ep.3-1 小料理屋ゆうなぎ 開店中!!
ドワーフのルトが帰った後。
色々話し込んで時間が経ってしまっていたためか
大将は大慌てで必死に夜の営業に向けて仕込みを始める。
すずねは机を拭き終わってやることが無いのか、
のんびりとカウンター越しに大将の様子を見て質問をしている。
「これはなに?」
「これは肉じゃがだね」
「きのいたもたべるの?」
「木の板……落とし蓋のことね。
これは味を染み込ますために少しだけふたをしているんだ」
「ふーん。じゃあ、これは?」
「これはね……」
すずねは見るものすべてが新鮮なのか、
それとも大将と話すのが楽しいのか、ニコニコしつつ尻尾を左右に揺らしながら、
料理をしている大将とずっと話しをしていた。
大将も手を止めずに料理の準備を作り続けつつも、
すずねとの会話が楽しいのか笑顔で一つ一つ丁寧に教えていた。
そして夜の営業時間になり、大将は店の表に置いてある看板を
【開店中】ひっくり返した。
開店直後から人間、魔族を問わずたくさんの人が入る。
とはいえ、店は小さいため、席はすぐに埋まってしまう。
人間同士、魔族同士で店に入る場合もあるが、
人間と魔族という組み合わせもあった。
ただ、今日はいつもと異なり店に入る人は全員入り口で一旦止まる。
そして目の前の光景に目を丸くする。
「いらっしゃいませ~!!!」
少しまったりした話し方で、すずねが接客をしていた。
入店する全員が、すずねをじっと見る。
大将と同じ白い割烹着を着ているが、頭の耳と尻尾は隠れていなかった。
尻尾は常にパタパタと横に振られている。
そして満面の笑みで接客している。
「おせきにどうぞ!!」
その笑顔からなのか、可愛さなのかはわからないものの、
入店する人間、魔族問わずみんな笑顔になっている。
すずねが、空いているテーブルやカウンター席に案内をして、注文を受ける。
「たいしょう!とりのからあげひとつ!!」
「はいよ」
大将はすずねからのオーダーされた品をテキパキと作っていく。
そしてお皿に鶏のから揚げを作り、叫ぶ。
「すずねちゃん、鶏のから揚げできたよ」
「はーい」
大将から受け取った料理をすずねが客までもっていく。
尻尾をパタパタと横に揺らしながら運ぶ姿は自然と周りのお客の目線を集める。
「とりのからあげおまち!」
「ありがとうね~......今日から?」
「そうだよー」
「へー。名前はなんていうの??」
品物を受け取ったお客はすずねと話したいのか、
名前を聞こうとする。
ただ、その様子を見た大将は少しため息をつきながら、叫ぶ。
「すずねちゃん!あっちのお客さん!!」
「はい!!」
すずねは大将の指す方向にすぐに動く。
大将は小さな声で呟く。
「人気なのは嬉しいが、今日だけで何回目だ?
途中から数えるのやめたからわからん。
すずねちゃんも愛想がいいからつい話を聞いちゃうし......」
大将は料理を作りつつ、すずねが変な客に絡まれないかしっかり見ていた。
そうこうしてめまぐるしく働いていると、
あっという間に夜も深くなり営業終了時間ギリギリになる。
「ふぅ……今日はいつもよりハードだったな。
すずねちゃんに助けてもらったってのに」
大将は深く息を吐く。
ずっと満員だった店内もパラパラと数人いるぐらいになった。
時計を見た大将は、営業終了の準備を始める。
すずねは疲れ知らずなのか、ニコニコしつつ空いている机の拭き掃除をしている。
すると、店の扉が開いた。そこには男と女が立っていた。
男も女もラフな格好であるものの、女の方は頭に角がついていた。
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