殺動先輩

昼と夜と宇宙の外と

一学期

第一話_4月8日 入学式

 桜が満開の時期…なんてのは最近は言わない。どちらかといえば風に揺らされる花びらもないぐらいに若々しい葉っぱが明らかに風の動きと共に揺れている。青春への入口となる花びらを揺らす風は、ここ数年緑葉がずっと占領していた。

 所詮、桜は連想のもととなる背景にしか過ぎない。それでも毎日を趣味に使うほど暇だったあの小学生のころ。毎年満開の桜で迎えていた一学期の風景は刷り込むように僕の脳に入っていて。多分桜なしの学園ものは書けないだろう、と無駄な想像をした。

 でも今年は一学期ではない。それを明確に証明する証拠を提示せよ、とか言われてもこれはベストアンサーにはならないことは人生の経験上でわかっている。でもなぜか曲げることのできない僕の意見はこれだ。

 「正門、屋上、玄関、靴箱、窓、柵、街の掲示板…等々に、『新一年生のみんな!公立千橋中学校入学おめでとう!!!』と書かれた紙が張ってあります」

 そう、今日は地元で一番馴染みのある中学校、公立千橋中学校の入学式。もちろんこれは千橋市の地元中学校だ。

 でももちろん地元で有名な中学校というのはある。「県立東千橋大学付属中等教育学校」だ。長い正式名称にはお決まりの呼び方というものはもちろんあり、みんなの略語が「東千中等」とか「千大附属」とかなんとか。ちなみに僕は後者のほうで呼んでる。

 もちろん受験はした。他の小学校だと通知表の成績の付け方が違うとか騒いでる奴らの会話は今は思い出す専用の箱から忘れる専用の箱に入れるとしよう。僕の小学校でも「A」「B」「C」の三段評価だったが、僕は一度もCを取ったことがない。プライドを言い訳の盾として言うならB評価は5回しか取ってない。つまり僕の成績は優秀の部類に入るというわけだ。運が悪いのか、家にはあんまりお金がないので塾にはいかせてもらえなかった。それでも最低限勉強はしたつもりだったし、自信もあった。

 でも「最低限」というラインを引いてしまった少しナルシストな自分に今の僕は殴ってやりたい。そうだな、例えば頬のところから勢いよく殴って奥歯あたりを出血させたらどうだろうか。

 そう、結果は不合格。もちろん真面目に勉強しなかった自分が一番悪いのだが、地元中にはいるなんて最悪だ。こういうところは大抵真面目に授業受けないやつとかうるさいやつとか一人は絶対にいるってみんなの中で決まっている。

 とにかく、今日から中学生の僕は地元中の千橋中学校に通うことが決まった。噂話が好きな女子の声っていうのは響きやすいもんで、教室の窓側…一番入口から遠いところにある僕の席にまで聞こえてきた。僕が大人しく本に集中できるとでも?

 「千橋中って不良とかいるらしいよ」

 「え〜?まじで?」

 「そうそうマジ。いつも机とか教卓の上とかに座って野球のバットを持っているんだって!」

 「待ってそんなところいきたくないんだけど〜w。それって本当の話なの〜?」

 「本当だって。だってお兄ちゃんが言ってたんだもん。あの中学校通い始めてから明らかに態度代わりはじめてさぁ…」

 「それって千橋中にはいった人たちはみんな不良になるってこと〜?」

 「いや、そうでもないみたい。不良はいるけどちゃんとまともな人はいるみたい」

 「え〜?本当かなぁ…」

 バカバカしい。そんな不良のテンプレートみたいなやついるわけがない。この子の話すことは全部自分が強く見せるために話しを盛っているに過ぎない。そうやって突き放した過去の僕にも一発打ち込むことはもうわかっている。うん、わかっているはずだ。

 正門がグラウンドへの入口でもあることで、学校全体が嫌と言うほど大きく見える。でもその校舎と体育館倉庫の間に人…おそらく先輩だろうか。先輩方が三人ほどいて、何やら喧嘩している。制服も着崩しているせいで一瞬他校の生徒か?と見間違えた。その手にはどちらもバット。あ、コウモリではなく野球の方のバットだ。それを持って殴り合っている。僕の自慢の視力でなんとか分かるほどだが、脇のあたりから鮮明なほどに赤い、いや、鮮明だったら視力悪い人でも見えるか。とにかく、おそらく血であろうものが見えている。

 こんなことになるのなら真面目に受験勉強すればよかった…という後悔をしても過去に戻れるわけではない。それでも身勝手な想像というのは脳が安心感を求めてするものだ。

 そうこうして正門の前に立ち止まっていた僕だが、おそらく不良予備軍であろう人が「どけよ」というので仕方なく先に敷地に入ってあげた。「どけよ」と言われた場所から一瞬でどいたので、今度は校庭の第一歩目で止まる。僕の読みは当たっていたようで、ちゃんとどいたことを理解している不良予備軍くんは怒りなのか自身のつくったプライドを理解してないだけなのか。まあどちらにしろ何を混ぜたらこうなるんだと言いたくなる表情で真っ赤な顔をしていた。でも僕への視線はちょっと珍しいものでも見ているような感じだった。

 そうして充分に不良予備軍くんで遊んだあとはもちろん歩きで玄関へ直行。金目のものになりそうな倉庫と足りないんじゃないか?と心配するほどの狭い下駄箱が窓ガラス越しに見える。奥の階段を隠している真っ白で合ったであろう紙には黒い油性ペンのような字体の印刷でこう書かれてた。

 「玄関から入って左側にある靴箱に靴を入れてください」

 字の読めない不良予備軍くんは開けっ放しの玄関という状態を作ってビニール袋に靴を入れていた。それ自体は悪くないが、指示に従わないと今後学校側に迷惑をかけるぞと心で訴えかける。そうするとあら不思議、自然と視線で会話をできるようになります。でも話しても聞こえなければ返事ができないように、目で訴えかけても視線を合わせてこなかった不良予備軍くんはそそくさと階段を登っていった。

 それを見届けた僕も玄関から校舎内へ入り、その直後、本当にすぐに気温より熱くなったドアノブを掴んでドアを締めた。

 お望み通り玄関から入って左側にある靴箱に向かうと、ご丁寧なことにすでに名前の入っているシールがいくつも貼られていた。その左の文字にはクラスと出席番号まで書いてある。くそ、これじゃあクラス発表の楽しみがなくなるじゃないか。

 同じ小学校から来た子の名前が入っていないかを確認していると、やはり不良校の名誉は小学生のときから与えられていたようで何人かの生徒は靴の入れ方が一般的にだめだめだった。

 これから僕はこんないやなやつらと過ごすのか…と落ち込んでいるところにやはり印刷済みの紙は目に入ってきた。今度は「二階の階段を上がったそばに体育館の入口がありますのでそちらからお入りください」と文法だけは丁寧に書かれていた。周りの印刷ではないだろう落書きはいったいなんなんだ。

 持ち物に上履きは書かれてないので持ってきていない。多分そういうことだろうと考えてやけに一段一段が低い階段につま先だけ乗せて上がっていく。細かく速く動くなんて嫌だから途中からは二段飛ばしで登っていった。途中で真っ直ぐな階段の前を見ると、階段の側面の連鎖で大きな文字が読める。なになに?「入学おめでとう」だって?明らかに黒字のみで書かれてても祝福には見えませんよ?

 階段を登り終えるとすぐ右側に体育館の入口が合った。そこの中に吸い込まれるように入っていく人影を見つけた僕は、「これが最悪の人生の始まりか…」とわざと後ろの人にも聞こえるように言った。気配で「?」となぜか「!」の信号を受け取ったことで後ろの人を少しでも救えたことになるんだろうか。自分の功績をいまから少しでもあげたい僕には今だけ、たぶん今だけ些細なことでも自分を褒めたくなる。

 明らかに古い校舎では鍵の壊れた窓を開けっぱにしていた。それがわかった僕はいま強い風が入ってくる窓の下…床を見つめ、踏み荒らされた証拠の少し色の濃い桜の花びらを見ている。全く…この学校はまともに掃除もできないのか。ほら、僕だったら時間ギリギリまで一人で掃除してたぞ。人気のないトイレ掃除にさせられたからな。

 もちろん靴下のままで入った体育館はすでにたくさんの人で溢れかえっていた。僕がのんびりしていただけでもあるのだが、それでもこの人の多さにはびっくりするし、なにか変な感じがする。真ん中の席あたりで千橋中の教師であろう人が「新入生のみなさんはここでーす」とメガホンで叫んでいる。先生が一年生の座る席であろうところを体全体で表現していると、僕は違和感の正体が何なのか小説の種明かしのように驚き(びっくり?)、そして同時に頭を抱えた。あ、頭を抱えたというのは比喩ね?

 この違和感の正体は新入生が少ない、そしてその他の人たちが殆ど先輩だということだ。おそらく毎年入学式は学校全体でやるのであろう。しかしそれでも先輩たちと新入生の比を考えると、明らかに新入生は少ないことがわかった。

 まずはざっと見た感じの先輩たちの数。その数およそ200人。そして新入生であろう人々の数。ざっと30人。僕が生まれた年には大きな事件や災害はなかったはずだ。そのせいでこれを見ていると気持ち悪くて仕方がない、というのは嘘だ。自分自身に嘘をつく新しいタイプの変態だ。

 とりあえず来た順で案内されたパイプ椅子には座った。もちろんこちらもかなりの古物で、ゆっくり座っても「ギギーッ、キーッ」とうるさく鳴った。普段なら厳しく注意するところだが、あいにく相手は心のわからない椅子なので無駄な体力を使うことをやめた。

 しかし、一つ疑問がある。なぜ一個椅子を開けて座らせている?先生、これはどういうことですか?___無視ですか。まぁ心で会話できる人なんていませんもんね。

 そして自分の後に席についた新入生5人は額に流れる汗を新調の制服で拭い、その後すぐに入学式が始まった。周りを散歩していた不良方もこれは流石にやばいことになることを学習済みなのかおこられたくないだけなのか。そこは不良になったことがないのでよくわからないが、教頭先生であろう人の声が聞こえるとすぐに走って席についた。いや最初から座れよ。

 こういう学校行事のときは無心になるのが一番だ。他の子もそれは共通認識のようで無心になろうとしていることが読み取れる。中には背もたれに頭を乗せて寝る人も…ん?

 いくら無心であろうとも話を聞き逃すとあとで厄介なので、耳への入力信号を脳で文字化して保存するというプログラムは実行してよう。途中で校長が、「我が校の生徒はみんな優しくてお互いに積極的に協力しており…」とか言ったときは「そんなことないだろ」とおもったが、それ以外は特に何も考えることがないのでそのまますぐに家に帰ることができる。はずだった。

 「えー。それでは入学式も終わりましてプログラムの9番、新入生と在校生による交流時間です」

 学校説明会のときにもらってきた入学式の案内紙とかタイトルに設定してある資料にはそんなことはかいてなかったはずだ。いや、よく思い出して見れば案内紙には当日の持ち物と時間、場所しか書いてなかったぞ。

 これほどまで嫌がることはほとんどないとないと思うが、一応今考えた言い訳をまた盾にするとあらかじめ話す内容を決めてないということが原因だ。せめて今からでも急いで考えよう。

 そうして僕は頭をフル回転させたのだった。



































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 ___駄目だった。流石にこの短時間で不良が来てもいいような話題を考えてた僕だが、ついに今まで聞いていなかった教頭先生の声で自己紹介のシンキングタイムが終わった。それに話を聞いていなかったせいで何を、例えば自己紹介とかすればいいのかも知らない。せめてまともな人が来てくれ、まともな人。

 「新入生の皆さんは座って待っててください。それでは二年生33人は自分の担当の席に座ってください」

 まあまあ察しのいい僕はこのとき初めてとなりに一個ずつ空けた席の真理がわかった。それでも僕は自分の不幸を和らげようと今だけ強く願っている。どうか神様、僕のとなりの席にはまともな人をよこしてください。

 しかし僕のとなりに来た人は、あまりまともそうな人ではなかった。

 「それでは話し合いを始めてください」

 ちょっと言葉選びがおかしい開始の一言に押された僕は、気になっていたことを話した。

 「あの…なんで髪が青緑色なんですか?それになんか前髪と横髪にオレンジ色のメッシュみたいなのありますけど?」

 ちょっと喧嘩腰だが、不良、あるいは不良のそばで生きてきた人だと思えばそこまで相手は傷つくはずがない、というのは勝手な解釈でありそうとも限らないことは知っている(???)。

 その先輩はちょっと苦笑したあと、様子を伺うようにちゃんと質問に答えてくれた。

 「あ〜これね。俺のこの髪は生まれつきというかなんというか…つまり『能力持ち』なんだよ…」

 さすが不良校の生徒、よくわかってらっしゃる。ちゃんとため口で返してきた。

 「染めているわけじゃないですよね?そういう詐欺をする人いっぱいいますけど?」

 「いや、そうか、じゃあ一個聞いてもいい?」

 「なんですか?」

 「君のその髪もきれいな青色だけど…?」

 「まあそうなりますよね。はい。僕も能力持ちです。決して染めてなんかいませんそこら辺の詐欺師と一緒にしないでください」

 「わかった。たぶん君はちゃんと能力をもってるんだよね。でもかなり口悪いね…」

 「この学校の生徒じゃなければちゃんと丁寧に話せます」

 「あーうん。それはすごく偉い。えで、君の名前は何?」

 やばい、ちゃんと自己紹介を考えてなかった自分をすごく殴ってやりたい。今度は腹のど真ん中かな?なんだよ髪の色が変ですよって。普通最初は名前を聞くだろ普通。

 「あ、すみません。僕の名前は『須埜 朝麻(すの あさ)』といいます。漢字は須藤の須に木が上に2つあって下に土がある漢字で、名前の方は朝食の朝に麻紐の麻です。これからよろしくお願いします」

 「ご丁寧にどうも。あ、これからよろしくね。俺の名前は『兎耳 綾真(せっけつ あやま)』。漢字は兎に耳が名字で、よく名前にでてくる綾に真面目の真が名前。珍しいでしょ。」

 「聞いたことないです…。そんな名字…。」

 「まあ多分全国で俺の家族しかいないからね」

 「え?!そうなんですか?!」

 「まあ当て字がすごい名字だから…。それはそうとはいえ、朝麻の性別ってなに?」

 「?…普通に男ですけど…。あ、もしかして僕のこと女かもしれないっておもいました?」

 そう、自分で言うのも何だけど僕は中性的な顔をしている。間違われても仕方ない。たぶんそういうことだ。

 「うん。やっぱり男だ。よかった。ちなみに俺の性別はわかる?」

 こうやって聞くときはだいたい間違えると思っている聞いているときだ。たぶんちょっと怪しんで僕が「女」とか言ったところに「ブッブー、男でした〜」とか言うんだろうな。よし、生まれながら優秀な頭脳をもった僕は騙されないぞ。

 「男…ですよね…?」

 でもこのどこに女の子要素があるんだろう?とか考えてたけどそれを考えるのが違うことだとわかった。

 「ブッブー、正解は…性別なんてありません〜!」

 「…は?」

 でもこのような反応をしたのは印象に悪いものだとわかってやっていた。どうしても意味がわからなかった。いや、わかりはするんだけど。

 「俺に性別なんてない!身体的に!生まれつき!!!」

 「いやいや…え?」

 「ということでマジの話だから把握しておいてね」

 どうやらそれは本当の話らしいby兎耳先輩…ということだ。でもいまは交流会。ちゃんと相手のことを知るのはこの時間の趣旨にあっている。よって無罪。

 「はい…わかりました…。そういえばさっき兎耳先輩も能力あるって言ってましたけどどういう能力なんですか…?」

 「それについては言えないかな?」

 「やっぱり詐欺じゃないですか…」

 「まあ詐欺と疑われるのも仕方ないね。でも言えないのは影響力の強い能力だから。はい、こんどは朝麻が答えてね」

 「…僕もあんまり能力の事が知られると困ります…。タダでさえ数少ない能力者は誘拐されやすいんですから…」

 「…たしかにそうだね。朝麻はかしこいよ。俺もできる限り誘拐はされたくない」

 「…話題を変えましょう。兎耳先輩は何部なんですか?」

 「そうだね…俺は唯一無二の科学部だよ。お陰で一番期待されているスターさ☆」

 「ふざけないでください」

 「ごめん。これは俺が悪かった。で、つまり俺の部活には俺しかいないんだよ」

 「…と、なると?」

 「すみません!科学部に入ってください!おねがいします!」

 「ええ…でも部員は5、6人いないと無理じゃないですか?」

 「この学校は2人から部活が成り立つ」

 「校則めちゃくちゃですね」

 「逆に自由がきいていいんだけどね。でも不良多いからこの学校…」

 「兎耳先輩は不良じゃなかったんですね」

 「まあな。ということで入ってくれませんか?」

 「保留します」

 「科学部は無料で実験し放題。そしてなぜか予算も多いし科学部だけ無料で砂糖がつまみ食いできます」

 「ぜひ入らせてください」

 「はい喜んで」

 「あ、喜ばなくて結構です」

 「冗談だって。ありがと。」

 「どういたしまして」





























 _____いつのまにかものすごい仲良くなっていた。













































 入学式も終わり、帰り道。

 僕はちょっとだけ、学校が楽しみになった気がします。












































 「あ?お前どっちみてんだよ?」

 やっぱりテンプレのような話し方を聞いた僕はさっきの言葉を冗談にします。はい、すみません。





























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どうもタイです。

思うがままに書いています。

ちなみに制作時間は六時間です。はい長い。

ちなみに僕は兎耳が好きです。

ここから二人の関係がスタートしていきます。

どんどんコメント・応援よろしくお願いします。

できるれば皆さんにコツとかを教わりたいです。(指摘とか)

それではまた次のお話で

See You Later. Have A Nice Day.

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