1章 いわくつきの診療科⑥
午後六時に通常の業務が終了して、最初の当直に入ったのは一叶と翔太だった。
和佐とエリクが帰宅してから数時間が経ち、日付が変わる三十分前。一叶と翔太と京紫朗は、中央のテーブル席に集まって夕食をとり始めた。
「当直って、超ブラック」
向かいの席にいる翔太は椅子の上に体育座りをして、カップ麵が出来上がるまでの間、辟易したように甘い缶コーヒーの二本目をずるずると啜っていた。
中毒になる気持ちはよくわかる。カフェインで目を覚まし、糖分で血糖値を上げて手っ取り早く覚醒するのにうってつけだからだ。当直ではへたをすると、これが夕食になる。運よく落ち着いて食事がとれたとしても、救急患者の搬送受入れの連絡があれば中断して現場に向かわなければならず、休まる暇がない。
「医者は日勤から続けて当直に入りますからね。でも、働き方改革で宿直明けの勤務は原則禁止になったので、今はいくらか楽になったはずなんですが」
一叶と翔太に挟まれて、コンビニ弁当の白米を綺麗な所作で口に運んでいた京紫朗が言う。
「あ……昔は明けの日勤まで含めて、ワンセットだったんですよね」
一叶がサンドイッチをかじりながら尋ねると、京紫朗は疲弊交じりの笑みを浮かべた。
「そうなんです。拘束時間が三十二時間以上になることも珍しくなかったですから。まあ、霊病医は残念ながら、働き方改革の恩恵にあやかれないんですが」
一叶と、カップ麵の蓋を開けようとしていた翔太は「えっ」と声を揃えてフリーズする。そんな一叶たちを京紫朗は微笑ましそうに見つめた。
「ふたりとも、相性抜群ですね。やはり水色と緑、波長が合うんでしょうね」
翔太と共に呆気に取られていると、京紫朗は目元を緩めたまま小首を傾げる。
「おや、いつの間にか敬語じゃなくなっているの、気づいていませんでしたか?」
思わず翔太と顔を見合わせれば、途端に恥ずかしくなって頬が熱くなった。翔太の顔も微かに赤みがかっている。
同時に視線を逸らし、翔太はそそくさとカップ麵を手に取って啜った。一叶もサンドイッチの残りを頬張る。
「慣れてきたら、私抜きで当直に入ってもらうことになるでしょう。特に夜のほうが霊は活発ですから、霊病科では必ず二名体制になります」
サンドイッチをごくりと飲み込み、一叶は呟く。
「今、霊病科にいる医師は五人……当直に二名とられるとなると、明けの日の日勤の手が足りなくなるんじゃ……」
翔太は「げっ」と言わんばかりに渋い顔をした。
「配属された時点で過労死フラグ……」
「毎日二十四時間、オンコール状態になるのは避けられないですね。初日で申し訳ないのですが、赤鬼くんたちにもオンコール用の携帯電話を持たせてありますよ」
オンコールというのは、勤務時間外であっても呼ばれればいつでも対応できるように待機していることだ。それがこれから毎日続くらしい。
「休日ゼロとか、俺の人生詰んだ……?」
箸を持ったまま、翔太は一生分の不幸を背負ったような顔で凍りついている。
(央くん、ニート志望だもんね……)
エレベーターで、彼がそう話していたのだ。
好きなゲームをする時間も減ってしまうだろうし、気の毒に思う。
「まあ、受け持ち患者は普通の病棟より少ないですから、なにも起こらなければ休めますよ」
ますますげっそりしていく翔太を、苦笑しながら励ます京紫朗に一叶は問う。
「ま、松芭部長はそれをずっとひとりでこなしてきたん……ですよね。この科で何年くらいになるんですか?」
「ん? ああ、きみたちと同じで初期研修の終わり頃に霊病科に配属されたので、七年目になります。その頃は先輩も同期もいたんですが、私しか残りませんでした」
京紫朗は仕方なさそうに肩を竦める。
「……松芭部長は、辞めようとは思わなかったんすか」
「思いましたよ、配属初日に。ですが、悪いことばかりではなかったんですよね」
京紫朗は湯気が立ったマグカップに口をつけた。中身は部屋に置かれているコーヒーメーカーで作ったドリップコーヒーだ。
「今は別々の道を歩んでしまいましたが、同じ境遇の仲間に出会えた場所です。障害でしかなかった力を役立てることができる霊病医は天職でした」
かつての仲間を懐かしむような眼差しで室内を見回したあと、京紫朗は一叶たちに向き直った。
「だからきみたちも、ここでならありのままでいられる、やりがいを感じられると思えたなら残ればいい。そうでないなら、本当に自分が望む道に進んでください」
(本当に望む道なんて……)
閉じた瞼の裏に、母の忙しなく動く口元だけが浮かぶ。
『あなたは、ひとりじゃなにもできない』
『あなたはお母さんの言われた通りにしていればいいのよ』
絶え間なくその言葉を浴びせてきた母の顔が思い出せない。
ううん、そのときだけではない。長らく母がどんな顔をして自分と話していたのか、わからない。
(もしかして、私……)
母に何を言われるのかを気にしすぎて、その口元しか見ていなかったのかもしれない。
「この一年は自分を見つめ直せる猶予期間です。存分に悩んで、強くなってください。そして、自分の答えを出せばいいんです」
京紫朗の諭すような声が沈みかけた一叶の気持ちを軽くする。
目を開ければ、なにもかも見透かすような京紫朗の瞳がこちらにまっすぐに向けられていた。まだ答えを見つけられていない一叶は、つい視線を逸らしてしまう。
そんな一叶を責めるでもなく、京紫朗は箸を置いた。
「食事中ではありますが、黄色くんたちが上がる前に調べてくれた情報について、整理しましょうか」
別の科にいたときも、午後九時に病棟が消灯したあと、夜食を取りながら簡単なカンファレンスを行った。上がってきた検査結果を見ながら、他の医師と治療方針について話し合うのだ。それは霊病科でも同じらしい。
「エリクの申し送りでは、男子大学生のテニスサークルがテニスなんて名ばかりの飲みサーだったってことがわかったんすよね」
翔太の口から出た『飲みサー』という言葉は、飲み会を目的としたサークルのことだ。
エリクは患者の家族の許可を取り、大学に連絡をした。本人たちは問診の際、あまり協力的ではなかったので、大学へ連絡することも恐らく拒否するのではないかと考えたのだ。
彼らと同じサークルのメンバーで同じ症状が出た人がいないか聞き込みをしたところ、実際に生徒が入院する事態に発展しているからだろう。学校側もテニスサークルの生徒から直接話を聞けるよう繋いでくれたのだが、そこでサークルの実態が明らかになったのだ。
「あの男子大学生たち、いかにもチャラそうだったし、納得っちゃ納得っすね。エリクが話を聞いた同じサークルの男子いわく、大学でもアルハラだって噂になってたとか」
アルコールハラスメント――アルハラは飲酒の強要やイッキ飲ませ、酔い潰しなどの人権侵害のことだ。加害者は大人だけとは限らない。ノリと称して、学生間でも起こりうる。
「霊現象による不和ではなく、もともと大学でも危ないサークルだと嫌煙されていたようですね」
京紫朗の話を聞きながら、一叶の意識は別のところへと落ちていく。
現状、男子大学生たちに現れている霊症は水の嘔吐の幻覚と肺雑音、そして――あの肺の異常陰影。思い出すだけで悪寒が背筋を襲った。
身震いしていると、京紫朗が顔を覗き込んでくる。
「水色さん、どうしましたか?」
「あ……すみません。あのレントゲン写真のことが忘れられなくて……」
一叶はペットボトルを両手で握り締め、中で揺れているお茶を見つめた。
「なんであの女の人は、肺に映ったんでしょうか。私は霊視で、すごく寒くて苦しいって気持ちになって……もしかしたら水に落ちたのかな、とか……考えたりしてしまって」
「なぜ肺なのか、ですか。確かに男子大学生たちは水を大量に嘔吐する幻覚に襲われていますし、肺のレントゲンに映った霊が経験したことが彼らに起こっているとも考えられますね」
一叶の主観でしかない訴えを京紫朗は真剣に受け止めて、一緒に思考を巡らせてくれる。
「でも、私の憶測でしかないので……違っていたらすみません」
ぺこぺこと頭を下げれば、京紫朗に「水色さん」とどこか子供に言い聞かせるような口調で名前を呼ばれた。
一叶が視線を上げると、京紫朗は困ったように笑っている。
「違っていたとしても、違っていたという事実がわかればいいんです。可能性をしらみ潰しに当たっていくうちに、真実に辿り着けるんですから」
母は一叶を医者にするため、良い成績をとって良い学校に行き、良い就職先に就けと言い聞かせてきた。いつも失敗は許されず、気を抜けなかった。
でも、完璧でなくても京紫朗は失望しない。間違いも意義のあるものだと言ってくれた。気負っていたものが一気に吹き飛んだようだった。
「あと、井上さんのほうも考えないとっすよね。そばにいる霊に成仏してもらわないと、井上さんの命ももたないし、喪失からも立ち直れない」
「そうですね。そのためには、霊が取り憑いている理由を見つけなければなりません」
考え込むように下を向いた翔太と京紫朗に、一叶はおずおずと切り出す。
「井上さんのカルテを見返していたんですけど……旦那さん、この病院で亡くなられたんですね。私が霊病科に来る前にいた血液内科で闘病生活してたって」
霊病科に戻ってきてから記録を遡っていたら、家族歴に夫の情報があったのだ。
「確か白血病でしたね」
京紫朗もすでに目を通していたのか、哀愁がこもった面持ちで首を縦に振った。そのとき、PHSが鳴る。
「はい、霊病科の央です。……はい、はい。わかりました、すぐに行きます」
翔太は通話を切ると、こちらに向き直った。
「一般病棟の看護師から。あの大学生四人が水を嘔吐し始めたみたい」
「幻覚を見ている、ではなく嘔吐していると報告したということは、救急隊員のときのように嘔吐しているという幻覚が看護師にも見えてるということですね。どうやら、よほど力のある霊らしい」
京紫朗がそう言いながら、壁掛けの時計を見上げた。時刻は午前零時ちょうどだ。
「それじゃあ行きましょうか」
一叶と翔太は「はい!」と声を揃えて答え、霊病科を飛び出した。
エレベーターの前までやってくると、翔太がボタンを押す。……が、なぜかランプがつかない。
「は? 故障?」
エレベーターパネルにも階数が表示されておらず、翔太がカチカチと何度もボタンを押すが反応がない。
「今は緊急事態です。階段で行きましょう」
エレベーター横の階段を使って、一気に駆け上がる。しかし、男女の体力差は歴然で、三階に辿り着く頃にはふたりとの距離がかなり開いてしまっていた。
「はあっ、はあっ……」
手すりに掴まって、なんとか足を前に出す。身体を死ぬほど動かしているというのに、やたら寒いのはなぜなのか。
そのとき、視界にふわっと白い煙が広がった。
「え……」
足を止め、はあっと息を吐いてみると、やはり白い。
(冬でもないのに、なんで……)
白衣の上から腕をさすっていると、ぽうっと辺りが緑色に照らされる。
弾かれるように顔を上げれば、【3階】と書かれた階数プレートを照らすライトが薄暗い緑色へと変わっていた。
(ありえない……ありえない、ありえない……っ)
気を紛らわせるようにかぶりを振る。
だが、一叶の望みを打ち砕くかのように、かつんっ、かつんっとなにかが落ちてくるような音がした。恐る恐る階段を見上げれば、濡れた片方だけのローファーが一叶の前まで転がってくる。
(どうして、こんなところに……?)
震える手でそれを拾うと、中からボコッ、ボコボコッと水が溢れてくるではないか。
「ひっ……」
びっくりしてローファーを落としてしまう。だがそれは絶えず水を溢れさせ、床一面を濡らす。
じりっと一叶が後ずさると、足元に波紋が起こった。するとそこに、黒い髪のようなものがふわっと広がるのが見えた。
一叶は気圧されたように息を吸い込むも、あまりの恐怖で目を塞ぐことさえできない。
長い髪は左右に分かれるようにどんどん広がっていき、その中にある目がぬちゃりと嫌な音を立てて開く。
「……っ」
ぎょろりとした目玉が恨めしそうにこちらを睨んでいる。彼女と目が合い、金縛りにあったように動けず、額に脂汗が滲んだ。
そのとき、床の水たまりから白い手が勢いよく出てきた。足首をがしっと掴まれ、氷のような冷たさが肌に触れると、はっと我に返る。
「ぁ、ああ……っ、嫌っ! 離し――」
すでに翔太たちは先に行ってしまっている。助けを求めるも空しく、一叶はズボンッと水の中へ引きずり込まれてしまった。
どれほど深く沈んだのか、ゴボゴボと水の音がして、瞑っていた瞼を持ち上げる。薄暗い夜の海の中にいるのだと、漠然と理解した。
ふと水面のほうに白いライトがいくつか見えた。スマートフォンのライトだ。誰かがこちらを覗き込んでいる。
『おい、どうすんだよ』
『知らねえよ! お前が捨てろって言ったんだろ!』
何人かの若い男の声が聞こえた。ぼんやりと水面のライトを眺めていると、後ろから一叶を包み込むように長い髪が浮いてくるのが視界の端に映った。一叶は結んでいるので、自分のものではない。
気が狂いそうだ。泣きそうになりながら、まずは視線をずらし、ゆっくりと振り返る。そこには水を含んだからだろう、むくんだ顔の少女がいた。
一叶は恐怖のあまり、ぶはっと酸素を吹き出してしまう。
『アイツラガヤッタ』
水面を指さした少女は赤いリボンのついた紺色のセーラー服を着ている。どうやら女子高生らしい。それがわかった頃には、酸欠で朦朧としていた。
(っ、苦しい……誰か……っ)
水面に向かって手を伸ばす。気が遠くなり、瞼を閉じそうになったとき、真横から靄がかかった手に腕を掴まれた。
「……!」
はっと目を開けると、一叶は階段の踊り場に倒れていた。
「げほっ、けほっ、はあっ、うっ……」
入院してきた男子大学生たちのように、咳込みながら水を吐く。
大きく肩で息をしていると、靄がかかった足が目の前にあるのに気づいた。ゆっくりと顔を上げれば、一叶の前に人型をした靄がうごめいている。
水の中で気を失いかけた一叶の腕を掴んだのは、恐らくこの霊だ。
(この霊、どこかで見たような……)
そう考えてすぐ、血液内科病棟の廊下の突き当りにいた靄のことを思い出した。
(まさか……)
可能性の尾を掴みかけたとき、黒い靄が光を放つ。その光に押されるように床を濡らしていた水が捌けて消えていった。
酸欠で眩暈に襲われながらも霊を見つめていると、すうっとその姿から靄が払われる。
現れたのはスポーツ苅りの男性だった。歳は二十代後半くらいで、ストライプのティーシャツの上に紺色のシャツを羽織り、ジーンズを穿いている。それからスマートフォンにつけた赤いミニカーのキーホルダーがズボンのポケットから出ていた。
「あなたは……」
真剣な表情をした彼を見て、ある人物を思い浮かべながら何者か尋ねようとしたとき、階段を駆け下りてくるような足音が響いた。すると男の霊は空気に溶けるように消えてしまい、一叶はつい手を伸ばす。
「待って! あなたが――げほっ、ごほっ、がはっ」
私を助けてくれたの? そう尋ねようとしたのだが、一叶は再び水を吐いてしまう。
「魚住!」
戻ってきてくれたのか、階段を駆け下りてきた翔太が目の前に膝をつき、水を誤嚥しないよう一叶の背を叩いてくれた。
「けほっ……うえっ……」
なにかが喉に詰まっている気がして口に手を入れると、ずるずると髪の毛が出てきた。それを見た翔太の顔が驚愕と恐怖に歪んだ。
「嘘だろ……あの大学生たちと一緒だ」
翔太は軌道を確保するために、一叶の口から髪を引っ張り出して床に捨てる。
しかし、水も毛も初めから存在していなかったかのように、すうっと消えてしまった。
一叶は苦しさに目に涙を滲ませ、喉を押さえながら尋ねる。
「けほっ……うっ、はあっ……大学生の子、たちは……?」
「松芭部長がついてる。水を吐いたあと、一時期SpO2と体温の低下はあったけど軽度だったし、他は異常はない。魚住みたいに髪を口から出したこと以外は」
「私……なんとなく、わかったことがあって……あの子たちは、今話せる状態かな?」
「ん、大丈夫だと思う」
一叶が立ち上がろうとすると、翔太が手を貸してくれる。
「もしかしたら、もう復旧してるかも。エレベーターで行こ」
一叶の体調を気遣ってくれたのだろう。翔太に支えられながら、エレベーターの乗り場まで向かった。すると、エレベーターは何事もなかったかのように動いていた。
「直ってる……」
翔太は階数表示版を見上げながら、目を見張る。
だが一叶には、エレベーターが偶然復旧したとは思えなかった。今までエレベーターが停まっていたのは、きっと……。
(あの子が私を引き留めたんだ)
そう確信しながら大学生たちのところへ行くと、彼らはひどく震えていた。それは低体温のせいだけではないだろう。
一叶は首からかけていた聴診器を外しながら、一番近い廊下側のベッドにいる雅之に近づく。
「すみません、胸の音を聞かせてもらいますね」
「え……?」
雅之は戸惑うように一叶を見上げた。
一叶は彼の身体にかかっていた電気毛布を下げ、背中に聴診器を当てる。
つい先ほど聞いた深い水の中の音に『……ァァ、ァ……』と呻き声が交じる。恐ろしさでつい聴診器を外しそうになったが、ぐっと堪えて耳を傾け続けた。
『ァ……ァァァァ……ァァァァァァァアアアアアアアッ!』
徐々に大きくなっていく声が、ついに言葉としてはっきりと鼓膜に届く。
『アイツラガヤッタ!』
ばっと聴診器を離し、激しく暴れる鼓動を深呼吸で落ち着かせた。何度聞いても、慣れるものではない。
急に来て聴診を始めた一叶を京紫朗は真剣な表情で、翔太は驚いた様子で見守っている。そんな中、一叶は聴診器を首にかけ直し、ゆっくりと告げた。
「地上で亡くなった場合、遺体は浮きます。これは肺に空気が入っているからです」
男子大学生たちの肩がびくんっと跳ねる。
「そうでなかったとしても、腐敗が進むとお腹に細菌によるガスが溜まって、浮いてきます。時間が経てば、すべてが明らかになるはずです」
「……なんのことだよ、意味わからねえよ」
不安に急き立てられたかのように、透が睨んできた。
「……赤いリボンのついた紺色のセーラー服の女子高生」
そう口にすると、彼らは絶望するように息を呑む。
「午前零時の海に心当たりがあるはずです。あいつらがやった。水の音に交じって、あなたたちの肺から、そんな少女の恨み言が聞こえます」
聴診器が拾っていたうめき声は、ずっと彼らの罪を訴えていた。
「向き合わなければ一生、苦しみ続けるのではないかと思います」
男子大学生たちはさあっと顔を青ざめ、小鹿のように震える。やがて耐えきれなかったのか――。
「うわあああっ、だから自首しようって言ったんだ!」
健二が頭を抱え、堰を切ったように怯えだした。
「お、おい、急にどうしたんだよ?」
弘樹はごまかすように笑うが、焦りを隠しきれていない。
「健二、お前ふざけんなよ? わかってんだろうなあ!?」
透が声を張り上げるが、健二は逆ギレするように叫ぶ。
「もうこんなんなってんだぞ! 死んじまうよ! なあ、雅之!」
男子大学生たちのリーダー格なのか、一叶のすぐそばにいる雅之が項垂れた。
これまで彼らが取り乱す様を静観していた京紫朗が、ふうっとため息をつく。
「生きたいのなら、話してください。ゆっくりで構いませんから」
京紫朗に諭され、彼らは視線を交わすと、観念したように重い口を開いた。
「あの日、居酒屋で作戦を立ててたんだ……俺たち」
それは雅之の告白から始まった。
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