うヤツは初めて会った」
「初体験ですね……いたっ!」
両手を合わせて笑うとデコピンされ鼻で笑われる。 初めて、セルジオが芽依触れた。
「……セルジオ様、今」
「セルジオで良い。友達なんだろ?メイ」
フッと笑ったセルジオは今まで以上に柔らかな笑みを浮かべ背を向ける。歩き出したセルジオをおでこを両手で擦りながら見ていると、ピタリと止まり振り返った。
「行くぞ話があるんだろ」
「はい!」
メディトークと同じくらいに好意を向けていたセルジオだったが、移民の民として一定距離を必ず保っていた事に芽依は少なからず寂しさを感じていた。
この世界では人外者であれば相手を見極めろと口酸っぱく言われていた芽依だが、それでは寂しすぎる。
だって、知ってる人間はアリステアだけで人外者とて片手で数えるくらいだ。
知らない世界で心細い芽依が優しくしてくれたセルジオとメディトークに寄り掛かりたいと思うのはなんの不思議でもない。
芽依は、ただの平凡な女性なのだから。
「これからは何かあれば俺も助けてやるから、呼べよ俺の名を」
だって、芽依が知っている。
この精霊がとても優しくて芽依を見放さないと。
それがたとえ初めて会った時から少しづつ溢れ返るほどの花の香りが強まり、セルジオが強い執着を増やしている事に芽依が気付いていなくても、それでも芽依はもうセルジオを信頼して頼ると決めたのだった。
こうして宣言通り美味しい所だけを奪い取り、さらに酒の時間を楽しむ相手を手に入れた芽依は満足そうに頷いた。
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