第43話 世界最強VSピラニアシャーク

 ウサ耳つけた水着の女の子。

 自称イナバちゃん。

 語尾にピョンをつけるタイプのキャラ。

 彼女は再び宣言した。


「さぁ世界最強! イナバちゃんのサメちゃんとなるのだピョン!」

「……」


 語尾にピョンをつけるタイプのキャラが、現実に存在している事実に脳が追いついていない一同。

 一番早く正気に戻ったのはイヴだった。


「あの、なんでうさぎなんですか?」

「イナバちゃんが何故うさぎなのかだってピョン!? それに答えるためにはカカシの話をする必要があるピョン!」

「なら結構です」

「聞かないのなら我が下僕となるのだピョン! 行くのだピラニアシャークピョン!」

 

 数百匹のサメたちが列を崩して、船に襲いかかる。

 

「お前らは知らないと思うけど、こいつらは魔王の子供なのだピョン! トロールだったかって名前のチビを一匹のサメが食ったら、なんとこんなに増殖したんだピョン」


 あいつかぁ。

 トロールとはドラキュラの兄にして、魔王の息子、増殖魔法を持っている。 

 その魔法を特性として獲得したサメ。

 それがピラニアシャークなのだろう。


「ああ兄さん、サメになったらあんな感じなんだ」

「二メートルぐらいで牙がするどいね」

「ピラニアはスープがいいってき聞くぞ」

「大漁だぜ」


 もうやだこいつら。


「余裕ぶっていられるのも今のうちだピョン! さぁ、貪り食うがいいピョン!」


 アルナが海に飛び込む。

 水中を縦横無地に泳ぎ回る。

 ピラニアシャークが追いかける。


「はっはー! いつまで逃げていられるかなピョン!」


 ピラニアシャークがあと少しでアルナに噛みつこうという瞬間、アルナの策に気づく。しかし、もう遅い。

 

「あれは!」


 ルシファーが指差す。

 そこには、『渦』があった。

 渦に巻き込まれていくピラニアシャークたち。

 まるで蟻地獄のようだった。


「なるほど、さすがお義父さんだ。泳いで渦を作ったのか」

「あれなら一網打尽に出来るね」

「クソ親父にしては考えたな」

 

 え、無理でしょ。

 出来るわけないでしょ。

 人間には作れないよあんな大きな渦。


 アルナが泳ぐのをやめると、当然渦は消滅する、その反動によってピラニアシャークたちが空に打ち上がる。

 アルナは飛び上がった。

 そして次々とサメを平手打ちで倒していく。

 ピラニアシャークたちの中にいたオリジナルから、トロールが出てくる。

 

「そ、そんな!? こんなチートみたいな人間がいてたまるか!!」

 

 イナバが戸惑い出す。

 戸惑い過ぎて語尾を忘れていた。

 

「これが世界最強よ。特に理由もなく理不尽に強い、それがしっかりしてるときのアルナ」

「う、嘘だろ、この理不尽さはまるで、まるで、じゃないか」


 あ、おい、言うなよ。

 俺が少し焦っていると、アルナが船上に戻ってきた。


「こうなったら!」


 最後に残った一匹のサメに命令する。

 魔王の娘、ユミルを取り込んだサメを。


「でっかくなれ! メガロドン!!」


「アルナ!」


 イナバが何をするのか理解した俺は、つい、アルナを押してしまった。

 押したというよりは、突進の方が近かった。

 俺とアルナの二人は、海に落ちる。


「な、何を!?」


 アルナが海面に上がると、目の前が巨大なサメの青みがかった灰色の皮膚で埋まる。

 ユミルの魔法は巨大化。

 巨大化したあのサメが、船ごとイヴたちを飲み込んだのだ。

 衝撃はそれだけに終わらない。

 

「神話実現『因幡の白兎』」


 サメが消失した。

 あれほどの巨体が一瞬にして忽然と。

 あたり一体を見渡そうと、もうどこにも船は見えなかった。

 水平線まで綺麗さっぱり。

 いるのは俺と、アルナだけ。


「イヴ! ルシファー! ドラキュラ!」


 アルナが叫ぼうと、返事はない。

 途端、俺の首を掴みかかる。


「お前が! 俺を突き飛ばさなきゃ! イヴたちと一緒に行けたはずだ!」

『おいおい、一緒に行けたはずって、今のが転移であることが確定しているような言い草だな。もしかしたら消滅なのかもしれないんだぞ、その場合、俺はお前の命の恩人だ』

「クッ!」


 ぐうの音も出なくなるアルナ。

 まあ俺はあれが転移の類いであることを知っているので、消滅の可能性は0なのだが。

 これからどうしたものか。

 アルナはともかく、俺はこのままだと死ぬ。

 胃液なので温かい、低体温症はないだろうが、胃液だからこそ、消化されてしまう。

 もう既にピリピリしてきた。

 

「おい!」

『……?』


 アルナが俺に背中を突き出す。

 なんだ。

 何をしている。


「はやく乗れよ、お前はすぐ溶けそうだからな」

『……さっきは殺す勢いだったというのに、おんぶしようってか』 

「お前が嫌ならしなくていいんだぜ」

『せっかくの好意だ受け取ろう』

「素直じゃねぇな」


 俺はアルナの背に乗る。


「さて、こらからどうする?」

『案はないぞ』


 会議が終わる。

 沈黙が続く。

 しかし、それも長くは続かなかった。


「シャーシャッシャッシャッ! 愚かな人間め! サメ女様が助けてやろう!」


 奇妙な笑い方をするサメ模様のパーカーを着た女の子が、俺たちの前に水中で立ちはだかる。

 

 こんなんばっか。

 

 

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