第43話 新宿の拠点へ
「日下部、今日は話を聞かせてくれてありがとう。この写真だけ見てもらえるかしら?」
律は日下部に金髪の男の写真を差し出した。
日下部は無言で写真を受け取り、じっとそれを見つめた。
数秒の沈黙の後、彼女の眉がわずかに動いた。
「……この男は」
低くつぶやいたその声には、驚きと警戒の色が混じっていた。
「見覚えがあるの?」
律が静かに尋ねる。
「これを見ろ」
と言って、日下部は自分のスマートフォンの画面を見せた。
画面には、金髪で整った顔立ちをした二階堂透の写真が大きく載っていた。
その顔からは、成功した企業家としての威厳がにじみ出ており、確かな自信を感じさせる。
しかし、律はその顔に何か不穏なものを感じ取った。
「これは……」
律は目を細め、画面をじっと見入った。
二階堂透の顔がスマートフォンの画面に映し出されると、彼女の心の中に一抹の違和感が広がった。
「確かに写真の男が五年経ったら、こんな感じになってるかもしれない」
「どこでこの写真を?」
日下部は少し眉をひそめ、律に尋ねた。
「とある病院の屋上でノートを拾ったの。その写真の裏にはメモも書いてあったわ」
「メモ?」
日下部は律にそう言われて、写真を裏返した。
「……確かに、何か書いてあるな」
日下部は写真をじっと見つめながら、少し間を置いて言った。
「『素敵な友達が出来たのに殺してしまった』か……」
「それが、どういう意味かはまだ分からないけれど……」
律は言葉を続けながら、日下部の反応を見守った。
彼女の目が鋭くなったことを見逃すまいと、律はじっとその動きを追っていた。
「……私は言葉の意味そのままだと思う」
「そのまま?」
律は日下部の言葉に驚いた。
彼女が続けて言うまで、何かしらの隠された意味があるのかと考えていたが、日下部の反応は予想外だった。
「二階堂透は子供のような奴だからな、友達が出来ても上手く接し方がわからなかったんだろう」
日下部の声には少し冷徹な印象があったが、どこか憐れむような響きもあった。
「……そうかもしれないわね」
律はそう答えると立ち上がった。
「……二階堂透を殺したらまた来るわ」
「期待しないで待っている」
律は軽く頷き、静かに部屋を後にした。
「次はどうする?」
律がジェイムスに聞くと、
「……そうだな」
と、腕を組みながら答えた。
「次は……二階堂グループの実動部隊が動いている拠点を狙う。彼が姿を現さなくても、二階堂グループに大打撃を与えられる」
「二階堂グループの拠点……」
律は小さく呟く。
「いまから行くの?」
律はジェイムスに聞いた。
「いや、一度『レッドラウンジラウンジ』に集まって欲しい。歯のDNA検査結果も出たし、次の作戦についてお前たちと話し合いたい」
ジェイムスの声は低く、慎重さを滲ませていた。
「わかったわ」
律とマリアは同時に頷いた。
「じゃあ、レッドラウンジに早く行きましょう」
律はそう言って、走り出した。
薄暗い路地を抜け、三人は夜の裏東京を静かに駆けた。
───喫茶『レッドラウンジ』
かつて情報屋たちの隠れ家だったその場所は、いまや三人にとって、数少ない“戦略の拠点”となっていた。
「この歯のDNAを検証して結果が出たから、見せようと思ってな」
「結果が出た?」
律とマリアがじっとジェイムスを見つめ、声を絞り出す。
彼女の目には、明確な興味と、同時にわずかな不安が宿っている。
「これが、その検証結果だ」
ジェイムスは手元から、白い封筒を取り出す。封筒の中には、検査結果を示す書類が入っていた。
「結論から言うと、あの死体は尾張だった」
「……ありがとう。それだけわかればいいわ」
「そうか。じゃあ、次の作戦の準備をしよう」
ジェイムスは冷静な声で言い、手に持った地図を広げた。
律とマリアがその周りに集まり、彼の指示を待つ。
「新宿にあるのは二階堂グループの武器庫だ。こいつを潰せれば、奴らの動きが鈍くなるだろう」
ジェイムスの指が地図上で新宿の一角を示す。律は目を凝らしてその場所を確認する。
「秋葉原には通信拠点がある。これも無視できない。通信を断てれば、次の一手を打つための準備が整う」
ジェイムスはさらに指を進め、秋葉原の位置を指し示した。
マリアはその情報を素早く頭に入れ、考えを巡らせる
「二つとも重要な場所ね。武器庫が壊れれば、物資の供給が途絶えるし、通信が断たれれば連携が取れなくなる」
マリアが言った。律も同意するように頷く。
「じゃあ、まずは新宿から攻めるべきね」
律の提案に、ジェイムスはすぐに答えた。
「その通りだ。だが、注意すべき点がある」
ジェイムスは少し間を置き、二人を見つめながら続けた。
「新宿の武器庫は堅牢に守られている。正面から行けば、警備が厳しくて時間がかかる。だが、裏からなら比較的静かに動けるはずだ」
「裏からね」
律はその言葉に反応し、素早く地図を見て作戦を思案する。
「それなら、秋葉原の通信拠点はどうする? こっちも通信を断つためには慎重に動かなきゃならない」
マリアが心配そうに聞く。
ジェイムスは少し考えてから答えた。
「秋葉原は、通信拠点が地下にある。あそこも直接乗り込むよりは、周辺のルートを使って静かに忍び寄るのがベストだろう。出来るだけ人目を避けて、システムをハッキングするつもりだ」
「わかったわ」
律が決意を込めて言うと、ジェイムスは頷き、地図を広げたまま準備を進める。
「全員、装備を整えてくれ。武器庫と通信拠点を潰すためには、全力を尽くさなければならない」
三人は一瞬で静かに決意を固め、それぞれの役割を確認し合った。次の作戦に向けて、準備を整えるために動き出すのだった。
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