第9話 フェアリーの国、祭り本番
僕たちは街を見回って各店舗の進捗を確かめる。
金物屋では輪投げが完成しており、景品もクオリティが高い、
猫人族、兎族、サラマンダー、天使族、悪魔族、サキュバスなんてのもあるのか…全員可愛い女の子で肌面積が多い、多種族交流が無いのになぜここまでのクオリティを…
なぜか一位の景品が水筒を抱えた間抜けな魔物だが、まあ良いけど。
市場は裏でレシピを見て試作品を作成中、食べてみたがどれも美味しい、素晴らしい再現度だった。
服屋では色とりどりのスカートとハーフパンツが出来ており、どんどん新作が出来ているらしい。
ミニスカートが多く、なぜだか聞いたところロングスカートは動きにくいらしい。
まあ普段下着みたいな服だしね。
よく考えたら上は布を巻いているだけで下がミニスカートってかなり背徳的じゃないか?
「トーマは趣味が若いですぞ、大人ならもっとこう…」
なんです?普通にスカートなら簡単って思っただけだよ、趣味が若いとか言うな、僕はまだ23歳だぞ
絵画の店では爪に書く絵のサンプルが用意してあった、どれも綺麗だが…これ書くの時間かからない?
どうやら数分で書けるらしい、恐るべし、ベテラン
「爺さんーまた来たですぞー」
ちょっとここで遊んでていいよ、僕は忙しいから。
床屋では新作の髪型リストがズラリと並んでいた。どれも素晴らしい、センスが光るとはこの事だ。
お祭りは明日、僕たちも出店の準備をしよう。
「5日で祭り開催とは急ぎすぎでは?トーマにしたら珍しくね」
「まあ僕だってゆっくり準備したかったさ、まあ明日になれば分かるだろう。」
準備を終えて王宮に帰る、もう家みたいなもんだ。
ユーカにおかえりなさいと言われ風呂の後にディナーを共にする。
「短期間で良くやってくれたわね、ありがとう!」
「まあ余裕ですぞ、できたら街の飾りつけとかしたかったけど時間無かったし、城の音楽隊とかに演奏して貰って華やかなお祭りにするですぞ。」
得意気に言ってるけどお前大した事してないよね?
「明日昼からお祭りだ、今日はゆっくり休もう。」
「そういえばポメヤとトーマは何の店をするの?」
「ふっふ、明日までのお楽しみですぞ。待ちかねてろ」
お前次の国とかで同じ事したら置いて逃げるからね。
「楽しみにしてるわ、きっと二人で行くからね…」
「そうだな、待ってるよ」
明朝
朝から準備に追われている僕。
絵画の爺さんにミルクを届けると言って帰ってこないマヌケ…
まあいても役に立たないからいいか、逆に考えるんだ。
僕たちの屋台はアイスクリームだ。
フェアリーミルクを混ぜながら凍らせるだけだがかなり美味い。
ポメヤの水筒で一瞬で冷やして氷の魔石と合わせてアイスを作る。
混ぜるのは手間だが仕方ない、今日だけだ、あの間抜けはまだ帰ってこないが…
そして王様のアナウンスが入る。
「今日は一年に一度のお祭りです!国民のみなさん!今日は思いっきり楽しんで下さい!」
国中から歓声があがり、お祭りはスタートした!
そういや何祭りか決めて無いな…
始めは申し訳ないが王様の部下に店番を任せて各店舗の様子を見に行った。
まず金物屋は…すごい人だかりだ…大人のフェアリーに混じってチラホラ子供が…
逆じゃないか?
輪投げは3つ用意してあり、王様の部活3人と店主で回している。
確かにクオリティすごいもんなぁ…子供は一等を狙っているが大人はそれぞれ猫人族、兎俗やサラマンダー、サキュバス、好きな景品を狙っている。
なんか性癖が露見するな…
輪投げが外れた場合の参加賞はフェアリーだ、距離が近い分一番完成度が高い、普通に一個欲しい
コンプリートを狙ってる大人フェアリーは投げ終わったらすぐにまた並んでいた。
水筒抱えた短足の魔物も子供に人気だ、まあ可愛いは可愛いからな…
次は服屋だ、やはり長蛇の列が出来ている、店からはヒラヒラの可愛いスカートを履いたフェアリーがどんどん出てくるのだが…飛び跳ねるから下着が見える。
まぁ…元々下着で歩いてたみたいなものだし気にならないのだろう。
ハーフパンツも人気だがスカートが圧倒的に売れている。
店主に挨拶すると自分のデザインした服がこんなに売れるのは初めてて嬉しいと言っていた。
一人一着の個数制限をかけているんだとか、売り切れは無いように願いたいね。
床屋も大忙しだ、色々な髪型の女性を見かけるようになった、それぞれ好みがあり、個性的で良いと思う。
ツインテールの小さな女の子がスカートをヒラヒラさせながらはしゃいでいた。
幸せな風景だ…。
床屋の店主には悪いが王様の部下では店主のイメージ通りの髪型を作れないのでもう少し頑張ってくれ…
絵画の店か…あのマヌケは邪魔をしていないだろうか…
この店はネイルアートをお願いした、フェアリーも受け入れるか実は心配なのだがそんな心配はいらなかったようだ。
ここもすごい人だかりだなぁ…想像はついていたがやはりオシャレをしてから食べ物屋台の方に行きたいのだろう、まあ特別な日だもんな。
中を覗くと…
「爺さん!次は3番の絵ですぞ!次の人は模様だけだから僕がやっておきます故!」
ポメヤがバタバタと手伝いをしていた…
「次の方ーどうぞですぞー、並んでる人はサンプルを見て書いて欲しい絵を選んでて下されー」
普通に模様くらいならササッと書いてるな…
「爺さんー次は7番ですぞー絵の具の補充は僕に任せて絵を書いてくだされー!」
朝からずっと手伝ってたのか…爺さん1人だもんなぁ、
「ポメヤーお前水筒は店で使うって言っただろー持ってくぞー」
「トーマか!今忙しいんですぞ!冷やかしなら帰って頂きたい、水筒は持っていけばいいでしょうに!」
あんなに大事にしてたのに…
後で何か買ってやるか。
邪魔にならないように僕は店を離れた。
そろそろ自分の店に戻ろう、戻り道では色々な髪型、色んな服、色々な爪、フィギュアを持って走り回る子供、みんな笑顔だ。
やって良かったな…
戻ってみるとアイスクリーム屋の前には人だかりが出来ていて王様の部下は死にそうな顔でアイスを作っていた。
「戻りましたー」
「トーマさん!アイスクリームが思ったより時間がかかってしまって…すみません!」
こちらこそすみません…
水筒をフル活用してどんどんアイスクリームを作っていく。
飛ぶように売れるとはこの事だ。
落ち着いて来た頃に王様、ユーカが現れた。車椅子の女の子を連れて…
2人ともスカートを履いて髪の毛はお揃いでポニーテール、爪には妖精の羽が書いてありキラキラと輝いている。
満喫しているようで何よりだよ。
「アイスクリーム2つ下さいな、とっても楽しいお祭り…みんな笑顔で幸せそう。本当にありがとう、この子もとても楽しそう」
車椅子の子は笑顔で頭を下げた。
「妹は病気で…もう口もきけないんだ…最近耳も聞こえなくなって…」
ユーカは涙目で話し始めた。
「知ってたよ、もう長くは無いんだろう?フェアリーの王様が単身で一人旅、ユーカは僕たちと会った時に薬草を探してるって言ってたよな?妹の薬を探しに行ってたんだろ?」
「意外に鋭いのね…」
「マヌケが隣にいるせいで僕まで馬鹿に見えるからね…そして最後に何か楽しい事を経験させてあげたくて娯楽を求めたワケだ。」
僕はアイスクリームを二人に渡しながら続けた。
「この国から出た事がない妹に楽しい思い出を作ってあげたかったんだな…。でも内緒にしてたのはなんでだ?」
「国家機密なのよ、もしもあなた達が街の人に言ってしまったら娯楽どころではないわ」
「僕たちを選んだ訳は?」
「初めに言ったでしょ?弱そうだったからよ、下手に強い人だと国が危ないのよ…」
まあそんな事だと思ったよ、でも実際僕も楽しんだし大成功だな…。
話が一区切りつくとユーカは妹とアイスを食べ始める
「ニーア、美味しいね、このアイスクリームって…来年も……いっしょ……に…オシャレして…」
ユーカは涙を流した、妹は笑顔だが、どこか寂しい顔でアイスを食べていた。
とても幸せそうで、とても切ない
来年は多分ニーアちゃんは生きていないだろう、本当にギリギリだった、間に合って良かった。
「おーい!水筒返せよー爺さん疲れて倒れそうですぞー」
空気の読み方って教えないといけないの?
「返せよー爺さんヤバいってー水筒ないといなくなっちゃう可能性もありますぞー」
「何言ってんだお前、近くにフェアリーミルク屋あるんだからそこで買った方が早いだろ」
「わっかんねぇドアホですぞ!その水筒は!」
アホが叫ぶと急にニーアちゃんが耳を押さえだした
「ニーア!どうしたの!?大丈夫?」
「だいじょうぶ…だよ…おねえ…ちゃん」
え?
「ニーア、あなた聞こえるの?喋れるの?
「きゅうに大きな声が聞こえてびっくりしただけ、聞こえるよ、お姉ちゃん…」
何が起こっている?
「お姉ちゃん!!」
ニーアちゃんは涙を流しながらユーカを抱きしめた。
ユーカも何が起こったか分からず…だけどしっかりと抱きしめて2人で泣いている。
「ポメヤ、お前何か知ってるだろ?」
「だからこの水筒はすごいって最初に言ったですぞ!元気が出るんですぞ!わかんねぇヤツだな!冷やして温めるだけの水筒が宝物庫にあるわけないでしょ!もう爺さんのとこ行くから!じゃあですぞー」
ポメヤはスタスタ走って行った。
つまりこの水筒に入れた飲み物は回復薬に?というかもうこれエリクサーレベルじゃないか?コレに入れて作ったアイスを食べたからニーアちゃんは元気になったの?
「なんでこんな国宝級の水筒の効果知らなかったんですか?」
「知るわけ無いじゃない!どこにも書いてないしいつからあるかも知らないわよ!」
なんで僕怒られてるの?
「お姉ちゃん!もっと色々な場所行こ!私あのリンゴ飴って食べてみたい!」
ニーアちゃんはスカートをヒラヒラさせながら姉の手を引っ張って走って行った。
「お腹壊しても知らないんだからー」
ユーカは涙を拭ってポニーテールを揺らして走って行く、月明かりで二人の手がキラキラ光っていた。
数日後
祭りの後片付けも終わり街には日常が戻った。
娯楽提供と言われて年一回の祭りにしたのはこの日常を出来るだけ壊さない為だ。
仕事や日常生活に支障がでないよう配慮したつもりだ。
髪型だけは一年を通して変えても良いが、輪投げ、スカート、ハーフパンツとネイルアートはお祭り限定となった。
可愛かったのに…
特別感を重視したいらしい、王様の意見だ。
ニーアちゃんも完全に回復し、ユーカのサポートをしている。
主に今は祭りの請求書がガンガン届いていて処理に追われている
不憫だ…
問題はあの馬鹿だ。毎日毎日爺さんと約束したと滞在を伸ばしている、もう一週間もこの国に滞在しているんだぞ?
そろそろ出国しないと、永住する気か?
出来るだけ多くの町を巡ると決めたんだ、ここは居心地は良いがやはり他の町も見たいんだ。
そこにアホが帰ってきた。
「明日出発ですぞー」
「なんだ?約束はいいのか?」
「良いんですぞ、もっと大切な約束がありますので、気にしたら負けですぞ。」
「あれ?君水筒は?あんなに大事にしてたのに」
「爺さんにあげちゃいましたぞ、そもそも見た目が幼稚ですぞ、なにアレ、工作で作ったの?」
そうか、お前ほんと爺さんには激甘だよな。
ユーカに明日出発すると伝えると一瞬悲しそうな顔をしたが、それじゃあ今日はお別れ会だ!と飛び出して行った。
ニーアちゃんにも伝えると本当にありがとうございましたと頭を下げられた。
「まあまた暇があったら来ますぞ」
ポメヤの手を握ってポメヤにもお礼を言っていた。
ちゃっかりお祭りで水筒ポメヤのでかいフィギュア取って部屋に飾ってるの知ってるよ。
夜は大宴会となり、まあ僕は飲めないんだけど。
ポメヤは最後だと言ってフェアリーミルクをバケツで飲んでいた。バケツはクセになるらしい。
「もうこの国に住んじゃえば良いのに」
ユーカがそんな事を口走った。
「世界を周り終わったら考えても良いかもね。」
「本当?ブローチを付けていればいつでも入国できるから歓迎するわ!王族にしてあげても良いんだから!」
「人間の僕が?無理だ流石に」
「こ…婚約したら大丈夫…よ…」
ユーカは赤くなりながら答えて…
しばらくの沈黙の後に眠ってしまった
「酔ってたのか…まあそうだよね」
ニーアちゃんはバケツミルクを飲むポメヤを応援している。なんだあの癒し空間。
そうして夜は老けていき、最後の大浴場を堪能して僕らは眠りについた。
翌朝、
王様直々に見送られ、妖精の国を後にした。
絶対また来てねと手を振られたので僕たちも大きく手を振り返した。
「今回は長かったなぁ」
「不自由の無い生活、トーマも王様だったらなーあーあー」
王様だったらお前と出会ってねぇよ…
次はどこに向かおうか、ここからだとサキュバスの町か人魚の町が近いな。
まあ時間はあるしのんびり行こう。
「結局報酬はなにも無かったですぞー」
まあ良いだろ、久しぶりに楽しい時間だったよ。
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