第58話 円卓の騎士、モルル・モードレッド

お久しぶりです。ちょっと長いおやすみを頂いてしまいましたが、ゆっくり再開していきたいと思います……

◆◆◆


(一人称視点)



 【円卓の騎士】。

 アヴァロン王国において最強の騎士に与えられる称号であり、その席は僅か十二。

 学園長ルフォス・ガラハッドは“元”円卓の騎士だそうだが、現役の円卓の騎士に出会ったことはなかった。

 果たしてどれほどの猛者達なのかと、いつか会う日を内心楽しみにしていた、が。



「まさか俺と同い年の少女が円卓の一人だとはな」


「ゃ、やっぱり私なんかじゃ分不相応ですよね……ごめんなさい」


「いやそうじゃない、少し驚いただけだ。君の――モルルの実力について疑っているわけではない」



 モルル・モードレッドは何故か申し訳なさそうに身を縮こませて、俺の部屋の隅にうずくまっていた。

 あのまま外で話し続けるのは目立つし、お互いに落ち着く必要があったので、こうして俺の部屋に招待したという訳である。



「それより話を戻そう。君が俺に会いにきた理由についてだが」


「は、はいっ……先日の襲撃事件の時に、魔剣を回収してくださったお礼と、救援が間に合わなかったお詫びをと思いまして……」



 ……なるほど、ようやく理解できた。

 確かあの時、【蟻の巣アントネスト】への対処に円卓の騎士が派遣されてくる、という話は聞いていた。

 結局、到着する前に俺が首魁しゅかいを潰したので出番はなかったわけだが。



「つまり本来ならば、君が俺たちの代わりにあの傭兵達と戦っていた訳か」


「私が鈍臭どんくさいばかりに、とんだご迷惑を……!」


「いやもういい。済んだことだから謝らないでくれ」



 先ほどから謝罪ばかり繰り返すので、それ以上は不要だとモルルに伝える。

 彼女は慌てて自分の口を両手で塞いだ。なんというか、せわしないだな……



「だがもう一方の理由はよくわからない。……なぜ君が、魔剣クラレントを持っている?」



 魔剣クラレント。

 【魔女の血】で作られたというその魔剣は強大な魔力を内包し、触れた動物を魔物にしてしまうこともできる危険な代物だった。

 他にもイードゥは自分に魔剣の力を流し、ドーピングとして身体能力を爆発的に強化までしていた。

 奴が使っていた魔剣は俺が回収し、ルフォス学園長に渡したはずだが……



「ゎ、私がルフォスさんから受け取ったんです……クラレントを納める・・・のは、私の役目ですから」


「納める……?」


「私は魔剣のなんです。世界中から集めた魔剣クラレントを、身体に納めて保管してるんです……」



 俺は思い出す。

 ついさっき、何もなかった彼女の胸元から、魔剣クラレントが飛び出していたのを。

 まるで“身体の中から剣が生えている”ような光景だった。

 ……身体に納めて保管というのは、文字通りの意味ということか。なるほど鞘というのも頷ける。



「いや待て。確か魔剣クラレントは百本あると聞いているが。まさか一本だけじゃないのか……?」


「は、はい。流石に百本全部は揃ってませんが、それなりには……」



 一度戦い、触れた俺にはわかる。

 魔剣クラレントは猛毒だ。人体を犯す毒素の塊。

 そんなものを複数本、あの小さな身体に納めている……?

 物理的にも不可能だ。少なくとも、人間の肉体・・・・・には。



「すごいな」


「えっ?」


「さっきみたいに武器を自在に出し入れできるなら、戦いでは極めて有利に働くだろう。戦闘中に武器が壊れても新しく用意できるし、不意打ちにも使えそうだ。それが魔剣クラレントともなれば、破壊力は倍増だろう。流石は円卓の騎士といったところか」



 そう素直な感想をモルルに告げると、なぜか真っ赤な目を見開いて固まってしまった。

 ……どうしたのだろう。もしかして気に障るような発言をしてしまっただろうか。



「すまない、気を悪くしてしまったなら謝る。あまり人との会話には慣れていなくてな」


「!? いえっ、そんなことないですっ! むしろ、その、えぇと……」



小動物のように


「……。そんな風に言われたの、初めてです……」



 そう言うとモルルは何故か顔を赤らめて、俺から目を逸らした。

 もしかして俺が彼女の肉体を褒めたから、照れてしまっているのだろうか。

 よし、もっと褒めちぎろう。



「いや本当に素晴らしい。正直感動している。体内に武器を納めるという発想はなかったし、魔剣を取り込んで平静を保つ精神力も見事だ」


「うぇ!? な、なな何を……」


「魔剣の毒を克服しているのか? いずれにせよあんな危険物を体内に保管するというのは並大抵の覚悟ではできないだろう、俺と殆ど変わらない歳だろうに大した胆力だ。流石は王国を背負う円卓の騎士といったところか――」


「そ、それ以上変なこと言わないでください……! 恥ずかしくて剣が飛び出ちゃいます!!」



 湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にしたモルルが、いやいやと首を振って拒絶した。

 ……ちょっとやり過ぎたかもしれない。『友達を作るには褒めちぎれ』とあの本・・・に書かれていたから、実践してみたのだが。

 ともあれ、俺が彼女にいたく感心しているのは本当だ。



「一体どんな仕組みなんだ? 俺も可能ならば真似してみたいのだが――」


「そ、それはごめんなさい、秘密です……ただ、ティグルさんには真似できないと思います」



 流石に教えてくれなかった。普通は切り札を他人に教えたりしないだろうし、仕方ないな。



「……話が逸れたな。つまり俺が事件で回収した魔剣は、今はモルルの体内にあると。君は何かの理由で魔剣を集めていて、その協力の礼を言いにきたという訳だな」


「は、はい……魔剣クラレントは悪用されると危険ですので、王国が全て回収する決まりになっているんです……」


「妥当だな。あれは野放しにしていい代物じゃない。使い方によっては国一つ滅ぼすこともできるだろう」



 ともかく、モルルが俺に会いにきた理由は理解できた。

 やけに自己評価が低いのか、謝罪ばかりでちょっと理解が遅れてしまったが。



「ずっとティグルさんに会ってお礼をと思っていたんですが、後処理やら魔女の暴走やらで忙しくなってしまって……! ようやく時間ができたと思ったら、ティグルさんは里帰りしちゃったと聞きまして……!」


「……ん? もしかして俺が帰ってくるまでの間、ずっと待ち伏せしていたのか……?」


「は、はい! これ以上私なんかがティグルさんに、非礼を重ねる訳にはいきませんから……!」



 襲撃事件からもう一ヶ月近く経つが、円卓の騎士というのは色々と忙しいらしい。

 とはいえ俺の家の前でずっと待ち伏せというのは、ちょっと熱心過ぎるような気もするが。



「にしてもちょっと大袈裟おおげさすぎじゃないか? 俺一人に円卓の騎士が直々に会いにくるとは。いや個人的には大歓迎だが」


「お、大袈裟じゃないです……! 魔剣の暴走を止めてくれたティグルさんは、王国の危機を救ってくださったのと同義! 何の役にも立たなかった私なんかより、もっと凄くて誇るべきことなんです……!」


「そうなのか……?」


「そうなんですっ! 魔剣の汚染にも恐れず立ち向かったティグルさんのような人こそ、ちゃんとした褒賞を得られるべきであって……あ」



 そこまで話して、モルルは何かを思い出したように固まった。

 かと思えば、突然部屋の隅から動き出して、俺の懐に急接近してきた。



「な、なんだ?」


「そうだティグルさん! お身体の方は大丈夫ですか!? クラレントの攻撃を浴びちゃったなら、魔物みたいに肉体が変質していてもおかしくないので……!」


「いや特に問題はないぞ? むしろ前より元気になった気がするな」


「ね、念の為調べさせてください……! 私が来たのは、それが理由でもありますので!」


「?」



 訳もわからず俺はなすがまま、モルルにペタペタと身体を触られ始めた。

 腹、背中、心臓、首筋。服の中まで入り込んで、直に触って何かを確かめている。

 ふわふわとした髪の毛と彼女の身体が触れて、ちょっとくすぐったい。



「……あれ、ほんとに異常がない……? なんとなく普通の人より、肉体が魔物に近い気はしますが……念の為血液検査とかも」


「ちょっとくすぐったかったが、一体何を調べていたんだ?」


「!!??? ごごごめんなさいッ!??」



 俺の声掛けで我に帰ったモルルは飛び退いて、また部屋の隅に戻っていった。

 さっきも見たが見事な俊敏しゅんびんさだ。俺も彼女の肉体に触れて少し分かったが、どうも彼女の身体構造は人間とは違うように見える。



「俺は気にしていない。それよりモルルが来たのは、こうして俺の身体を調べる為だったのか?」


「は、はい。普通の人は間近で魔剣の魔力を浴びれば、肉体や精神に異常をきたしてしまうことが多いので……あ! さっき魔剣をお見せした時は、ちゃんと魔力を制御してたので大丈夫ですっ! 説明が遅れてごめんなさい!」



 なるほど? 魔剣の影響を受けていないか調べてくれたのか。

 今の発言といい、魔剣の魔力を制御できる彼女だからこそ、俺の元にやってきたという訳だな。

 ……しかし、さっきから自己評価の低さが目立つな。彼女は間違いなく強者であるはずなのに、この精神的な脆さは一体何なのだろうか。少し気になるな。



「まあ、見ての通り俺は至って健康体だ。何も問題はないしモルルが間に合わなかった事についても気にしていない。君が気に病む必要は何もないという訳だ」


「そ、そうですか……ティグルさんが無事なら、よかったです」



 柔らかな胸元に手を置き、安堵の表情を見せるモルル。



「で、では……私の用事は済みましたので、このあたりでお暇したいと思います」


「ん? もういいのか? せっかく来たんだし、軽く十本くらい模擬戦でもしていかないか?」


「だ、大丈夫です……! あ、いえ、お気持ちは嬉しいのですが! 本当にっ!」



 そうか。せっかく円卓の騎士と手合わせできると思ったのだが、残念だ。

 とはいえ流石に無理強いすることはできない。彼女にも色々と都合があるのだろう。

 そして申し訳なさそうな顔をしながらちょろちょろと小走りに玄関に向かったモルルは、最後にこんな挨拶を残していった。



「そ、それではティグルさん。おやすみなさい……また明日」



 扉の向こうに隠れながら控えめに手を振ったモルルは、そう言って部屋を去っていった。


 ……また明日?


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