第15話 伝説の最強戦闘員×オペレーター

 After


 私……戦闘オペレーター補助AI……が繋いでいるモニターに映るのは、一人の老婆だ。真っ白な髪を一つに束ね、しわしわの顔に多少の疲れを滲ませる。年に似合わず筋肉がしっかりついた老婆。彼女のバイタルその他を読み取り、私はマスターに彼女の無傷を伝える。マスターの唇から細く安堵の息が漏れた。枯れ木の如く細い手が、震えを止めた。

『ババア相手に、何十人も若いモンが突っ込んでくるんじゃないよ』

 こちとらギックリ腰明けだよ、と愚痴る彼女にマスターがため息を溢す。

「ギックリ腰は、単なる貴女の落ち度でしょう?」

『言ってくれるねぇ、由利江』

 彼女は肩を竦めると言った。

『アンタが取れって言った本を取ろうとしたから、なったってのにさ』

 マスターの顔が痛そうに歪む。

「……私は、ちゃんと台を使えと言いました」

『まあいい。他の奴らは?』

「まだ応戦中です。向かいますか?」

『あたぼうよ。若者助けるのが老人の務めってね。案内よろしく』

 わかりましたというより先に、マスターが言った。

「怪我、しないで下さいね」

『アンタからハグしてくれるなら』

「キスも付けましょう」

『いいね』

 彼女が獰猛な笑みを浮かべた。統計上、あの笑みが出たときの勝率は百パーセント。こちらの被害は少なく、相手の被害は甚大。

『やる気出た』

 マスターの口の端が、うっすらと上がった。 


 ※※※


 Before


「アンタがキスの一つでもしてくれりゃあ、無傷で帰ってきてやるよ」

「馬鹿言ってないで、常に無傷を目指して下さい」

 ほらもう、とっとと行って! そう言って、ますたーは、彼女をオペレーター室から追い出した。ほうたいだらけの、せんとういん。

『ますたー』

「なぁに」

『今まで の せんせき ぶんせき する と、かのじょ の 言うとおり する、しょうりつ あがる します』

 ますたーが、ため息をついた。

「上がるします、じゃないわ。上がります」

『上がります。……ますたー、なぜ キス しませんか』

 ますたーも、彼女を好む。バイタルサインから、私、わかります。

 私が言えば、ますたーは、もっと大きなため息をつく。

「人間ってね、とっても複雑なの」

『ふくざつ』

「あなたも学習していけばわかるわ」

『はい。えいい、学習 がんばる ます』

「がんばります、ね。ちょくちょく音便が可笑しくなるのはどうしてかしら……」

 生まれたてのAIに、にんげんかんけいは、まだむずかしい。

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