第22話加勢の幻獣
あの芽依が現れた日、あの豊穣と収穫の祭事の場にメディトークはいた。
豊穣を収穫を司る精霊は、最上位にいるディメンティールが不在の為、以前よりその力は弱い。
その不足分を補うためにアリステアから派遣されたのがメディトークであった。
土の力を色濃く持つメディトークは加勢の幻獣である。
加勢の幻獣は、頼まれた者や事に対して助力する幻獣で土の力を持っていた為、豊穣とも相性がとても良かった。
メディトークはここ数十年アリステアの豊穣と収穫の祭事を手伝う対価に、冬の間の食材提供を受けて、豊穣と収穫の祭事の手伝いを請け負ってくれていた為アリステアとの関係性は良好であったのだ。
「…………これは、困った事が起きた」
「アリステア様、このままですと祭事が中止になってしまうのでは!?」
「それだけは何としてでも回避せねばならんのじゃ!はよう豊穣の精霊を探しにゆけ!!」
ザワつく周囲にアリステアは呆然と精霊がいた場所を見ていた。
すると、背中にそれなりの衝撃が来てたたらを踏む。
『なにをしてやがる、しっかりしねぇか』
「あ、ああ、豊穣の精霊を探さないとな!皆聞いてくれ!!」
現れた芽依の姿がこの世界での下着相当の格好なため、女性免疫の無かったまだ若い精霊の男性はパニックを起こして逃走を図った。
既に通年より収穫量は激減していて、この豊穣と収穫の祭事の延期は今後の食事事情に直撃しかねない。
アリステアは地図を広げ、ここに居る半数の人に範囲をわけて探させる事にした。
残り半分は祭事の乱れた場を整え魔術の補習と定着を急ぎ、後の半分は領主館に残っている詮索に長けた人間や人外者に掛け合い豊穣と収穫の精霊の捜索にあたる。
今回はまだ祭事開始すぐだった為、市民の集まりは悪くこの騒ぎにザワつくだけで大きな問題になっていない事が幸いだろう。
「メディトーク悪い、祭事が伸びそうだ」
『んな事は今どーだっていい。アイツを見つけて祭事を始める事だけ考えてろ』
「っ……すまん!」
バタバタと走り去るアリステアを見送ったメディトークは、やるか、と呟き歩き出した。
『おい、場の整えは俺がやってやるからよ、壊れた物直しちまえ』
「メディトークさん!助かります!」
『はよしろよ』
芽依の出現で陣を張り豊穣と収穫量の増加や天災への対応しやすい場を整えられていたのが全て壊れてしまった。
かなり苦労して作っていた魔術の調整にメディトークはやり直しかよ……と諦めに似たため息を吐き出した後自分を中心に風が吹き地面に巨大な陣が出来るのを静かな眼差しで見守っていた。
あれから4日、豊穣と収穫の精霊は恥じらいヘロヘロになっていて、急遽駆け付けた同じ豊穣の精霊達に抱えられて出頭した。
他の精霊達も収穫量などは危険視していたので早く動け!とせっつかれての登場である。
真っ赤な顔で、あんな姿でいるなんて!と何度も呟く艶がなくなってしまった茶髪の精霊はアリステアや他の精霊、妖精に促され祭事を始める。
こうして、芽依が現れたことによりずれ込んだ祭事は無事終了したが、ズレた日にちを取り戻す事は出来ない。
収穫時期がずれ込み空腹に飢える人が出そうな現状にアリステアは息を吐き出した。
芽依という些か問題を抱える移民の民の出現に全ての予定が狂ったアリステアは頭痛を覚えるのだが、移民の民の保護は国に従事する人の最重要事項である。
そのはずなのに、まさか芽依に付けた世話役がなんの機能もしていないどころか、ほぼ放置ではないか。
パートナーとなる人外者の伴侶がいないことで移民の民である芽依を軽んじたのだ。
勿論、そんな事あっていいわけない。
だが、綺麗で自分を1番に大切にしてくれる人外者に恋焦がれる人間は少なくない。
移民の民に少なからず何らかの負の感情を持つ人も中にはいて、今回世話役に指名した5人のうち3人が人外者に傾倒していたようだ。
普段そのような姿を見せたことがない3人だったからこそ、優秀な者を中心に選んだのだが今回は完全なるアリステアのミスだった。
芽依に付ける適任者がいない。
芽依の為になる職場が見つからない。
困り果てた時に見たのがまだ観光のために残っていたメディトークの姿だった。
そうだ、豊穣と収穫の恩恵があると言っていたではないか。
「メディトーク!助けてくれ!!」
『……あ?』
串焼きを食べていたメディトークは立ち止まりアリステアを見ると、数秒無言だったメディトークは面倒事か?と呟いた。
「頼む、お前の今後の人生を私にくれないか!」
『なんだと?』
「頼む、契約をして欲しいんだ」
『……本気なのか?』
「ああ、メイにのために。現れた移民の民の為にお前の力を貸してほしいのだ」
『あの時のヤツか、なるほどな。あれはなかなかの香りを放っていたうえに何故かパートナーが居ねぇじゃねーか。お前、また面倒くせぇもん背負い込みやがって』
「…………そんなに香っていたのか?メディトークが気になるくらいに?」
『いい感じのアロマオイルだ』
はぁ、と両手で顔を覆った人間のアリステアには芽依の香りはわからないのだが、加勢の幻獣は他の人外者より移民の民への執着は薄い為匂いには鈍感なのだ。
そんなメディトークすら芽依に香りの反応している。
『(たぶん、あいつは特等だろうよ)』
メディトークはあえて言わない芽依の秘密を心で呟く。
「……私の頼みはメディトークとの契約。願いはメイへの守護と補助」
『そりゃ、期間はいつまでだ?まさか、アイツが存在する限りなんて……え?マジで言ってんのか』
「ああ、メイがいる限り助けて欲しい。お前の気質はきっとメイの助けになる。お前の加勢としての力を私の為にメイに貸して欲しいのだ。頼む」
頭を深々と下げてアリステアは頼み込んだ。
精霊、妖精、幻獣。
そのどれとでも力を借りる為の契約が存在する。
その願いに応じた力を借りるに値する対価を支払う契約は、契約者すなわちアリステアに負荷がかかるのだ。
期間が長ければ長いほど、願いが大きく大変な程に対価の支払いも大きく長くなり、身を削ることと大差ない。
契約内容や、契約相手を選ばなければその身を滅ぼしかねないのだ。
『……んー、お前そりゃダメだろ契約期間が長すぎるし相手は移民の民だ、簡単な事じゃねー。それこそお前の魂丸ごと貰っても足りねーよ』
「…………そうだよな」
『……じゃあ、こうするか。守る時期は俺が決める自由期間で契約内容は1年の更新とする。場所はどっかに固定しそこ以外は関与しない。で、お前が生きている間、冬の食材の無料提供、全期間を通して果物を要求した時に提供する事』
「…………それは、もう無期限で見てくれるって事じゃないか」
こうして芽依を守るために守備重視の加勢の幻獣メディトークとアリステアは契約した。
期間は1年、但しメディトークが判断した時のみ期間を延長しアリステアに負担はかからない。守る場所は芽依の働く場所のみで、庭に設定。移動や範囲を増やす場合は都度相談する。
その対価は、冬の食料提供に年間通して果物の提供。ただし、希望時のみ。
毎年行う豊穣と収穫の祭事でメディトークは今までと変わらず手伝いをするだろう。
結果的にメディトークがアリステアに要求したのは果物の提供のみだった。
これは、メディトークの争いの好まない性格と、アリステアとの良好な関係性によるもので、普段はそんな良心的なものなどではない。
これも、加勢の幻獣としてでは無くメディトークとしての個性が強い。
ただ、変えられない事が一つだけある。
契約内容を守る代わりに対価を守らなくてはならない。
それが守られなくなった時、契約破棄となりぞんざいな扱い受けた幻獣は契約者を食い殺す。
だから、基本1年契約とし場所を固定したことによって対価の負荷を軽くし、生涯果物を差し出すという比較的安価な対価によってアリステアを守ったメディトークは、期間を延長する事で芽依すら無期限に守ってやると男前に豪語したのだ。
これは、メディトークに対しても良い契約内容であった。
メディトークの契約者はアリステアで、助ける相手はメイとなる。
全てにおいて助けることに喜びを感じる幻獣のため、読めない字を変換したり、メイの仕事の手伝いをして充実した生活を送ると共に酒という潤いも後に得る。
性格は男らしく守ってあげる気質。
後にメイを気に入りしっかりそばに着いて守るメディトークに、芽依は勿論アリステアも感謝しきれない素晴らしい蟻に頼る日々を送るのだった。
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