第5話 アニメ ダンダダン
〇総評
原作未読。アニメ版についてです。とても面白い作品です。古き良きドタバタ劇を上手く今風にアレンジしたと思います。ラブコメと不思議が上手く融合しており、両方のバランスと丁寧な描写が面白さに繋がっています。キャラの造形が明確で学校や家が舞台なのも感情移入しやすいです。
〇あらすじ
いじめにあっていた少年がギャル系の少女に助けられます。少年は少女の感心を引こうと必死にオカルトの話をします。UFOを信じる少年と妖怪を信じる少女が探検に出かけ、少年は妖怪、少女はUFOと出会います。
少年は妖怪に性器をとられてしまい、少女とともに取り返すための探索を始め、数々のオカルトに出会いバトルします。その過程で別の少女や少年に出会います。少年は少女に惹かれ、少女も少年に心を許し始めます。ここでアニメ版は終了しています。
〇感想・考察
はじめに少年が性器を盗まれる、ヒロインモモが凌辱されそうになる、ターボババアが過去性的な犯罪に巻き込まれた少女の何かである、アクロバティックさらさらに女性と母としての悲しみを感じるなど、性的なものが協調されますが、そこが活かしきれていないかな、という気がします。
そこに深みがでればテーマ的に面白いのですが、そこの深堀りが弱いです。ボーイミーツガールの要素と合わせて、性とは何か?がもっと描けていればさらに深い作品になったと思います。
ただ、そこを深掘りしないからこそ、少年マンガとしての面白さにつながったとも言えます。暗くなりすぎない、真剣になりすぎない。そのライトさがいいのでしょう。その点では7話の後半にアクさらの過去のみが丁寧に描写しすぎて違和感を感じました。あのテイストをすべてのオカルトゲストキャラに入れるなら入れる、入れないなら入れないで統一した方が良かったと思います。いれていたら「鬼滅の刃」的な話になったと思うので敢えて避けたのかもしれません。
本作においてはUFOはSFというよりもオカルトとして展開しています。これが上手いところでムー(作中のポー)という雑誌を持たせることで、上手くまとめました。こういう少年はどこにでもいるのでしょう。「君の名は。」でもテッシーが持っていました。つまり、UFO,ネッシー、妖怪などへの少年のあこがれを持ち続ける高校生です。
ひょっとしたら不思議なものと出会えるかも、という少年の日の夢。あるいは妄想。それを高校生まで持ち続ける。これってどっかで聞いたことがあります。そう「涼宮ハルヒの憂鬱」です。
恐竜が出てきた回で学校に閉じ込められたシーンがあります。それだけならよくある話ですが、演出が朝倉涼子とのバトルシーンにそっくりです。そこで気が付きましたが、宇宙人、未来人、超能力者もしくは地底人のうち、宇宙人と超能力者がメンバーにいます。最終話で温泉街に行き、ジジという少年の父が火山学者とのことですので、おそらくジジは地底人なのだと思います。つまり、平凡な高校生の集まりがいつの間にか不思議な人間の集まりでになっている。この構造が「ハルヒがいない涼宮ハルヒ」です。
また、そのオカルトを題材としてゲスト妖怪・宇宙人が繰り広げるギャグとバトル、そして恋愛感情は「うる星やつら」を思い出します。ハーレムではない4人組みの関係性も同様です。その「うる星やつら」よりも、情報量が圧倒的に多く現代的になっていました。
ある日突然、自分が平凡な少年でなくなり美少女が隣にいる。オカルトが実在して不思議な仲間がいて、普通ではない学校生活を送れたらな、という少年の夢ですね。この少年の夢と淡い恋愛にワクワクドキドキする高校生活というのが「うる星やつら」から「涼宮ハルヒ」を経由する日本のコミック・ラノベの一つの系譜だと思います。
ただ、近年この系譜が「女子だけ部活もののきらら系」「ストーリーがない異世界転生もの」「コメディの弱いラブコメ」「中途半端なSF」「感動ポルノ」などに浸食され、20年30年たっても面白かったと語れるような作品が減っていると思います。
つまり、視聴者が見たい要素が純化してニーズに応えすぎて物語やテーマが消失した抜け殻のような作品が量産されています。男が見たくない、ストレスいらない、永遠の女子高生でいたい、というのを煮詰めると「きらら系」になります。ある日突然自分が力を得てナンバー1になり、誰からもチヤホヤされるのが良ければ「異世界転生もの」になります。
それが悪いとはいいません。見ていればストレス解消になり癒されます。ただ、それは消費してその場で忘れるコンテンツになります。
そんな中で本作は、オカルトという死にかけたテーマをもとに、ボーイミーツガールをバランスよく丁寧に描いています。テンポも良いしそれぞれのエピソードも面白いです。そこにストレスもあるし、オカルトにバックストーリーもあります。
ただ、面白かった本作をもってしても、2006年の「涼宮ハルヒ」2011年「まどかマギカ」などと同列で名前が後世に残る作品になれるかなあという気はしました。
それはなぜかと言えば物語のスケール感が小さいからです。不思議は登場しますが、冒険や広がりがありません。ですのでカタルシスがこの両作に比べて弱い気がします。もちろん本作は完結していませんが、涼宮ハルヒの1期のシャッフル版は一つの作品としてそこで終わっても満足できる結末になっていました。それゆえに20年近くたっても時々名前を聞きます。
本作1期だけだと終わってもいないしカタルシスもありません。ハルヒの「似合ってるぞ」というラストも、1話の伏線を回収しつつラブストーリーの今後が想像できる見事な構成になっていました。
連載途中故に、カタルシスが弱く「性」のテーマも中途半端です。これが昨今のアニメが記憶に残らない原因かとも思います。
ただ、もう時代がオカルトを信じることを許してくれないという現実があります。ネットによりUFOや妖怪はギャグになってしまっています。心霊写真は画像加工で成立しなくなっています。都市伝説に形を変えたとも言えますが、都市伝説は動画に溢れすぎてどっかで聞いたことを繰り返し伝えるだけですでに古くなりつつあります。
本作ではオカルト部分でウルトラセブンや都市伝説になってしまっています。そこに実存感がありません。ひょっとしたら自分にもという「夢」がオマージュによって薄れてしまっています。それは不思議というフロンティアの消失がオマージュに走らせてしまった気がしました。そうなるとメタ的な楽しみになってしまい、オカルトの実存感がありません。
いろんな点で正統派のラブコメで面白い作品ではありますが、一方で名作とはいえず、秀作の一歩手前かなという作品でした。
(他サイトに書いたダンダダンのレビューを修正して掲載しました)
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