届かない手紙

仁城 琳

第1話

『ねぇ、初めて話した日の事を覚えていますか?私は新しい環境で友達を作れるのかとても不安でした。みんなそうだったと思います。同じ中学の子がいた子達はそれほどじゃなかったかもしれないけれど、私は引っ込み思案で人と話すのが苦手で、だからクラスの誰よりも不安だったと思います。そんな時、隣から声を掛けてくれたのがあなたでした。同じ中学の子いる?私一人なんだよね。って。緊張で上手く返せない私にあなたは笑ってこう言ってくれました。知らない人ばっかりだと友達できるかなって不安だよね。その言葉にそっか、私だけじゃないんだ、みんな不安なんだって、すごく安心したのを覚えています。それから自己紹介して友達になりました。一人で学校生活を送らなくて済むことよりもすぐに友達ができたことが嬉しくて。朝は一人だった道を帰りはあなたと一緒に歩けるのが嬉しくて。少し話しすぎてしまったこと、気付かれてたかな?実は帰ってから反省していました。せっかく友達ができたのに嫌われちゃったかな、また中学の頃みたいになったらどうしよう。だけど翌日、あなたは笑顔でおはようって言ってくれたよね。すごく嬉しかったです。


しばらくはあなたのおかげで毎日が楽しかった。私はずっとあなたとだけで他のクラスの子と話す事はあんまりなかったけど、それでもあなたが友達でいることが嬉しかった。それと同時に誰とでも仲良くできるあなたが羨ましかった。ある日のことでした。確かあなたは休みだった。クラスの中心の彼女が私に話しかけてきました。ねぇ、あいつウザくない?ね、あんたもそう思うでしょ。私はすぐには答えられませんでした。だってあなたは大切な友達だから。だけどここで従わないと中学の頃のようになってしまうかもしれない。怖くて同意してしまいました。私が答えると彼女の取り巻きたちが大きな笑い声をあげて私は嫌なあの笑い声を思い出して耳を塞ぎたくなりました。あんたさ、ウザいって思いながらずっとつるんでた訳?ははっ、もしかして付きまとわれてたの?大変だね。彼女はきっと私があなたを犠牲に自分を守った事に気付いていたのでしょう。もしかしたら誰とでも仲良くなれるあなたへの憧れがいつしか嫉妬に変わった私の心の内も見透かしていたのかもしれませル。冷たく笑う彼女の目には哀れみと侮蔑の色が浮かんでいました。翌日からでしたね。あなたはクラスのいじめのターゲットになりました。ある日突然自分の居場所の無くなった教室にあなたは驚いたことでしょう。震えたあなたのおはようを私も無視しました。そんな私たちの様子を見てまたあの笑い声を浴びせられました。私は消えたくなりました。


あの時、私の返答が違っていればこんな結末にはならなかったのでしょう。私がもっと強い人間ならあなたにこんな道を選ばせることにはならなかったのでしょう。だけど怖かったのです。私は弱い。中学の時みたいにいじめられたらって、せっかく中学の知り合いが誰もいない遠い高校に入学したのにって。ごめんなさい。ごめんね。分かってたのに。あなたは何も悪くなかった。あのいじめは通い慣れてきた教室で暇を持て余したみんなが、私かあなた、どちらかをターゲットにして暇つぶしをしたかっただけ。だから私があなたを庇っていれば、いや、正直にあなたの事が大切だと言えていればこんなことにはならなかった。全部私のせいなのに。だからあなたがいなくなったら次は私がターゲットになると思ってた。思ってたのに、主犯格とされた彼女は退学になった。被害者が自殺に追い込まれたいじめはメディアにも取り上げられ、彼女の取り巻きたちは彼女の跡を継いで私をターゲットにすることは無かった。それこそ、お前のせいで彼女が退学になった、っていじめをするための口実だってあったのに私は何もされなかった。どうして?いじめられたら、それがあなたへの償いになると思ったのに。いじめられたら、それを苦にして、とあなたの死への責任感から逃れるためにこの世からさよならすることだってできたのに。ねぇ、どうして誰も私を責めないの。先生達には親友がいじめにあって自殺してしまった可哀想な生徒として扱われる。両親にはいじめのきっかけの事、正直に話したけど中学でのいじめの事を知っているからか、あなただけが悪いんじゃない、と言われてしまう。どうして。だって私が悪いでしょ。私はあなたの物を壊してない、暴力だって奮ってない。だけど見て見ぬふりした。一人で必死に耐えるあなたをひとりぼっちにした。ひとりぼっちになりたくなかったから。ほら、私が悪いでしょ。この期に及んで言い訳しかできないんだ。全部私が悪いんだよ。せめて罵ってくれたら良かったのに。お前のせいだ、お前なんか友達じゃないって。なんであんなこと言ったの?ねぇ、答えてよ。私を責めてよ。もうこの手紙は届かないって分かってるけど。謝らせて。ごめんって言わせて。許されなくてもいいから。どうか私を許さないで。ねぇ、お願いだよ。』


あなたの最後の言葉「友達でいてくれてありがとう。」が耳から離れないんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

届かない手紙 仁城 琳 @2jyourin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ