第6話 俺はあの子と約束する

「夕香~!ご飯できたわよ~!」

「うん……?」


夕香は由美子の声で目が覚めた。どうやら寝てしまっていたみたいだ。


(まさか去年の苦い思い出を夢で見るなんて……目覚めが悪い……)


夕香が起き上がり、リビングに向かうと妹の陽菜ひながテレビを見ていた。


「あっ!お姉ちゃん!」

「もう帰ってきてたんだ」

「帰ってきてたって……もう夜遅いよ?いるに決まってるじゃん」


陽菜は中学生で吹奏楽部に入っている。

もうすぐコンクールがあるため最近は夜まで練習している。


「夕香。ご飯よそってちょうだい」

「わかった」

「陽菜はお箸を用意して」

「は~い」


陽菜はテレビを消し、キッチンに向かった。



「いただきま~す!」


陽菜が唐揚げをバクバク食べる。


「よくそんなに食べれるわね」

「中学生は育ち盛りだからね~」

「私も早くお姉ちゃんみたいに胸を大きくさせたいもん!」

「夕香は中学生の頃から大人顔負けの体になってたからね~」

「私の成長の話はどうでもいいでしょ」

「夕香は彼氏いないの?」

「いないよ」

「夕香は可愛いのに……その魅力に気づいていない男はいないのかしらね~」


由美子の言葉を聞いて、夕香は修也を思い浮かべた。


(私のどこがいいのよ……あいつ……)



翌日。修也が教室に入ると、夕香が立ち上がり、近づいてきた。


「夕香?」

「昨日はごめん……」

「えっ?」


まさか謝ってくるとは思わなかったのか、修也は驚いた。


「いいよ。気にしないで」

「その……お詫びになるかわからないけど……あんたとどこかに行ってあげてもいいわよ……」

「……マジ?」

「うん……」


修也は突然の言葉に固まってしまう。


(どうしよう……めちゃめちゃ嬉しいけど休みないしな~……)


修也が頭を抱えているのを夕香が不思議そうに見つめる。


「嫌なら別に……」

「嫌じゃない!ちょっと行きたいところ考えるから待ってくれ!」

「うん……」



昼休み。俺は裕樹に相談することにした。


「……それでどうすればいいと思う?」

「修也がそれで悩むとは思わなかったな」

「俺だって人間だから悩むよ」

「いやそうじゃなくて経験豊富だと思ったから」

「俺は一年の頃から夕香に一途だよ!」

「あっそ」

(こいつ……興味なさそう……)

「でも確かに難しいよな。土日は都大会の試合と練習があるし、平日もサッカー部は週一回休みがあるが、家庭科部は毎日あるからな」

「そうなんだよ。練習休むわけにもいかないし……夕香に部活を休んでもらうのもなぁ……」

「……!いい考えがある」


裕樹は顔を修也の耳に近づけ、考えを話す。


「確かにそれなら……でも!」

「ビビってるのか修也?俺たちは全国レベルの強豪校だぞ。これができたらカッコイイだろ?」

「あぁ……そうだな」


修也は決意を固めた。



修也は教室に戻り、美紀と食事している夕香に話しかけた。


「夕香。朝のことなんだが……」

「決まったの?」

「実は今週の試合に勝てば、決勝進出なんだ。だから決勝の応援に来てほしい」

「えっ?」

「絶対勝つから……試合が終わったら俺とデートしてほしい!」


美紀がキュンキュンとした表情で夕香を見つめる。


「我儘かな……応援に加えてデートって……」

「……えぇ。我儘だと思うわ」

(ちょっと夕香何言ってるの~⁉)


美紀が焦っているが夕香の次の一言で焦りが消えた。


「でもそれはいつものことだから慣れたわよ」

「じゃあ……」

「デートじゃなくて都大会優勝祝いなら付き合ってあげる」

「えぇ……デートって言ったらダメなの?」

「ぶっとばされたいならいいわよ」

「都大会優勝祝いに付き合ってください」

「わかったわ」


夕香は立ち上がり、教室を去ろうとするがドアの前で立ち止まる。


「……六皇子」

「何?」


夕香の頬を赤くなる。


「頑張ってね……」

「……おう!任せろ!」

「あ、あんたに対して言ったんじゃなくてサッカー部に対して言ったの!」

「えぇ~⁉今のは俺に言った流れだろ⁉」

「あんたに言うわけないでしょ!」


美紀は二人のやり取りを微笑ましく見つめる。


(恥ずかしくなっちゃったんだね~。ごまかさなかったらよかったのに……)

そう夕香に言いたかったが心にしまった美紀であった。





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