二度目の依頼

 

 いきなりだが、今の俺の現状を話そう。

 今俺は二人に膝枕されている。

 二人の膝枕の真ん中の丁度寝心地が悪い所ら辺で平等に膝枕されている。

 理由は勿論、朝起きた時にマリアがルナの膝枕で寝ている俺を目撃したからである。


 ルナもさ、別に「よいしょっと」ってどかして寝てくれてもいいのにさ。

 俺が起きるまで、律儀に寝ずに俺の顔見てたんだよ、凄いよ。



「えへへ、シェイドがボクの膝の上にいるって新鮮で良いね〜? ルナはしてたんだし、疲れてるでしょ? 別に休んでても良いよ?」



「疲れて無いよ。シェイドの寝顔を見てたら疲れなんて吹き飛ぶから。マリアも膝枕不慣れでしにくいでしょ? 経験者に任せてて良いよ」



 俺の上で女の戦いをしないでくれ……!

 と言う出す勇気も無く、俺は二人の膝の骨辺りの部分に頬を乗せて朝を過ごすのだった。


──────


 ギルド、広場。

 依頼一覧を覗いて、丁度良さそうな物を手に取った。



「今日は少し大きめの依頼をするぞ! さっさと上に認められてブロンズ級から進級するんだ!」



「よっ、リーダー! さっすがシェイドは冒険者って物に気合いが違うね〜!」


「シェイドは確か、お父さんが冒険者なんだよね。プラチナ級まで単独で行った凄い人」



「そうだ! だから俺も父さんみたいな立派な冒険者になりたいと思ってだな……と言うか俺リーダーなの? 俺達にリーダーとかあったっけ?」



「一応、パーティにはリーダーが必要でしょ? やる気も十分だし、シェイドがピッタリかなって!」



「私もそう思う、マリアと珍しく意見が合ったね。落ち着いてるシェイドが指示してくれたら、私達も動きやすいし」



 落ち着いてる、やる気も十分……言われて悪い気はしない、というか嬉しい。

 確実に自分より実力が上の人に褒められるって、なんだか嬉しい気分になってしまう。



「それでだな……今日の依頼は、ゴブリンの巣窟の破壊だ! 本来はシルバー級の依頼なんだが……新人を試したいって名目でブロンズ級にも置かれてるらしい。……新人を試したいってのに危険な所に行かせるのはどうかと思うけど」



「破壊……良い響きだね! 今度こそ大規模な戦闘が出来そうで楽しみだな〜っ! 私のニアちゃんが火を吹くよ〜っ!」



「ニア?誰だ?……って、マリア、剣に名前付けてるんだった……ルナも大丈夫か?」



 ルナに目を配ると、ルナはいつの間に買ったのかは知らない肉団子を頬張っていた。

 ルナ、何気によく食うんだよなぁ……食いしん坊って奴か。

 じゃなかった、意気込みとか聞かないと。


 ルナは咀嚼が終わったのか、口の中の物を飲み込むと手でグッドサインを出して微笑んだ。



「私もやる気十分。今日も良い所見せてあげるから。シェイド」



「ずる〜い! 今日こそはボクもシェイドに格好良い所見せてあげるからねっ! 刮目して見よ! えへへ……」



「頼むから、俺にも出番くれよ……父さん、見守っててくれ」



 俺達は手荷物や武器を手に、依頼場所に向かうことにした。

 場所は王都の領地の中の草原、この前行った場所と同じ場所だ。

 その中にある自然に作られた洞窟の中に、ゴブリンが住み着いているらしい。


「いや〜、風が気持ち良いね〜っ! やっぱこういう自然が豊かな場所の空気はおいしいね〜?」



「シェイド、あとどれくらいで着く? マップは渡されたんでしょ?」



「あぁ、大丈夫。もうちょっとで着くよ。あっ……あそこだ!」



 目に付いた場所に指差すと、そこはあからさまに『ここはゴブリンの巣ですよ』と自己紹介しているような、動物の骨や冒険者から奪ったであろうアクセサリーや武器が飾られた洞窟の入り口があった。



「うわぁ……悪趣味だね、だいぶ。さっさとやっつけちゃお! ね?」



「洞窟の中に魔法打って一掃しても良いよ」



「ルナ、辞めてくれ。中に攫われた人とかいるかもしれないだろ? な? 知らないけど……」



 ルナを諭して、俺達は巣窟の中に向かう。

 薄暗い闇の中に、不恰好な松明が置かれてダンジョンらしい雰囲気になってきた。

 少し向こうから、トテトテと裸足で歩く音がする。

 その足跡は、不気味な気配と共に近付き始める。


「……! 来るぞ!」



 長い鼻、緑の表皮、間違いない。



「ゴブリンだ!! やるぞ!!」



 ゴブリン達は隊列を成してこちらに向かい始める。

 リーダーらしきゴブリンがこちらに冒険者から奪ったのであろう剣を向けると、ゴブリン達は一斉にこちらに早足で向かい始めた。


「【真空一閃】……!はぁっ!」



 マリアがそう言い放ち閃光の様な剣撃を放つと、群れの大半が真っ二つに切り分けられた。

 それを見て残党のゴブリン達は一気に意気消沈したのかまたもや早足で巣の奥に逃げ始めた。



「逃すか……! 【疾風突き】!」



「【追い風】。これでシェイド、動きやすいと思う」



 追い風という名に相応しく、魔術をかけられた瞬間後ろから突風が吹く様な感覚を感じる。

 ランスをゴブリン達に向け、追い風の行くまま突き刺す。

 俺の一撃は的中し、残党の一人のゴブリンは貫かれた。



「追撃。【バーン・ボム】。どかーん」



 ルナがまたもや魔術を使うと、他のゴブリン達の足元に魔法陣が浮かび始める。

 魔法陣から炎が吹き出し、ゴブリン達は灰も残らず消え去ってしまった。



「ナイスだ! この調子で奥まで向かうぞ!」



「えへへ、シェイド……さっきのボク、格好良かったでしょ? 褒めても良いんだよ? ね? ね?」



「あぁ! マジで凄かった!」



「そ、そんなにシンプルに褒められると恥ずかしいな……えへへぇ……」



 マリアはもじもじと頭をかきながら、照れている。

 正直、凄く可愛い。この二人は顔面偏差値が高すぎる。



「私も。褒めて」



「おう! 魔術を頑張ってるからこその一撃だったぞ〜! 俺には真似出来ないよ!」



「シェイドに褒めて貰えるなんて。ぽっ」



 ルナは顔を少し赤くしてもじもじし始めた。

 二人揃ってもじもじし始めた。

 この調子だと、ゴブリンを倒すたびこれが始まりそうだな……。


──────


 その後も俺達は、順調にゴブリン達を倒して行った。

 特に脅威になる奴も居なかったが、強いて言えばみんなが活躍出来たのが嬉しかった。

 子供らしい感想だが、チームワークを感じるとどうしても嬉しくなってしまう。


 俺もある程度はゴブリンを倒せたし、2人に頼りっきりになる訳にもいかない。

 俺も力を付けなければ、と実感した依頼だった。



「見ろ! ルナ、マリア! 金貨が入った袋だ! シルバー級の依頼になると、急激にお駄賃が跳ね上がるって聞いた事あるけど、ここまでとは思ってなかった……!」



 俺は子供のような跳ね具合で二人に報告する。

 マリアは目を輝かせて小袋を見ていたし、ルナはポーカーフェイスだったけど少し笑みを溢していた。


「提案があるんだけど! このお金で銭湯行こうよ〜! 最近、水浴びもしてなかったし……汗を流そ〜!」



「私も、少し汗でベタベタしてるしそれが良いな。勿論、シェイドがこっちの方が良かったら……」 



「俺も爽やかな方が良いです! それじゃ、行くか! 久々の風呂だ〜!」



 俺達は依頼の疲れと汗を流す為に、銭湯に向かう事になった。

 久々の風呂だ、俺もゆったり浸かろう。

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