第16話

『ダメだよ。戻れなくなる…』


自分に残っていた理性が言葉になった。


『親や従兄夫婦の事は気にしないで良いよ』


彼女が察してくれた。




彼女が抱きついたまま、直ぐに離れようとはしない。


彼女と恋愛関係になったなら、彼女に言っておきたかった事があった。


『恋愛が始まる前にひとつ言っておきたい事が有るんだけど…』


彼女は抱きついたまま応えた。

『なに?』


『最初のは事故じゃ無いんだ。事故に見せかけたんだ』


『えーー!』


彼女が驚き、俺を見上げる。


『転んで起き上がれないと分かった時から、近寄る位置と向き、引き上げる力加減、二人で倒れる方向まで計算してたんだ。

ただ、右手を出したのに左手を出してきたから、一度引き上げようとして力加減を修正し、2度目で引き上げたんだ』

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