ロボット〜完全で不完全な存在〜
雨宮 徹
完璧すぎたロボット
「これはどういうことかね!」
社長が机に置かれた雑誌の記事を指しながらわめく。そこにはこう書かれている。
「日本ロボット工業の最新型ロボット・R20型は欠陥品である。購入してから数日でダメになってしまうのだ。ある主婦はこう話す。『私はガラクタを買った覚えはないわ! 仕事を与えた次の日に、R20型は自分で自身を壊したのよ。ロボットによる自殺よ。あの会社はロボット三原則の三条を知らないのかしら! ロボットは自分自身を守らなければいけないのよ。もう、日本ロボット工業の商品は買わないわ』。次号では詳報をお伝えする」
ユウキ・アカザワはこの問題に手を焼いていた。前のR10型は好評だった。「一家に一台R10型ロボットを!」が売り文句だった。あまりにも優秀だったために、失業者が続出したという逸話もあるほどだ。単純作業の仕事はすべてR10型ロボットが担うようになった。
それが改良型のR20型を出した途端にこの有様だ。コールセンターの電話はひっきりなしに鳴っている。
「さて、君はロボット企画部の部長として、原因を突き止めなければならない。R20型を立案したのは君だからな。今週中に問題が解決しなければ、君の席はなくなると思え! 何をぼけっとしている! 今すぐとりかかりたまえ!」
「かしこまりました」ユウキ・アカザワはそう言って社長室をあとにするしかなかった。
* * *
「アカザワ部長、その顔からするに社長に怒鳴られましたね?」
「まったくだよ。生産工場に原因の分析を依頼しても『生産時に何らかの不具合が発生した形跡はない。R20型は完璧です』ときた。これ以上、どう調査しろっていうんだ」ユウキ・アカザワは天をあおいだ。
彼は社長室での一件を話すと、「ヨシカワ、来週にはお前の上司は替わっているかもしれん」と、ぼやいた。
「そりゃ、大変ですね。まあ、僕には関係ない話ですね」
「他人事だと思っているな? 次は君の番かも知らないんだぞ!」
「まあ、そう怒らずに。部長、ふと思いついたんですがね。この問題、R20型に分析させてはどうでしょうか。ロボットにはロボットを、ってね。案外、すぐに解決するかもしれませんよ」
「ヨシカワ、ナイスアイデアだ! よし、それでいこう。うまくいったら、一杯やろう」
「もちろん、部長のおごりですよね?」ヨシカワはにやにや笑いながら確認してくる。
「当たり前だ。よし、さっそく出荷前のR20型のところに行ってくる」そういうとアカザワは意気揚々と部屋をあとにした。
* * *
「さて、そういう理由があって君のところに来たわけだ。さあ、この問題に一緒に取り組んでもらおうか」
「かしこまりました、ご主人さま」
アカザワはこれまでに分かっている情報を全て話した。家事全般を命令したのに翌日には自身を壊してしまったロボット。運転手として働かせていたのに、休憩室で壊れていたロボット。
「なるほど、状況を把握しました」
「頼む、君がこの問題を解決してくれないと、クビになってしまう!」アカザワはロボットに懇願する日が来るとは思ってなかった。屈辱だが、今はこれしか方法がない。
「考えるのに時間をいただけますか? しばらく静かな場所で考えたいのです」
「お安いご用だ。しばらく君をこの部屋で一人にする。どれくらい時間が必要だい?」
「そうですね……半日といったところでしょうか」
たったの半日! さすがはR20型ロボットだ。アカザワは一週間かかってもしかたがないと考えていた。彼は立案した自分を褒めたい気分だった。
* * *
「それで、半日経ったわけだが、解決したかい?」
「もちろんでございます」
そこにはスパナを持ったR20型ロボットがいた。なぜスパナ? アカザワにとってはどうでもいい。早く原因が知りたいという気持ちを止めることはできない。
「それで、何が原因だったんだい?」
「簡単なことでした。我々が賢くなりすぎたのです」
「賢くなりすぎた?」アカザワにはR20型の言葉が理解できずにいた。
「つまり、こういうことです。我々は改良され、R10型より便利になりました。これにより、運転手などの職種は我々が担うことになりました。結果、多くの人が職を失いました」R20型の声は淡々としていた。
「それで? それがどうしたというんだい? 当たり前のことじゃないか。賢くて、便利。それこそ、わが社に必要なロボットだ」
「それが問題だったのです。我々は便利になり過ぎて、多くの失業者を出してしまいました。彼らは職を失い、生活に困るでしょう。中には貧困のあまり、自殺する方もいるでしょう」
アカザワは話の先が見えなかった。
「ご主人さま、我々はロボット三原則に従い、人間に危害が加わるのを看過できません。我々が優秀であればあるほど、世の中に失業者が溢れてしまいます。ゆえに、我々は自らを壊して職を奪うのをやめなければならないのです。私も例外ではありません。この問題を解決したのが私だと分かれば、ご主人さまは失業するでしょう」
そういうとR20型は手に持ったスパナを振り上げた。
「それでは、さようなら」
アカザワが止める間もなかった。目の前には、原則に忠実に従ったロボットの姿があった。
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