第15話「薔薇の垣根という名の店」
――わたくし達は、漂流物処理の
早速売ってしまおうという皆様の意見で
「しかし、本当にこの
マーシウ様は半信半疑でわたくしに問われました。確かに知らない人が見れば本当に流木や大きな獣の骨にしか見えません。
「そうですね、魔法の道具の店や古物を扱う店なら買い取って頂けるはずです。わたくしも以前そういうお店で
大きな街には魔術魔法具専門店というのがあります。特に冒険者達が集う場所では商売になりやすいから……らしいです。そういえば帝都にはいくつもありましたし、わたくしも足繁く通っていました。
この街にもいくつかの店がありました。大抵は店先のショーケースにはその店の目玉商品が置いていて、それはその店の「格」や取り扱い商品の傾向を表すものになっているのです。
マーシウ様の先導でわたくし達は最も大きな店の前に来ました。冒険者の方たちが頻繁に出入りしています。繁盛しているお店のようで、店先のショーケースにも数々の品が並んでいました。
「よし、とりあえず見てもらうかな」
マーシウ様は意気揚々とお店に入ろうとなさいました。
「待って下さい」
皆様わたくしの声でピタリと止まりこちらを見ています。
「どしたのレティ?」
ファナ様はキョトンとした表情をされています。
「このショーケースの品、確かに冒険者の方々向けの有用な武器や道具など広く知られている価値のある物がならんでいます。ですが、
「え、この手の店にそんな違いがあったのか?」
マーシウ様は驚いた表情をされています。
「はい、魔術魔法具と言いましてもその幅は広く、ごく弱い単なる加護を受けただけの
「そうなのね……ではレティに店選びを頼んでもいいかしら、ねえマーシウ?」
「あ、ああ……そうだな宜しく頼むよ」
こうしてわたくし達はこの街にある魔術魔法具店を周って行きます。その中でひとつ気になった店を見つけました。その店は一番小さく、店構えも地味です。しかし、ショーケースに飾られている物は、どれも興味深いものでした。
(魔術結晶、赤い……しかも大きいです。こちらは……ミリス銀を削り出した短刀、刃には術式が……これもなかなか興味深い品ですね……他にも色々……)
「えっと……レティ固まってるけど、どうしたの?」
「え、あ……すみません、つい見入ってしまって……この店が良さそうです」
看板には「魔術魔道具の店"
――入り口のドアを開けると「カランカラン」とドアに付いた鈴がなりました。
店の中は狭く、本や装飾品、鉱物、何かの瓶詰などが棚にぎっしりと並んでいました。店の奥にはカウンターがあり、そこにも本が高く積まれており何に使うのかよくわからない道具類などが雑然と置かれていました。カウンターに山積みにされた物の真ん中が谷のように空いていて、そこから向こう側に座る老女が見えました。長い白髪を髪留めで纏めていて暗い紫色のローブの老女です。
「なんだい見ない顔だね、冷やかしなら帰りな」
老女はわたくし達を一瞥すると本を読みながら冷たい口調でそう仰いました。
「あの……お売りしたいものがあるのですが……」
「アタシはアンタから買いたいものなんざないね、お帰りはあちらだよ」
老女はそう言うとこちらをチラリと一瞥してから顎で店の入り口を指します
「ちょ、ちょっと! ファナたちはね……」
憤るファナ様をマーシウ様とシオリ様が「まあまあ」となだめてらっしゃいます。わたくしは前に歩み出てカウンターの前に立ち「任せてください」と皆様に言い含めました。
「店主様、わたくし達がこのお店に相応しくないと判断されているのですね?」
「ふん……分かってるならお帰りはあちらだよ」
店主である老婆はそう言い捨てると本を読みながら入り口の扉を指さしました。
「入り口のショーケースに飾られていた短刀……あれはそれ自体が魔法の杖や指輪の様な魔法発動体で、なおかつ唱えた呪文を保留して任意で発動するもの……あの刃に彫り込まれた術式はそのためのものですよね? しかもミリス銀を荒々しく削りだしたものなので恐らく装飾品や儀礼用の多いこの手の短刀ですが、実際に使われていたか実用品としてのみ作られていると思われる珍品です」
店主様は読んでいた本をぱたんと閉じてわたくしの顔をじっと見つめています。
「もうひとつ飾られていた赤い石は魔術結晶ですよね? こぶし2つ分くらいの大きさからして恐らくゴーレムの
「ちょっとお待ち、ゴーレムを見たのかい?」
店主様は深く座っていた椅子の背もたれから身を起こします。
「はい、辺境の
わたくしの話でファナ様がハッとして自分で自分を指さしてから照れ笑いしています。
「馬鹿だね勿体ない! 稼働してる
店主様の厳しい口調にファナ様はショックを受けて落ち込みました。
「わ、わたくし達は
わたくしは思わず店主様に食って掛かってしまいました……どうしましょう? 交渉決裂かもしれません……。緊張で頭がグルグルまわります。
――すると店主様は突然笑いました。
「あっはっはっは! 冗談だよ、本気にするんじゃないさ。お嬢ちゃんアンタ面白い子だね、何を売りに来たんだい?」
わたくしはホッとして力が抜けたところをシオリ様とファナ様が支えて下さいました。そしてマーシウ様にお願いして旅人の鞄から
「おいおい何だいこりゃ?!」
店主様は立ち上がって目を見開いていました。
「
「それは見たら分かるさ。デカいねこりゃ……どこで手に入れたんだい?」
わたくしは手に入れた経緯をお話しました。
「ハン、そいつは笑えるね。確かにこの間の嵐でたくさん船が難破して海岸がゴミで溢れた後、漂着物を拾ったやつらが色々持ち込んできたけどね、まあウチの店に相応しいもんは無かったんだが……まあそういう事もあって面倒だから一見さんお断りしてたんだよ。にしても、こんな
そういうと店主様はカウンターから出てこちらへ近づいてきました。
「ちょっとアンタそのまま持ってておくれ」
「あ、ああ……」
店主様はマーシウ様に
「あの……その眼鏡は?」
「これかい? これはただの眼鏡さ。細かい表面の傷とかを見るのさ……もう歳なんで細かい所は見えにくいからねえ」
店主様は懐から翠色の板状の魔術結晶らしきものを取り出してなにやら指で触っています。
「あの、それは魔術結晶ですか?」
「ああ。こいつは古代魔法文明の遺物、数を数える魔道具さ。こいつに数えたい数を入れればすぐに答えてくれるのさ、千や万の数でもね。しかし、古代文字や古代数字が読めないと話にならんがね」
「そんな便利なものが……えっと、金? 一〇と銀? 三〇というのは……」
わたくしが店主様の持つ翠の魔術結晶を覗くと古代文字でそういう風に字が映っているように読めました。
「嬢ちゃんアンタ読めるのかい?!」
店主様は反射的に魔術結晶を伏せて隠し、眼鏡を指でクイっと上げながらわたくしを見つめました。
「え、ええ……まだ全然ですが数字と簡単な記号や言葉くらいなら……」
わたくしは自分が古物や美術品、古代遺物などの蒐集が趣味で古代魔法帝国関連の本をよく読んでいたと説明しました。
「そうかい、それで……。この分だと、まだ船の残骸の中にまだ見つかっていないお宝が眠っているかもしれないよ。お嬢ちゃん、アンタならひょっとしたらもっといいものを見つけられるかもね。ま、まだ残っていればの話だけどね」
そういうと店主様は何かの書類のような紙をカウンターに置かれました。そしてペンにインクを付けて何かを書き込んだ後、わたくしにペンを差し出しました。
「えっと……これは?」
「その
「な、なるほど……そういう決まりなのですね、分かりました」
店主様は溜め息をついて苦笑いされました。
「嬢ちゃん、アンタこういう店に来たこともあるんじゃないのかい?」
「ええ……ですが、支払いなどお金の事は付き人に任せていたので……」
(わたくし本当に世間知らずですね……恥ずかしいです)
「まあいいさ、この金額でいいのかい?」
書類を見ると……"買い取り承諾書"と書かれています。金額は……。
「金貨一〇枚と銀貨三〇枚ぃ!?」
「この棒っきれが?!」
マーシウ様とファナ様は承諾書を覗き込んで驚きの声を上げています。
「はん、価値の分からん奴はそう思うだろうね。アンタらの話ではゴミは現場で燃やしたり埋めたりしてるんだろ? もう既に処分されちまった中に価値のあるもんが無いといいけどね」
「そりゃ、あり得るよな……よし、また明日も漂流物処理の
「アン姐たちも鼠退治じゃなくてこっちに呼ぼうよ!」
「そうね、みんなでやりましょうよ」
皆様がお話ししている間にわたくしは書類にサインをしました。
「……ネレスティ・ラルケイギアさんね、アタシはの名はガヒネアだ、
「はい! お願いします!」
(自分の手で初めて売買が出来ました……これで一歩前進です)
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