Chapter 021 奪取&ダッシュ!


 うわぁ……。

 二~三匹相手でも俺だったら苦戦するのにぞろぞろいやがる……。


 眼下の光景を見下ろしながら、俺は黒いゴブリンの余りの多さに、苦虫をかみつぶした様な表情を作っている。


 今、テラフたちがいるのは、洞窟の中の巨大な空洞……。

 黒ゴブリンの本拠地の真上に開いた穴に垂直に繋がっている洞窟で、そこから下を見下ろすように巨大な空洞を覗き込んでいる。


 先ほど黒ゴブリンの子ども「ペンネ」と話していた住処としているほら穴の奥に大きな岩があり、それを自分達を崖をダイブした時に使った「あの能力」で軽々と岩を横に退けた。


 なんなん?

 その力……。聞いた事もないぞ?

 

 ペンネのいたほら穴からいくつか枝分かれしていき、黒ゴブリン達の本拠地直上へ辿りついた。


「それでさっき話にあった変身できるというものは、あれでいいんだな?」


(ハイ、私ノ眼ニハアレガ【変身帯革ベルト】ト、表示サレテイマス)


 テラフはペンネに念のため対象物の確認を取り、返事が返ってきた。


 ペンネの目は右目と左目で色が違っていて、右目は黒、左目が緑色で、その緑色の左目が【識眼】というスキルで索敵、分析を行えるらしいが、そのようなスキルは俺も含めて三人とも聞いたこともない。


 似たようなスキルで、強化系【慧眼】というレアスキルは聞いたことがあるが……。

 いずれにしてもかなりのレアスキルで世に知られていないか、もしかしたらユニークスキルの可能性もある。


 空洞のちょうど中央にある広場が設けられており、洞窟の入口側の対面にあたる部分に黒ゴブリンの中でひと際、体格の大きい黒ゴブリンが簡易にしつらえた壇上の座具に座っており、何やら広場に黒ゴブリンが体格の大きいゴブリンに向かって整列している。

 なにやらお取り込み中のようだ……。


 帯革ベルトは、そんな体格の大きいゴブリンの座具の傍に、動物の頭蓋骨とともに飾られている。


 ──ここから約二十五メートルといったところか。


「それでそのベルトを巻けばずっと人族とかに変身していられるのか?」


(ウン、タダスゴク沢山エネルギーが必要ナンダ)


「どれくらいエネルギーを使うんだ?」


 ペンネからは、魔物が落とす色見石が帯革ベルトのエネルギーとして使えると、ただ消費エネルギーが大きすぎて並みの石ならすぐに枯渇してしまうくらい消費が激しいと?識眼?には解説されているそうだ。


「じゃあ帯革ベルト自体使えないな……」


(ソレデ、代ワリニ奥ニアル黒イ石がアルンダケド、物凄イエネルギー量ナンダ、アレヲ使エナイカナト思ッタンダ)


 色見石のエネルギーの代替品として、別の高エネルギーの?黒い石?というものがこの奥にあるらしいが、守護者と呼ばれる石像がその場所に近づくと排除しようと動きだすらしく、以前、黒ゴブリン達がその場所に手を出して大きな被害を出して、今でもその場所には黒ゴブリン達は手が出せないらしい。


「ペンネ君、その黒い石がある場所と下の大空洞は繋がってる?」


 マカロニが、ペンネに質問すると大空洞の奥側真正面から延びている分岐洞窟のうちの一本から約百歩くらいのところにその黒い石がある場所に繋がっていると教えてくれた。


「オッケ~。じゃあ、さらってぶつけちゃおう!」










 黒ゴブリンのリーダーは苛立ちを覚えていた。

 この洞窟の中の大体は自分の縄張りにできたのに、この奥にある石像達が邪魔をして中に入れなくて、黒く光る丸い綺麗な玉を自分のものにできない。


 あと、食料が最近少なくなってきている。洞窟の中に沢山沸いている虫や蝙蝠を食べているが、それだけでは群れの食糧源としては追い付かず、洞窟の外に出て、食料の獲物を探し始めると虫や蝙蝠と比較できないほど美味い動物が沢山いることがわかった。


 だが、少し前に武器を持った自分達とは違う生き物に手下がやられてしまった。弱いと思っていたら自分達を倒すことのできる生き物も交じっていた。

 

 絶対に許さない……。その二本足で歩く武器を持った連中は頭がいい。

 だがさほど強くはない。


 逃げられたが、あの生き物どもは根絶やしにして全部食ってやると誓った。他は知らないがこの洞窟から少し離れたところに奴らがたくさん住んでいるところを数日前に部下が発見した。


 前に手下を襲った生き物どもが持っていた武器を真似て大量にこの洞窟で作って、ある程度揃えてからそれで一斉にあの生き物どもを襲おうと考えていた。


 だが、気が変わった……。

 先ほど、またもその生き物どもの仲間なのか別の奴らが洞窟のすぐ近くまで来て、あっという間に手下が五匹もやられてしまったと報告を受けた。


 許さない……。

 自分の所有物の手下に手を出す生き物など、今すぐ根絶やしにしてくれる。


 目の前の広場に手下の黒ゴブリンが集まって、リーダーが鬨の声を上げるのを今か今かと待ち望んでいる。


 こいつらも早くあの生き物を根絶やしにしたいと待ち望んでいることだろう。

 リーダーはゆっくり座具から立ち上がり、右手を上げて拳を握る。

 そして張り上げ声を上げようとしたその瞬間。



「ア~アア~~ッ!!」


『バシッ!』──ほぼ正面から「透明な何か」が放物線を描くように、隣に置いてあったこの洞窟の宝箱から見つけたお気に入りのベルトを奪って座具のかなり後方に降り立った。


 リーダーは慌てて振り返る。見ると透明に見えた?何か?が浮き出るように姿を現す。


 あの生意気な奴らの子どもか?

 後ろでは、手下どもが動揺し、どよめいている。


「グォォォ───ッ」


 マカロニを血眼になった目で捉えたまま、リーダーは鬨の声を放つ。

 リーダーの鬨の声を合図に、手下どもの轟然たる大音響が本拠地内の大空洞に響きわたる。


「さぁて、それでは元気に鬼ごっこ、行ってみよう!!」


 マカロニは振り返り、黒ゴブリン達にニコッと笑いかけ、奥に向かって猛ダッシュを始めた。 






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