孤高の剣鬼やめます。転生したのでまずは学園で友達作りから〜ぼっち剣士、転生して次こそ最強を目指す〜
猫額とまり
第1話 ある剣士の生涯
久しぶりの新作です。よろしくお願いいたします。
◆
――男はずっと一人で生きてきた。
生まれてすぐ親には捨てられ、
少年となった男は友に裏切られ、濡れ衣を着せられ故郷から追われた。
寄り添う恋人などいるはずもなく、青年となった男は他者を信じられなくなっていた。
剣を初めて拾ったのはいつだったか、もはや男自身も覚えていなかった。
ただ男の人生に残されたのは、それだけだった。
男は残された時間を全て、剣に費やした。
他者から脅かされず、己が身を守る為に。男は己と剣術のみを信じ、高め続けてきた。
いつしかそれは男の生き甲斐となり、唯一の安らぎとなっていた。
数年か、数十年か。
世間との関わりを断ち、どれほどの時が経ったのか、男にもわからなくなった頃。
ふと、男はこれまでの生涯を振り返った。
“このまま独りで生きて死ぬ事に、何ら不満はない。
だが己の全てを費やしたこの剣を、このまま腐らせてもいいのか?”
男の胸に初めて、野心という火がついた。
己が剣術を、生き様を、世界に刻みつけてみたくなった。
そして男はより一層、剣の
木を斬り、岩を斬り、獣を斬り、魔物を斬った。
長い年月が過ぎ、男がすっかり
男が孤独に磨いた剣技は、極致へと達した。
男は外の世界へ飛び出した。
賊を斬り、剣士を斬り、魔女を斬り、邪竜を斬った。
男の名が世間に知れ渡るまで、そう時間は掛からなかった。
人々は男を【剣鬼】と呼び、畏れ敬われた。
目に付くものは何でも斬った。
己以外の存在は、男にとって野心を満たす踏み台でしかない。
数多の剣士や獣に挑み、勝利を重ねていく。
その度に男は己の存在が認められ、世界に刻み込まれるような気がした。
やがて、数年の時が過ぎた頃。
男は、剣の頂に手を掛けていた。
”あと少しで俺は、頂の存在として世界に刻み込まれる”
“そして俺の剣は、未来永劫語り継がれるだろう”
そして男は、ある青年と出会った。
“お前か。世間を騒がせている【剣鬼】というのは”
少年の域を脱したばかりの、才気に溢れた青年だった。
男と同じく、野心に満ちた真っ直ぐな。
しかし男とは真逆の、澄んだ眼をしていた。
一目見てわかった。
多くの他人と同じように、他者と関わり支え合って生きてきた剣士なのだと。
男と青年。同じ野心を持ち、真逆の人生を生き抜いた二人の剣士。
剣の頂に立てるのは、一人だけ。
両者が出会えば、剣を交わらせるのは必然であった。
戦いは三日三晩続いた。
夜が明け、嵐が訪れ、雷雨に身を打たれても、二人は剣を止めることはなかった。
この戦いが剣の頂を決するものであると、互いに理解していたからだ。
これまでの人生で
そして遂に、決着の
敗れたのは、孤独を貫いた老剣士であった。
男は、なぜ自分が敗れたのか理解できなかった。
互いの才能は互角だった。ならば人生の全てを費やした剣が、その半分も生きていないであろう青年の剣になぜ敗れたのか。それがわからなかった。
地に
“剣の道とは人の道。一人で生きる者に剣の頂は掴めない”
男の問いに、
“お前は自分の世界しか見ていない。一人で強くなれるのには限界がある”
“俺は多くの
“剣の頂には一つの世界では届かない。なぜなら頂とは、
多くの世界、人生を見てきたからこそ、俺は今
驚いたのは男の方だった。まさか答えが返ってくるとは思わなかったからだ。
かつて男は下した相手に、同じ質問を問いかけられたことがある。しかし男は何も返さず、その場を去った。
敗者に与えるものなど何もなく、他者は全て敵であると、これまでずっと信じてきたからだ。
だが目の前の青年はそうしなかった。下した敗者に手を差し伸べ、再起の機会を与えたのだ。
青年はずっとそうして生きてきたのだろうと、男は悟った。
そして多くの剣士と関わり、共に好敵手として高めあい、いつしかその歩みは男を追い越したのだ。
男は初めて心の底から、敗北感を味わった。
“【剣鬼】。お前は確かに強かった。いずれまた戦いたいものだ”
そう言い残し青年は去った。
男は暫く、その場を動けなかった。
――青年の望みが叶うことはなかった。
男はその後
全盛を過ぎ老いさらばえた男に、立ち上がる力はもう残されていなかった。
“最初から間違っていたのだ。俺の道は”
死期が近づくにつれ、男は己の生涯を振り返った。
そこに満足感など欠片もなく、ただただ後悔と絶望が残るだけだった。
“剣の頂を目指すとは、他者に認められるということ。
“俺は結局、孤独に耐えられなかったのだ。自分の生き様を貫けず、他者から認められる事を望んだ。
その
一番に倒すべき敵は、
剣の頂とは最強の称号。誰よりも強くならなければならない。無論、己自身よりも。
己の弱さに勝てない者に、剣の頂は掴めない。
気づくには遅過ぎた。男の世界は狭過ぎた。
“俺は……俺は、今まで一体、何をしてきたんだ?”
どれほど孤独に過ごしただろうか。どれほど己から逃げ続けただろうか。
それを他者との交わりに充てていれば、どれほど強くなれていただろうか。
剣の頂に、届いていたのではないか。
“悔しい。悔しい。悔しい”
“ただ無念だ。気づくのがもう少し早ければ、違う生き方を歩めたかもしれないのに“
”もう一度やり直したい……機会が欲しい。そしたら俺は――”
……そう言い残して、男の小さな世界は閉じられた。
誰にもその言葉は伝わることなく、末路を知る者も誰一人としていなかった。
そして――
◆
「ぅ、あああぁぁぁあああああ!!????」
そうしてティグル・アーネストは、
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