Int.1 最近のはなし

ここは大将が小料理屋『ゆうなぎ』をやっている巨大都市『リアナ』の

一等地にあるとある豪邸の中。

周りはすでに夜になっていて、星空が広がっている。


その豪華な家の中には小料理屋『あさぎり』店長のオルクが寝る寸前なのかベットの中にいた。

ただ、何かイライラしているのか小言を呟いている。



「くそっ、あのクソ女。

俺に魔法を撃ってくるなんて……イライラする!!

何が『ごめん~手が滑っちゃった~』だ。

誰だあいつ、今度会ったらボコボコにしてやる……」



そう言いながら、オルクから寝息が聞こえ始めた。



・・・・・・


あの店が急に現れて2年。

初めは雑魚店だと思って無視してた。

こっちの店の方が圧倒的に大きいし、人気店だったからだ。



だが、ここ2年であっちの店が人気になり、

俺の店の売り上げががくっと下がっている。

とはいえ、まだこっちの店の方が売り上げ的には高いはずだ。



確かに、あの店で出てくる料理はこの町では見られない料理が多く、

それを目当てに来てるやつもいるのはわかる。

だが、2年前はタブーだった魔族を入れていい店にしやがった。



結局それで初めは嫌われていたものの魔族だけでなく、

人間からも人気になったからか、

他の店もほとんどが魔族をOKにしやがった。



クソ、やっぱりイライラしやがる。

どうして魔族が許せるんだ?

ほんの数年前まで人間の敵だったはずなのに。

ここの町に居る人間はポンコツなのか?



何度もあの店に忠告をしに行ったというのに、

毎回無視しやがって。

痛い目に合ってもらうため、数日前に店の前のゴミ箱を燃やしてやった。

そのまま店が全部燃えればよかったものの、すぐに火が止められちまった。

運のいいやつめ。



まぁ、あの野郎が毎日拝んでやがる気持ち悪い祠もぶっ壊してやった。

いい気味だ。

そう言えば、祠を壊した時、

白い長いひげの爺が祠の前に気づいたら立ってて気持ち悪かったなぁ。

なんか、この世界とお前がヤバイ的なことを言ってた気もするが……

まぁ、ボケ老人のことを気にしても仕方ないか。



あと、火をつけた瞬間を衛兵に見つかったときは焦った。

その衛兵を買収するのに金がかなりかかったのは痛手だったが、

今もつかまってないし、そんな困ったことでもないか。

まぁ、金さえあればどうにかなるし。



そう言えば、この前にボヤであの店がどうなったか見に行った際に

魔族の女を雇ってやがったな。

何度忠告したらわかるんだ?

あいつの頭は空っぽなのか??



クソ女が入ったせいで何もできなかったが、

またあの店でボヤを起こして痛い目を見てもらうのもありだな……



・・・・・・・



オルクは目が覚める。



「クソみたいな夢だった」



そう言うと、のろのろとベッドから出て、朝ごはんを食べ、家を出た。



「あんな魔族を雇うような店なんて、

ほっておいても勝手につぶれるさ」



そう呟きつつ、自身の店の方向へ歩いている。




ギン!!!!

ゴゴゴゴゴゴ……




突然、何か切れるような音が鳴った後に

建物が崩壊する音が町全体に響く。

オルクの周りの人も変な音が鳴った方向をみんな見ていた。



ただその音は、オルクが今向かっている方向と同じだった。



「まさかな……」



オルクはそういうと、少し小走りで自分自身の店の方に向かう。

そして、角を曲がり自身の店『あさぎり』があった場所を見る。



「どうなっている……」



オルクは店の前まで行くものの、そこで立ち止まり、

手に持っていたカバンを自然と手放す。


目の前には上半分がきれいさっぱり無くなった店があった。

無くなった上半分は、店の横にがれきになっていた。



「店長!大丈夫でやんすか!?」



後ろから小柄な男が声をかけた。

その声にオルクは怒鳴る。



「黙れ!!!どうなっている?

 どうして俺の店の上半分が無くなっているんだ?

 そもそも誰が……誰がこんなことやれるんだ?」

「それは……わからないでやんす」

「どうでもいい!は、はやくこの店を修理しろ!!」

「あいあいさ~!」



小柄の男は走り去る。

オルクは目の前の光景が信じられないのか、膝から崩れ落ちた。



「本当に、どうなってやがる……」



膝から崩れ落ちて動かないオルクの横を、細い煌びやかな剣を持った男が

ニコッとしながら通った。

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