第7話 争った事が無いフェアリーに娯楽を提供する話

娯楽を提供して欲しい。

今日この国に来たのに急にそんな事言われても…


「一体なんの話をしてるんですぞ?確かにジュース飲んだ後は買い物くらいしかする事ないし、退屈な国だと思っていたけれども、くっそヒマだなぁーって」

お前国王の前で何言ってんの?


毎度失礼なことを言うのはヒヨコを大きくしたような魔物のポメヤ、短足で水色の体、口が大きく癒し系だが間抜けに見える。


「ズバリ言うじゃない…でもその通り!娯楽がないの!あなた達旅人でしょ!なにかこう…国民全員が楽しめる娯楽を考えてちょうだい!」


「まあ良いですけど報酬とかあるんですぞ?僕たち結構お金あるからそれ以外で」


「え、貧乏そうなのにお金はあるの?困ったわね…じゃあ王宮の宝物庫から好きなモノを1つ選んで良いわ、どうせ使わないし」

どうせ使わないんですか、そりゃ楽しみっすね…


一応宝物庫を見せて貰った。

正直娯楽の提供なんて適当なモノを教えれば良いけどその娯楽が与える影響まで責任を持てない。


例えば娯楽に熱中しすぎて仕事が手に付かなくなったりしたらどうするの?

娯楽は慎重に扱わないといけない。なんせこの国には娯楽がないのだ。


そんな事を考えながら宝物庫を見ていると…

水筒?普通の水筒に見えるけど…なんで宝物庫に


ユーカにこれは何かと聞くと中身の温度を調整出来る水筒らしい。スープを入れても水を入れてもすぐさま冷たく、又は暖かくなると


何コレ少し便利、だけど報酬としては微妙なところだな。


ん?


目の前にあった水筒は無くなっており、ポメヤが大事そうに抱えていた。


「よし、これで交渉成立ね、娯楽の件頼んだわねー」

宝物庫を出るとユーカは仕事に戻って行った。


「ポメヤ君、何してるんですか?」


「見た目が気に入ったですぞ、これはオシャレかつカッコいい、首にかけるベルト付き、お前なんかよりずっと役に立つ」

じゃあ次何かあったら水筒に助けてもらえよ…


・・・・


娯楽かぁ…機械を使うのは無理だし、

サラマンダーの時みたいにリバーシという手もあるが制作技術が怪しい。

頭を悩ませているとポメヤがご機嫌で水筒からフェアリーミルクを飲んでいた。


「ふむ、良いですぞ」


ふむ…じゃないよ、なに遊んでんだ


残すところは、演劇とかスポーツか

まあ他にも色々あるけどシンプルなものが良いよな。

まず情報が足りなすぎる、ユーカにもう一度話を聞きに行こう。


廊下に出て国王のユーカを探す。


「おーい国王ー情報よこせよー、トーマが黙っていませんぞー。」

どこまでやったら僕が怒るのかテストでもしてんのか?


ポメヤが騒いでいると衛兵に捕まり、国王に会わせてもらえた。

これブローチ無かったら死んでたな


「もう考えたの!?早いわね!?」


「残念ながらまだだよ、情報が欲しい。フェアリーはスポーツなんかやるのか?」


「スポーツ?ボールを蹴って遊んだりするけど競ったり争ったりはしないわね、そういう種族なの。競い合うのも良いけど争いの火種みたいなものは持ち込まないで欲しいわね」


「娯楽って競ったりして楽しむものが多いですぞ、なんとかならんか?」


「やった事ないからなぁ、外では戦争とかあるけど私達ってそういうの無縁だから…基本的にみんな仲良しなのよ、そういうお国なのここは。」


「加工とか印刷技術はどうなんだ?」


「どうかと言われると普通ね、ある程度の技術はあるけど生活に必要なものを作れるくらい、だってそれ以外不要なのよ。」


「そもそも娯楽が必要な環境なんですぞ?なんかストレスとか無さそうだし無いまま不満が出てないなら別に無理に作らなくてもいいですぞ。」


「無茶を言ってるのは承知なんだけど国王として娯楽の一つも提供したいのよ、お願い、水筒あげたでしょ?」


ポメヤは水筒を貰ってからずっと首に下げている、かなり気に入ったみたいだ。


「水筒分の働きはしますぞ!まっとれ!」


「お願いねー」

ユーカは手をヒラヒラと振って仕事に戻った。

うーん、これはかなり難しい。


競争心が無い、というか閉鎖空間で暮らしていて競争の意味を知らない。

ここで無駄に競争心を植え付けると何が起きるか分かったもんじゃない、争いに発展する可能性もあるだろう。


みんなでニコニコ…お手手つないで…か

うん、あれしかないな、今回は長期滞在になりそうだ。


今日は街を散策して明日ユーカに会いに行こう、下調べもしないとな。


水筒を抱きしめて歩くマヌケと一緒に街を歩く、間抜けは少し歩くと立ち止まり、うん、うん、と言いながらチビチビとフェアリーミルクを飲んでいた。

お前のその水筒の為にやってるんだが?


まず店だ、どんな店があるか把握しないと。


洋服店、ほとんど下着のような服しか置いていない、店主に聞くと別に他の物も言われれば作れるそうだ。


金物屋、包丁や鍋、料理道具が並んでいる、こちらも言われれば何でも作ると言っていた。


市場は食材が並んでいるが調理済みの物は無い、基本的に自炊が主流らしい。


絵画を売っている店なんかもある、店主が画家らしく、様々な絵の具で絵を書いているそうだ。


美容院、客はみんな同じように切るらしいが、たまに三つ編みなどもするらしい

なるほど、どうにかなりそうだ。帰るぞ、水筒野郎。


「ミルクの補充が先ですぞ、無くなったら目も当てられん」

水でもいいだろ、水筒さえあれば…


王宮の部屋を使って良いらしく、ベッドも用意されていた。

風呂に入り、ディナーの時間。今日もユーカと一緒だ


「思いついたよ、きっと良い娯楽になるだろ。」


「ちょっと君、食後の紅茶はこの水筒に入れて持ってきて欲しいですぞ。」

黙ってて欲しい、洗ってんの見たことないぞその水筒。


そんなポメヤを見てふふっと笑うユーカ

「年に一回の祭りが良いと思う、色々な店で普段出さない商品を出したり、簡単なゲームの景品にして出す。服とか可愛い置物とか、その日だけしかできないオシャレもできるようにする。」


「お祭り?それなら建国記念日とかにやるわよ?」


「遊ぶための祭りだ、まず聞いてくれ」


・・・


「なるほど!それは良い!それで行きましょう!忙しくなるわね!」


「うーん、なるほど、冷たい紅茶もなかなかですぞ…」

その水筒景品にしてやろうか?


祭りの準備は明日からだ!

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