第53話 子供は瑠美と長田の不倫の子だった

 月日の移ろいは速く、もう二ヶ月が経過した。

日が短くなって暮れかけた夕方の六時、白塗りのビートルが鴨川の東岸道路を北へ走っていた。車は川端三条の交差点を右に曲がって三条通りを東へ走り、岡崎通りを過ぎたところで人通りの少ない並木道沿いのホテルへ吸い込まれた。大きく口を開けた地下駐車場には既に幾台かが駐車していたが、どの車のナンバープレートにも覆いが被せられていた。

 ビートルの助手席のドアが開いて瑠美が降り立った。白いブラウスに紺のタイトスカートで何処から見ても勤め帰りのOL姿だった。手には淡色のカーディガンを持ち、小さめのショルダーバッグを肩からぶら下げていた。少し遅れて、運転席からブルーの背広の長田が降りた。

 ホテルの入口は地下にも在って、ブザーを押すと「いらっしゃいませ」の音声と同時に自動ドアが開いた。靴を脱いでスリッパをつっかけると二人は勝手知った風に中へ入って行った。

瑠美は壁に取り付けられたガス給湯器のボタンを押した。

「四十度のお湯を沸かします。お風呂の栓を確かめて下さい」

此処でも自動の音声が流れた。半ば開いた隣室のドアの間からベッドの枕灯が見えた。

「半年振りか・・・」

椅子に腰かけた長田が瑠美の横顔に向かって言った。

「七カ月振りよ」

「もうそんなになるか・・・」

「彼方此方で浮気していたんでしょう?」

「待ち遠しかったよ」

「嘘!」

長田は慣れた仕草で瑠美の唇を蓋い、其の侭抱きかかえて隣の部屋へ運んだ。

ベッドに倒れ込むと長田の右手が素早く瑠美の胸元を開きにかかった。

「ちょっと待って。そんなに慌てなくても逃げも隠れもしないわ」

長田が照れたように少し力を緩めた。

「どうだ?その後は?」

「何が?」

「相変わらず、二日か三日に一回か?」

「ご想像に任せるわ」

「こいつ!」

長田は再び挑んで行った。

「待って。ねえ、お風呂に入ってから」

「いいよ、後で入れば良いさ」

 長田は獣のような荒い息を吐きながら瑠美のブラウス、スカート、スリップと脱がして行った。彼にとっては手慣れた道を行く手順だった。パンティストッキングに手がかかって瑠美はもう抗う素振りをしなくなった。

長田の唇が瑠美の乳房を含み、右手が既に湿りを帯びて艶やかに光る黒い叢に触れた。

「ねえ、今度からはきちんとアレを着けなきゃ駄目よ」

仰向いたまま、瑠美は長田の眼を見つめて言った。

「解かっているよ。今日は大丈夫だ」

長田は気を殺がれたように乳房から唇を離した。

「あんな言い訳はもう二度と効かないし、それに、あんなしんどいお芝居は懲り懲りだから・・・あたし、あのまま産むことになったらどうしようかと気が気じゃ無かったわよ」

「それにしても、酩酊児とは上手く考えたもんだろう?えっ?」

言いながら長田は瑠美の敏感な処を摩り続けた。

「上手く行き過ぎよ」

「やっぱり彼奴は気にしていたんだな」

「あたし、あなたに似た赤ちゃんが出来たらどうしようかと心配だったわ」

「なあ~に、案外、解らんもんだよ。これがあなたの子だと言われればそう思うさ」

「やっぱり変だと思うわよ、きっと」

「男ってのはそんな者だよ」

「真実に、気を付けてよ」

「解かったよ・・・そんなに俺の子を産むのは嫌なのか?」

「当り前でしょう。あなたのような悪餓鬼が産まれたら大変だわ」

「何言っているんだ、君のような悪女が出来たら、尚、厄介だぞ」

「それもそうね」

「子供を作る相手は生真面目な彼奴で、浮気は不良の俺って訳か?」

「まあ、そういうことよ」

「こいつ!」

「ねえ、早く来て!」

耐え切れなくなった瑠美は長田にせがんで、子供を産まない細くしなやかな肉体を自分の方から彼に押し付けて行った。

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